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芸能人のYouTube進出は「まるで小売店を脅かす大企業」とも。韓国の場合

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:ロイター/アフロ)

最近、YouTubeに進出する芸能人が増えている。お笑い芸人だけではなく、本田翼など人気女優もYouTubeチャンネルを開設して話題になったが、韓国でも先日、人気女優シン・セギョンが「YouTubeチャンネルを開設し、動画を掲載した」ことが大きなニュースになった。

シン・セギョンといえば、ドラマ『根の深い木』『六龍が飛ぶ』『匂いを見る少女』などに出演した、実力派若手女優。“王道”を歩いていると言っても過言ではない彼女がある日突然、自ら撮影・編集した動画をYouTubeにアップしたのだ。

動画は、「VLOG」(videoとblogを合わせた造語)と言われる“動画日記”のようなものだった。何気ない日常生活をスマホで撮影・編集し、音楽や字幕なども入れている。

シン・セギョンが自ら手がけただけあって素人クオリティだが、意外にも大きな反響を呼び、1本目の動画が掲載されてから2週間でチャンネル登録者が10万人を突破。現在は30万人を突破している。

ここ数年、YouTubeが急速なスピードで勢力を広げている韓国には、数多くのユーチューバーが存在する。

Google Koreaが2017年末に発表した資料によると、チャンネル登録者が10万人を超える韓国の個人・団体チャンネルは1275個。2018年5月の時点で100万人を突破するチャンネルも100個以上で、つい先日は日本でも洋楽カバーをする人として有名な美女ユーチューバーの超絶歌姫J.Flaが、韓国個人チャンネルとしては初めて1000万人を突破した。

以前取材した美容系ユーチューバー・ナンバーワンのPONY(ポニー)は現在チャンネル登録者が約460万人に及ぶが、「年収は1億円以上」と噂されている。ブログと違って自分が作った動画そのものを収益化できるというYouTubeのシステムと、人気ユーチューバーに憧れを抱く多くの人が、今この瞬間にもユーチューバーを目指しているのだろう。

それは一般人にとどまらない。ここ最近、韓国では芸能人がユーチューバーに転向するケースが増えた。

例えば、お笑い芸人のカン・ユミ、美女演歌歌手のホン・ジニョン、「夢は美容ユーチューバー」とも発言したK-POPグループ「楽童ミュージシャン」のスヒョン、ガールズグループf(x)のルナとアンバー、Apinkのボミ、godのパク・ジュンヒョンなど、自分のYouTubeチャンネルを開設する芸能人が後を絶たず、「YouTubeは芸能人の新天地だ」との言葉も出ている。

前出のシン・セギョンもそういった波に乗ったわけだが、芸能人のYouTube進出をめぐっては賛否両論が渦巻く状況だ。

ファンにとっては好きな芸能人が作ったコンテンツを見られるという楽しみが生まれ、芸能人にとっても新たな収入源と活動の場を獲得できるのはメリットに違いない。

シン・セギョンの動画が特に注目を浴びたのも“私生活がベールに包まれた女優”が、わざわざ自らプライベートを明かしたことにあるのだろう。これまでほとんどの芸能人ユーチューバーが本業での経験を生かして美容関連コンテンツを配信してきたが、シン・セギョンはその前例に追随せずに新しいジャンルを切り開いた。

ただ、プライべートを明かすことはすなわち、自ら危険な環境に身を置くことになり、思わぬところで炎上してトラブルに巻き込まれてしまうケースもある。

韓国はもちろん日本でも人気だったガールズグループSecretのメンバーだったチョン・ハナもそのひとりだ。

アイドル時代はステージの上でパワフルな姿やセクシーな一面を披露してきた彼女だが、Secret解散に伴いソウルを離れて田舎暮らしをしながら、ユーチューバーに転身したものの、何かと苦労は絶えないらしい。

実際に、一般人ユーチューバーの中でも過去の発言が炎上して活動を中止した人がいるし、ユーチューバーのモラル逸脱行為などが韓国でもたびたび問題になる。

また、芸能人ユーチューバーの存在が、これからユーチューバーになろうとする一般人たちのチャンネル開設意欲を半減させるという意見もある。

シン・セギョンのチャンネル開設についても、ネットでは「小売店(一般人ユーチューバー)を脅かす大企業みたいだ」との声が上がっていた。

いずれにしても、韓国ではチャンネル数が増えすぎて飽和状態と言われるYouTube。今後、テレビとYouTubeを行き来する芸能人ユーチューバーはますます増えてきそうだが、はたして。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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