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「眼鏡先輩VS藤澤五月を映画にすべき」日本とは「似て異なる」韓国のカーリング旋風

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

平昌五輪で火がついた日本のカーリング人気。日本カーリング史上初のメダル獲得を成し遂げた藤澤五月、吉田夕梨花、吉田知那美、鈴木夕湖、そして本橋麻里らロコ・ソラーレ北見のメンバーたちは連日、テレビのニュース番組や情報番組に引っ張りダコであるが、韓国でも空前のカーリング人気で沸いている。

眼鏡先輩、アイドル並みの人気者に

準決勝で女子日本代表を下し、決勝でスウェーデンに敗れるも銀メダルに輝いた韓国女子代表のことは、平昌五輪が終わっても連日のように報じられている。

「価値ある銀を手にしたチーム・キム、あなたたちのおかげでオリンピックは幸せでした」(『スポーツ朝鮮』)、「聞いたことも見ることも知ることもなかったカーリング、平昌の主人公になった」(『スポーツ・トゥデイ』)といった具合だ。

中でもスキップのキム・ウンジョンは大人気。日本でも“眼鏡先輩”の愛称ですっかり有名になったが、今や“アイドル級”の扱いだ。

その素顔がわかる過去写真が公開されているSNSにはファンが殺到しており、彼女がつけていた丸型眼鏡は普段よりも5倍以上売れているという。

(参考記事:メガネを外した“メガネ先輩”が超かわいい!! 韓国カーリング女子キム・ウンジョンのSNSがスゴい!!)

人気ぶりを目の当たりにして、最近は大邱(テグ)市がキム・ウンジョンを“眼鏡広報大使”に任命したいという動きまである。

韓国のカー娘たちも広告業界で引っ張りダコ!?

大邱市は韓国の眼鏡フレーム製造業者の約84%が集まる“眼鏡タウン”で、キム・ウンジョンの故郷である義城(ウィソン)郡と同じ慶尚北道にあることから白羽の矢が立ったのだろうが、韓国のカーリング娘たちにラブコールを送るのは大邱市や眼鏡業界だけではない。

韓国カーリング関係者によると、掃除機などを販売する家電メーカーや食品業界、有名飲料水ブランドなどからも広告出演オファーが殺到しているという。

とある韓国メディアの報道によると準決勝に勝利した翌日だけで、150件以上の問い合わせがあったらしい。日本のカーリング女子たちも広告業界から注目されているという記事を目にしたが、韓国でもカーリング女子たちが一躍、人気者になっているのだ。

女優チョン・ジヒョンやアイドルのソリョンにスジら“韓国CMクイーンたち”の競争に、カーリング女子たちが割って入る日も来るかもしれない。

韓国記者が語る「藤澤五月と日本チーム」

そんなフィーバーぶりを韓国記者はどう見ているのか。実際に平昌五輪開催中にカーリング取材を担当した『中央日報』のパク・リン記者は語る。

「私たちも驚いていますが、何よりも選手たちがもっとも驚いています。先日4人にインタビューしましたが、五輪期間中は集中するためにスマートフォンをコーチ陣に預けていたそうですが、カカオトークへの着信メッセージが1000通を超えていたそうですよ」

韓国のカーリング女子代表たちが人気なのは、銀メダルという結果を残しただけではなく、彼女たちのキャラクターも関係があるとパク・リン記者は言う。

「彼女たちは義城女子中高卒。地方の女の子たちが方言まじりで頑張る姿は微笑ましかったですね」

地方出身で方言混じり。韓国のカー娘たちは日本のカー娘たちと共通する部分もあったわけだ。

「しかも、5人中4人が幼馴染で、カーリングを始めたキッカケもチーム結成までの過程もユニーク。エリートではなく放課後の遊びとして始めた彼女たちが、10年以上も同じ釜の飯を食べながら姉妹のように過ごし、銀メダルを手にしたのですから“奇跡”とも言われています。カーリングの数か月前の状況を考えるとまったく想像もできなかったことです」

(参考記事:“メガネ先輩”の由来は日本の漫画だった? 韓国カー女たちの素顔)

確かにその通りだろう。平昌五輪開幕前まで、韓国でカーリングはマイナー競技だった。

競技者人口は800人ほどに過ぎず、女子の成人部は4チームしか存在しなかった。そんな韓国カーリングが平昌五輪で快進撃を続けたのだ。

予選リーグを勝ち進むたびに彼女たちの人気は急上昇したが、特に準決勝・日本戦が決定的だったとパク・リン記者は言う。

「日本チームも韓国では話題でしたからね。特に藤澤五月選手。若い層の間で支持が高い人気女優パク・ボヨンに似ている外見だけではなく、ミスをしてもくよくよせずに明るい笑顔を振りまく姿やカーリングを心底楽しんでいる姿は好感を持てました。

普段は一般職で働きながら選手生活を送っているという苦労話と言いますかエピソードも、彼女が韓国で人気を呼んだ理由ですね」

そんな日本のスキップと“眼鏡先輩”の対決は韓国でもクローズアップされたが、カーリング日韓対決は、「歴史に残る名勝負」だったというのが韓国の見方らしい。

「カーリングを題材にした映画を!!」

「言うまでもなく韓国において“韓日戦”は特別です。その関心と緊張感が高まる中で行なわれた準決勝は、ドラマチックでした。

韓国が勝ったから劇的だったと評価するわけではありません。日本も最後まで勝負を諦めず、韓国を土壇場まで追い詰めた。まさにドラマでしたし、“美しいライバル”でした。

韓国の一部ファンたちの間では、“眼鏡先輩や韓日戦など、今回の女子カーリングを題材にした映画を作るべきだという意見も出ているくらいです」

韓国では平昌五輪での快進撃を受けて、カーリングチームの設立を検討しはじめた市や道(日本の県にあたる)が増えているという。

また、大統領府ホームページの国民請願掲示板には、「首都のソウルにカーリング場があるといい」という請願が掲載されている。

スポーツ紙『スポーツ・ソウル』などは、「カーリングが平昌五輪で最高の人気種目になった」とし、韓国人がカーリングに熱狂するしかなかった理由を独自展開する分析記事まで掲載している。

(参考記事:なぜ、韓国は女子カーリングに沸いたのか? マイナー種目が国民的人気を獲得した3つの理由)

まさに「大韓民国を強打する“カーリング熱風”、平昌最高のヒット商品」(『マイデイリー』)となったカーリング。その盛り上がりが今後どれだけ持続していくのか、注視していきたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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