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「皇帝・羽生結弦は手ごわいが…」フィギュア世界選手権に挑む韓国チャ・ジュンファンの期待度

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
チャ・ジュンファン(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

昨日3月20日に開幕したフィギュアスケートの世界選手権。5年ぶりに日本で行われている大会に関心が集まっているが、本日ショートプログラム(SP)が行われる男子シングルも注目されている。

羽生と宇野に韓国も注目

特に期待を集めているのは、羽生結弦と宇野昌磨だろう。平昌五輪金メダリストの羽生は右足首の負傷から復帰。2月の四大陸選手権で逆転優勝を飾った宇野も初優勝に期待が寄せられている。

韓国でも羽生と宇野は話題だ。

というのも、ふたりはもともと韓国でも知名度が高い。羽生に至っては「日本フィギュア界のコッミナム(花美男)」「フィギュドル(フィギュア界のアイドル)」と呼ばれ、私設のファンサイトまで存在するほどだ。

ワンツーフィニッシュを決めた平昌五輪でも韓国スケートファンから大きな関心を集めていたが、世界選手権でも優勝候補の筆頭に挙げられている。

(参考記事:【PHOTO】韓国紙が撮った羽生結弦と宇野昌磨。その美しき瞬間を振り返る

もっとも、羽生と宇野が注目されてきたのは、韓国男子フィギュアの選手層の薄さとも無関係ではないだろう。

キム・ヨナ人気の一方で男子は…

振り返れば韓国では、2010年バンクーバー五輪の女子シングルで金メダルに輝いた女子のキム・ヨナの登場をきっかけに、フィギュア人気も上昇した。

キム・ヨナに憧れてスケートを始める女子選手も増え、現在は“ヨナ・キッズ”と呼ばれる彼女たちがシニアの舞台で戦っている。世界選手権に臨んでいるイム・ウンスもそのひとりで、「ポスト・ヨナ」と呼ばれて注目されているのは以前にも紹介したとおりだ。

現在もキム・ヨナの人気は健在で、広告モデルなどにも引っ張りだこになっており、彼女から影響を受ける選手も少なくない。

(参考記事:キム・ヨナが久しぶりに近況を報告、優しい表情にファンもうっとり

ただ、男子ではこれといった成果を挙げられてこなかったのも事実だろう。

それどころか競技人口そのものも少なく、「韓国の男子フィギュアはシニア、ジュニアを合わせても10人にも満たない劣悪さだ」と嘆くメディアもある。今年1月に行われた総合選手権大会の出場者も、男子はわずか8人だった(女子は28人)。

そうした状況もあって韓国スケートファンの関心はタレント豊富な日本に注がれ、羽生と宇野の存在も知られてきたわけだ。

ただ今回の世界選手権では、そんな韓国男子フィギュア界の希望の星とされる選手が期待を集めている。チャ・ジュンファンだ。

「羽生に似ている」

チャ・ジュンファンは、昨季シニアデビューした17歳。昨季はシニア1年目にして平昌五輪の代表枠1枠を勝ち取り、韓国男子歴代最高成績となる15位に入った。

今季はグランプリ(GP)シリーズのカナダ大会とアメリカ大会で銅メダルを獲得。GPファイナルでは韓国男子史上初となる銅メダルを獲得して注目を集めた。

羽生結弦を指導するブライアン・オーサー氏のもとでジュニア時代から才能を磨き、オーサーコーチもその潜在能力を「羽生に似ている」などと評価してきたが、シニアの舞台で実際に結果を残しているのだから期待を集めるのも当然だろう。

(参考記事:羽生結弦の師オーサーが韓国チャ・ジュンファンを「羽生に似ている」と評価したワケ

オーサーコーチはかつてキム・ヨナを指導したこともあるが、「韓国はキム・ヨナという特別なダイアモンドを手にしたことがある。ジュン(チャ・ジュンファン)が2番目のダイアモンドになるだろう」とも語っている。

オーサーコーチも太鼓判を押し、国際大会でも活躍。さらに子役出身の甘いマスクも相まって、韓国でチャ・ジュンファン人気は高まるばかりなのだ。メディアは「男子版キム・ヨナ」と修飾語を付けて報じている。

2月の四大陸選手権では、SP2位と好スタートを切りながらフリーでジャンプを成功させられず最終順位6位で終わった中、世界選手権に向けて「クリーンな演技を見せる」ことを目標にカナダで調整を行ってきたというチャ・ジュンファン。

足に合ったブーツが見つからず、今季に入って7~8回もブーツを履き替えていることなど不安要素もあるものの、選手層の薄い韓国男子フィギュアの希望の星としてチャ・ジュンファンが期待を集めていることは間違いないだろう。

メディアは韓国男子史上初のメダル獲得に期待を寄せつつ、「“皇帝”羽生結弦に四大陸フィギュア優勝者の宇野昌磨など競争相手は手強い」(『聯合ニュース』)と日本勢との差が明らかであることも認めている。

昨日の女子SPではイム・ウンスが出場。韓国ではアメリカのマライア・ベルとの衝突トラブルが問題視されて不穏な空気も漂うが、そんな中でチャ・ジュンファンは、初出場の世界選手権でどんな演技を見せるか注目したい。

(参考記事:世界フィギュア出場中イム・ウンス、米国選手と衝突。イジメがあった?

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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