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【直撃取材】女子ゴルフ界のレジェンドである朴セリは今、どこで何をしているのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
朴セリ(撮影:KANG MYUNG HO)

女子プロゴルフ界最高の選手は誰か。その答えはさまざまだろう。メジャー10勝を含む通算72勝を挙げたアニカ・ソレンスタム(スウェーデン)の名を挙げる人もいれば、そのソレンタムを抜いて世界ランキング1位になったこともあるロレーナ・オチョア(メキシコ)の名を挙げる人もいるかもしれない。

外国人として初めてアメリカツアーで賞金女王になった岡本綾子を推すオールドファンもいるかもしれないが、アジアが生んだ最強のゴルファーと言えば、韓国の朴セリの名前を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。

朴セリといえば、1998年にいきなり「全米女子オープン」と「全米プロゴルフ選手権」を制して彗星のごとく現れた人物。全米オープン優勝時の彼女は当時まだ20歳9か月で、史上最年少優勝でもあった。

2001年には全英女子オープン優勝。翌2002年には2度目の全米女子オープン優勝を果たし(2006年にも優勝している)、韓国に空前のゴルフ・ブームを巻き起こした人物だ。

現在、アメリカ、日本、韓国には彼女の影響でゴルフを始めた選手が多く、“朴セリ・キッズ”であることを公言する女子プロたちは多い。イ・ボミ、キム・ハヌルなどの“韓国女子ゴルファー神セブン”に数えられる選手たちも、朴セリに多大な影響を受けたとしている。

(参考記事:イ・ボミ、アン・シネ、そして…韓国女子ゴルファー“神セブン”を一挙紹介!!【PHOTO】

そんな朴セリも2016年シーズンを最後に現役引退。その年の3月に引退を表明し、夏には2016年リオデジャネイロ五輪で女子ゴルフ韓国代表の監督を務めたあと、10月に韓国で行われた『KEBハナバンク選手権』を最後にその選手生活にピリオドを打った。

あれから2年。その後、朴セリがどんな生活を送っているかということもさることながら、昨今の女子ゴルフ界を彼女がどう見ているか直接聞きたくて、今年3月に取材を申し込んだ。

ただ、女子ゴルフ界のレジェンドにして韓国の国民的英雄として今も絶大な人気を誇る彼女だけに容易ではなかった。

マネージメント会社によると、選手時代に拠点を置いていたアメリカと韓国を行き来するだけではなく、フィリピンなどにも足しげく通っているそうで、なかなかアポが取れなかった。引退してもなお世界各国のメディアからの取材依頼が殺到する中で日本からの取材申請は埋もれてしまったか…。そう諦めかけていたとき、急遽インタビュー許可が下りて急いで韓国に飛んだ。

「わざわざ日本から来てくださってありがとうございます。もっと早く取材に応じたかったのですが、春はアメリカにいましたし、韓国に戻ってからもテレビの収録や試合の解説などもあっていろいろと忙しく、なかなか時間が取れずすみません」

挨拶するなりそう言って出迎えてくれた朴セリ。さっそく近況について尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。

「いろんなことをやっていますよ。メジャー大会のテレビ解説者もやっていますし、テレビのバラエティ番組などにゲスト出演することもあります。ワインの輸入業者とコラボしてワイン事業もやっていますし、アパレル事業もやっていますが、やっぱりもっとも多いのはゴルフに関係する事業ですね。

例えば今はフィリピンのゴルフ場設計にも携わっています。主にコース設計などを担当していますが、今後はアカデミー運営やジュニアの育成プログラムなども始めようと、いろいろと準備している最中なんです」

朴セリがジュニア育成にも乗り出していることは噂で聞いていた。

今年4月、朴セリはアメリカのオーガスタ・ナショナルCCで行われた第1回オーガスタ・ナショナル女子アマチュアに招かれ、アニカ・ソレンスタム、ロレーナ・オチョア、ナンシー・ロペスらとともにスペシャルゲストを務めたたが、彼女はその足でカリフォルニアに移動し、自身の名を冠したジュニア大会を開催していた。将来的には、ゴルフ財団の設立も検討しているらしい。

「単に韓国人ゴルファーの育成のためでなく、アジア全体の女子ゴルフを活性化させたいという思いがあるからです。フィリピンに行ったりするのも、そのためです。韓国だけではなく、日本、中国、東南アジアなど、アジア圏内で女子ゴルフをもっと盛り上げて、世界に通用する選手をアジアからたくさん輩出したい」

アジアの女子ゴルフを盛り上げたい。いきなり壮大な夢が飛び出したが、なんでも朴セリは現役時代からそんな思いを抱いていたという。

「私を通じてゴルフの夢を育み、実際にプロになって実現させてきた後輩たちが多いじゃないですか。彼女たちは“セリ・オンニ(韓国語で姉さんという意味)に憧れてゴルフを始めた”と言ってくれるけど、私にとっては彼女たちが“私の新しい夢”になったんですね。

ゴルフの先輩として、そんな彼女たちやそれに続く若い人たちのために何ができるだろうかと考えていくと、やりたいことがたくさん増えてしまったんです。例えばビジネスに乗り出したのは“ゴルフ以外にもできることはある”ということを示したかったから。

それに長く選手生活を送ってきましたから、選手の成長過程で何が必要で、どんな環境を整えるべきか、何を改善しなければならないのかなど、自分なりの考えもあって、それをひとつずつ具体化していくために日夜勤しんでいます。

引退後の生活?楽しいですよ(笑)。選手時代には知らなかったこともたくさん学び経験できていますから。選手時代がフロントナイン(前半9ホールのこと)だとすれば、今は人生のバックナイン(後半9ホール)が始まったばかりでしょうか。しかも、ゴルフで言えば、グリップの握り方から教わっている感じ(笑)。ただ、それもまた楽しいんですけどね」

人生のバックナインを始め、今はグリップの握り方から教わっている。いかにも引退した名選手らしい穏やかでユニークな表現だった。

そして、だからこそ気になったのはレジェンドの目に映る女子ゴルフの現在だ。韓国のこともさることながら、日本の女子ゴルフについて彼女が具体的に語った例が決して多くはないだけに、余計に気になった。

朴セリのロングインタビューはまだ始まったばかりだった。

*この記事は韓国スポーツ新聞『スポーツソウル』の協力で実現した独占インタビューであり、本稿掲載の許可を得ています。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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