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“犬食”を法律で禁止に!? 韓国で盛り上がる「犬食賛否論争」と数字で見えたホンネとは

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:ロイター/アフロ)

本日7月17日は、韓国で「初伏(チョボク)」の日となっている。

韓国には「ポクナル(伏日)」という日本で言うところの「土用の日」のようなものが3回あり、「初伏」はその最初の日。毎年7月11~19日頃で、その日から夏の暑さが本格化するとされている。

韓国では古くからこの日になると夏の暑さに負けないように、栄養価の高いものを食べる。日本で「土用の丑の日」にウナギを食べるような伝統だ。

もっとも有名なのは、サムゲタン(参鶏湯)。ドジョウ鍋の一種であるチュオタンもポピュラーだが、食用の犬肉で作るポシンタン(補身湯)を食べる人もいる。

しかし、ポシンタンを食する風習はイギリスの政府請願サイトで非難を受けるなど、近年は国際世論の厳しい風当たりの中で、その伝統はすっかり薄れていた。

(参考記事:イギリス人9万人が請願サイトに署名!! 非難を浴び続ける韓国の“犬食文化”とその実態

もっとも、韓国では今現在、“犬食賛否論争”が盛り上がっている。

事の発端は、韓国国会で犬食を禁止する方案が発議されたことだ。

今年6月20日に発議された「動物保護法一部改正案」がそれで、犬を食用目的で屠殺(とさつ)することを禁止とした。さらに別の議員も、家畜から犬を除外した畜産法改正案を発議している。

また大統領府の国民請願サイトでは、犬食禁止を訴える請願に20万人以上の賛同者が集まっている。

国民請願とは、韓国国民がオンラインで韓国政府に希望を申し出ることができるサービスのこと。「女優ペ・スジの死刑を求める」など度を超えた請願もあることで知られるが、20万人以上の署名が集まった場合、政府はなんらかの返答をすることになっている。

乗客の愛犬を射殺した仁川空港を非難

韓国には愛犬家も非常に多く、仁川空港で乗客の飼い犬が射殺された際には、非常に大きな批判が続出したこともあった。

(参考記事:「飼い主には一生のトラウマ」乗客の愛犬を射殺した仁川空港に批判続出!!

とはいえ韓国の一般的な人々が犬食を嫌っているのかというと、そうではないという数字も出ている。

韓国の世論調査会社リアルメーターが6月22日に調査したところによると、「犬食を法律で禁止すること」に対して、「反対する」が51.5%と過半数を占めたというのだ。

逆に「賛成する」は39.7%だった。半数以上の韓国人が犬食を法律で禁止することはないと考えているというわけだ。

ちなみに10年前の2008年には「犬食の合法化」に対する世論調査が行われており、このときも賛成53.2%、反対27.9%と、犬食に対するポジティブな結果が出ている。

迷子犬が近隣住人に食べられる悲劇も

一昨年には迷子になった愛犬が近隣住人に食べられるという、とんでもない事件が起こっているが、犬食禁止を望む人ばかりではないのだ。

(参考記事:「迷子になった愛犬が食べられた…」飼い主を横目に近隣住人が“犬食パーティー”の恐怖

実際に韓国国会で発議された改正案を「ポシンタン禁止法」と揶揄する人もいるという。

前出した通り、ポシンタンとは食用の犬を使ったスープ料理のこと。韓国の伝統料理で、初伏に食べるのは、ひとつの食文化だ。

そういった“伝統”や“文化”という角度から犬食禁止に反対する人もいれば、最近は「そもそも個人の自由」として反対する人も増えているらしい。

「犬を食べるかどうかは個々人が決めることで、法律で決められることではない」という主張だろう。

いずれにしても、韓国では犬食が法律で禁止されてしまうかもしれないという段階まで来ていることは間違いない。

熱心な愛犬家から犬食好きまで、両極端な韓国の犬事情だが、どのような結末を迎えるのか、もうしばらく見守っていく必要がありそうだ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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