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成績不振、不仲説、無関心…韓国代表のロシア戦記の始まり

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:ロイター/アフロ)

「最初のボダンを掛け違えてしまったら、そのあとに綻びが出て服もまともに着れないだろ? それと同じでワールドカップでも初戦が大事。ワールドカップという波に乗れるか、飲まれてしまうかが初戦で決まると言ってもいい」

実感がこもった強い口調で、かつてそんなことを言っていたのは、韓国サッカー界の英雄ホン・ミョンボだった。現在はKFA(韓国サッカー協会)の専務理事を務めるホン・ミョンボは韓国サッカー界の誰よりもワールドカップを熟知している。

何しろ選手として4回(90年、94年、98年、2002年)、コーチとして1回(2006年)、監督としても前回のブラジル・ワールドカップを経験しているのだ。

そんなホン・ミョンボが「今回のロシア・ワールドカップでもっとも重要な試合」と語っていた韓国の初戦が、本日いよいよキックオフされる。

遅ればせながら筆者も先日、ロシアの地に足を踏み入れ、現在はロシア第4の都市ニジニ・ノヴゴロドにいるが、昨日から街では韓国人サポーターの姿もチラホラ見かける。

大会開幕前に韓国で話題になった“美女サポ”ハン・ジユンには出くわしていないが、“プルグン・アンマ(「赤い悪魔」という意味)”と呼ばれる韓国代表サポーターたちも増えている。その背中からも今日の試合に寄せる期待が伝わってくるくらいだ。

ただ、いよいよ初戦を迎える韓国代表の調子は決して良いとは言えない。

ロシア入りする前、韓国代表はオーストリアで事前キャンプを行い、2度の強化試合を行っているが、6月7日にはボリビア代表に0-0で引き分け、6月11日にはセネガル代表に0-2で敗れている。

黒星で終わって決まりの悪い壮行試合となった6月1日のボスニア・ヘルツェゴビナ戦(1-3)も含めると、3試合連続で白星なしである。結果が付いてこないと雑音や憶測があちこちで起こるもので、ボリビア戦直後にはエースのソン・フンミンとヴィッセル神戸でプレーするチョン・ウヨンの“口論不仲説”も流れたほどだ。

この一件に関してKFAは即座に否定しており、2人も手をつないで練習に姿を現したりもしているが、ワールドカップ開幕に先立って、選手たちのゴシップ・ネタや恋愛遍歴などがクローズアップされるのは定番でもある。

(参考記事:【画像】ソン・フンミンの「恋人」は? 韓国代表の「美女パートナー」たちがかわいすぎる!!

2002年ワールドカップ前も、チェ・ヨンスがチームに不満を抱えているという憶測記事が流れ、フース・ヒディンク監督がその記事を報じた記者を激怒したこともあった。

ただ、選手同士のトラブルやいざこざはチームの結束力にも影響を与えるので、たとえ事実無根であっても決戦前にそうした記事が流れることは好ましいことではないだろう。

翻って言えば、それだけ初戦を迎える韓国代表の雰囲気はあまり良くないとも言えるが、明るい話題がないわけではない。

例えば、日に日に評価と注目度を高めているイ・スンウだ。FCバルセロナの下部組織育ちで昨季からイタリアのヴェローナに所属する“韓国のメッシ”は、今回の韓国代表で背番号10を背負って期待を集めているが、前出のボリビア戦とセネガル戦でも左サイドで先発出場しているだけに、スウェーデン戦出場の可能性は十分にあると言えるだろう。

今回の韓国代表にはこのイ・スンウ以外にもファン・ヒチャンやイ・ジェソンなど期待の若手も多く、彼らのワールドカップ・デビューには関心が集まるところだ。

(参考記事:“韓国のイニエスタ”に“韓国のシャビ”もいる!? 欧州ビッグクラブも興味を示す「注目株10人」

いずれにしても韓国にとってスウェーデン戦は、目標とする決勝トーナメント進出のためにも落とせない一戦であることは間違いない。

過去を振り返っても、初戦がいかに重要かはわかる。9大会連続10回目のワールドカップ出場を数える韓国だが、決勝トーナメントに進出したのは2002年と2010年の2回のみ。

2002年大会はポーランド代表、2010年大会ではギリシャ代表との初戦に勝利して波に乗った。初戦に勝ち点3を手にしても決勝トーナメントに進出できなかったのは、2006年大会だけだ(トーゴ代表に2-0で勝利した)。

まして今回のロシア・ワールドカップには韓国サッカーの命運もかかっている。韓国サッカーは昨今、Kリーグは人気低迷に陥り、代表チームへの関心も存在意義も薄らいでいる。現地で再会した多くの記者仲間たちが、「韓国サッカーの危機」を口にする状況だ。

(参考記事:“韓国サッカーの暗部”を現地記者が衝撃告白「もはや自力では立ち直れない」

そうした危機から脱するための特効薬にして起爆剤となるのがロシア・ワールドカップの成功だと言われる中、いよいよ大一番を迎える韓国サッカー。果たして最初のボタンを掛け違えることなく、幸先の良いスタートを切れるだろうか。

街では韓国人サポーターの姿も見かける(写真=著者撮影)
街では韓国人サポーターの姿も見かける(写真=著者撮影)
ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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