北朝鮮は東京五輪に出るのか、金メダル候補はいるのか?重要人物が激白

リオ五輪・男子体操の跳馬で金メダルに輝いたリ・セグァン(写真:ロイター/アフロ)

2020年東京五輪の開幕まで1年を切った。200以上の国と地域が参加する予定だが、個人的に気になるのは朝鮮民主主義人民共和国(以降、北朝鮮)のことである。

選手団は30‐40人規模ながら、直近の夏季五輪3大会では金メダル2→4→2と着実に結果を出している。1996年アトランタ五輪で田村亮子を破ったケ・スンヒや、リオデジャネイロ五輪の男子体操で超難度の技を成功させその名が技名になったリ・セグァンら、オリンピックになると世界をあっと驚かす選手が飛び出すのが北朝鮮でもある。

そんな北朝鮮は今、東京五輪に向けてどんな準備を進めているのか。金メダルを狙っている競技は何か。隠し玉はあるのだろうか。

リオ五輪の男子体操・跳馬ではリ・セグァンが白井健三を抑えて金メダルに輝いた。(写真=ロイター/アフロ)
リオ五輪の男子体操・跳馬ではリ・セグァンが白井健三を抑えて金メダルに輝いた。(写真=ロイター/アフロ)

それらを知る人物が日本にいる。

在日朝鮮人3世の宋修日(ソン・スイル/48歳)氏だ。宋氏は朝鮮大学校(東京都小平市)の体育学部長を本業とする傍ら、在日本朝鮮人体育連盟の副理事長も務めている。今年は既に3回も平壌(ピョンヤン)に飛び、五輪を担当する朝鮮体育省の幹部とも面会している。8月中旬、北朝鮮から帰国したばかりの宋氏に東京五輪へのスタンスを聞いた。

――東京五輪まで1年を切りました。北朝鮮はまだ正式に参加表明していませんが五輪についてどう考えているのでしょうか?

「選手や関係者たちはオリンピックという4年に1度のスポーツの祭典を目指して、日夜努力を重ねています。平壌でも東京五輪に向けての会議がありましたし、関係者から出場に関して否定的な言葉を聞くことは一切ありませんでした」

取材中の宋修日氏(撮影=一原知之)
取材中の宋修日氏(撮影=一原知之)

――平壌にはよく行かれるのですか?

「はい。私は朝鮮空手道連盟の副書記長や空手朝鮮代表のコーチも任されている関係で、年に3~4回は行きます。正直、2年前はまだ東京五輪に実感がないようで、体育省の関係者に聞いても“その時期の東京はどれくらい暑いのか”程度のことしか聞かれませんでした。しかし、去年ぐらいから東京五輪について細かく聞いてくるようになりましたね。出場に大変意欲的で発言にも力がこもっていました」

――具体的には?

「“参加できるすべての競技種目で出場権を獲得して、ひとりでも多くの選手を東京五輪に送り込もう”と。国もそうした目標を達成すべく、この夏には平壌の青春通りに“体育人宿所”が竣工しました。青春通りは水泳、バレーボール、ウェイトリフティング、アーチェリーなど、サッカー以外のあらゆる種目の練習施設が集まっています。体育人宿所は選手たちの宿泊施設です。つまり、長期合宿も可能なナショナルトレーニングセンターのような場所ですね。そこにあらゆる種目の選手が集まって、東京五輪を目指してトレーニングに励んでいます」

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平壌ではスポーツ中継が増加

――北朝鮮はもともと“体育強国の建設”を国家的スローガンに掲げていて、金正恩朝鮮労働党委員長が就任してからは特にスポーツ分野に力を入れていると聞いています。そういった熱量を感じたりはしますか?

「感じますね。朝鮮では特にサッカーが人気で、一般に広く浸透しています。平壌市民との何気ない会話の中でクリスティアーノ・ロナウドやメッシといった世界的なスター選手の名前が出ることがあります。以前はそういったことはありませんでした。やはりここ数年、スポーツ中継が多くなっていることも関係していると思います。それだけ一般市民のスポーツへの関心が高まっている証拠でしょう」

――ただ、情報規制はありませんか? 朝鮮の選手たちが勝った試合だけとか?

「そんなことはありません。私は10代の頃から30回以上訪朝していますが、スポーツ中継に関してもっとも変化を感じるのは、確か2010年南アフリカワールドカップからだと思うのですが、朝鮮が負けた試合であってもリアルタイムに近い状況でテレビ放映されていることです。前回リオ五輪の時はたまたま平壌にいたのですが、ウェイトリフティングの男子56キロ級で金メダルを有力視されていたオム・ユンチョル選手の競技模様も中継されていました。彼は銀メダルに終わり、そのニュースがまるで悲劇のように広まって、ホテルの従業員たちさえもかなり落胆していました」

――北朝鮮の人々もオリンピックの結果に一喜一憂するわけですね。それだけオリンピックへの関心が高いということなのでしょうが、東京五輪に向けて期待の選手はいますか。

「柔道、レスリング、ウェイトリフティングなど、やはり過去にメダルを獲得している種目の選手は期待が大きいです。例えばウェイトリフティング女子75キロ級で五輪2大会連続金メダルのリム・ジョンシム選手。彼女は今年4月のアジア選手権でも世界新記録(合計278キロ)を樹立しており、当然東京五輪でも期待されています。あとは前回リオ五輪の男子体操で金メダルを獲得したリ・セグァン選手ですね。今年で34歳になりますが、彼も東京五輪に参加すると想定しています」

ウェイトリフティングで五輪2大会連続金メダルのリム・ジョンシム(写真=ロイター/アフロ)
ウェイトリフティングで五輪2大会連続金メダルのリム・ジョンシム(写真=ロイター/アフロ)

―そのほかに期待されている選手は?

「女子レスリングのパク・ヨンミ選手です。階級は、吉田沙保里選手の独壇場だった53キロ級。今年4月のアジア選手権では“ポスト吉田沙保里”と言われる向田真優選手を破って優勝しました。彼女は2013年、2018年、2019年とアジア選手権を制していることから“三重アジア選手権保持者”と言われています。そして、女子ボクシング51キロ級のパン・チョルミ選手ですね。昨年のアジア大会では銀メダルに終わりましたが、世界女子ボクシング選手権では見事に優勝し“人民体育人”の称号も得た25歳です。朝鮮では、今かなり有名な選手ですね」

――北朝鮮のメダリストといえば女子柔道のケ・スンヒ選手が有名です。彼女は今でも英雄ですか?

アトランタ五輪の決勝で田村亮子を下したケ・スンヒ(写真=ロイター/アフロ)
アトランタ五輪の決勝で田村亮子を下したケ・スンヒ(写真=ロイター/アフロ)

「もちろんです。アトランタ五輪で金、世界選手権で4度優勝した彼女は“四重世界王”と言われています。2010年の引退後は牡丹峰(モランボン)体育団の女子柔道コーチ職にありましたが、昨年から監督に昇格しました。彼女は“第二、第三のケ・スンヒを輩出する”と公言してきました。昨年のアジア・ジュニア選手権では彼女の指導を受けてきたチョ・ソンヒャン選手が優勝しました。今後のさらなる活躍が期待されています」

――もしかすると、東京五輪でも世界を驚かす選手が現れるかもしれないということですね。

「ええ。ただ、体育省の関係者は我々にすべてを明かしてはくれません。選手や期待種目の状況について私が細かく尋ねると、“それについてはまだ話せない”“国家機密だし、どこで秘密が漏れるかわからない”と笑顔でかわされてしまいます。まぁ、そういうところが虎視眈々と五輪メダルを狙っている彼らの本気度だと受け止めています」

―ちなみに五輪期間中の滞在先や事前キャンプなどは?

「期間中は過去の夏季大会同様に選手村に滞在することになると思います。事前キャンプに関しては、ある大学と協議を進めています。選手団の来日が決まった際にはガッチリ手を組んで、選手団を迎え入れたいと思ってます」

リオ五輪開幕式での北朝鮮選手団(写真=ロイター/アフロ)
リオ五輪開幕式での北朝鮮選手団(写真=ロイター/アフロ)

――改めてもう一度お聞きしますが、北朝鮮は東京五輪に参加する強い意志があると考えてよいですね。

「もちろん。私は2014年仁川(インチョン)アジア大会や2018年ジャカルタ・アジア大会でも朝鮮選手団と行動をともにしました。選手、関係者、役員すべてがその先の五輪を意識しているんですね。東京だから出ないというようなことは少しも感じられませんでした。決定的だったのは昨年9月の南北首脳会談で発表された平壌共同宣言です。その中に、“北と南は2020年夏季五輪をはじめとする国際競技に共同で積極的な進出する”と明記されたのです。共同宣言にはっきりと記された以上、朝鮮が東京五輪に参加しない選択肢はない。私はそう理解しています。昨年の平昌(ピョンチャン)五輪の出場がそうだっだように、来年の新年の辞で、金正恩委員長から東京五輪に関することが出るのではないかと私は思っています」(つづく)