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韓国が「世界最強」と自負するショートトラックの光と闇を知り尽くした“女帝”とは?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:ロイター/アフロ)

本日、江陵(カンヌン)アイスアリーナで行われるショートトラック女子3000mリレー決勝。同種目は、韓国が「世界最強」と自負する競技だ。

1992年のアルベールビル五輪で正式種目に採用されて以降、開催された7つの五輪のうち5つで金メダルを獲得。1994年のリレハンメル五輪から2006年のトリノ五輪までは4連覇を果たし、前回のソチ五輪でも金メダルに輝いている。

それだけに、韓国メディアの期待度も高い。

「“3000mリレー”女子ショートトラック“金色のタッチ”を見よ」(『ヘラルド経済』)、「女子ショートトラック3000mリレー…金の疾走は続く」(『アジアトゥデイ』)などと、金メダルを強調した見出しが並んでいる。

そもそもショートトラックは韓国のお家芸とされ、美しすぎる“ショートトラック女神”チョン・ジスなどアイドル的な人気を集める選手もいるが、その中でも女子3000mリレーは、平昌五輪で特に期待を集めている種目だといえるだろう。

韓国ショートトラックの“光と影”

ただ、今大会の韓国代表には、少々不安も残る。

前回のソチ五輪で同種目の金メダルを獲得し、現地メディアが選ぶ韓国の「メダル候補12人」にも挙げられていたシム・ソッキの成績が芳しくないのだ。

出場した10日の500mと17日の1500mは予選で敗退。特に世界ランキング2位に入っている1500mで転倒し、最下位でレースを終えたことは韓国に衝撃を与えている。

韓国のエースが失速した最大の要因は、平昌五輪開幕直前に起きた騒動にあるだろう。

シム・ソッキは1月16日、14年間にわたって指導を受けてきたコーチから暴行を受けたのである。このコーチは韓国スケート連盟から「永久除名」を言い渡され、協会側の責任逃れも大きな批判を集めた。

(参考記事:暴行事件に手続きミス、「スキーをやめる」という選手も出ている韓国・平昌五輪の不手際

韓国のスポーツ紙『スポーツ・ソウル』でスケート競技を担当するキム・ヒョンギ記者もこう言う。

「これまでも韓国ショートトラック界では、派閥争いにコーチのセクハラ問題など、騒動が絶えませんでしたが、もう国民は我慢の限界に来ています。“こんなに不祥事ばかり起こすぐらいなら、メダルなんていらない”と言う人までいるほどですよ」

(参考記事:セクハラ、違法賭博、暴行…お家芸でトラブル続出。韓国ショートトラックの“光と影”

この騒動によってシム・ソッキが動揺し、パフォーマンスにも影響している可能性は否定できないだろう。シム・ソッキの関係者もこう話している。

「平昌五輪直前に大きな事件がありましたが、今もまだその影響が残っているようです。五輪で良い成績を残さなければいけないと思い詰め、むしろ競技に集中できていないように見えます」

予選で魅せた底力

ただ、シム・ソッキは、10日に行われた同種目の予選では底力を見せた。

女子高生選手として注目されるイ・ユビンが23周目で転倒し、一時は同組のチームから一周近く後れを取ったが、シム・ソッキが猛追撃。一気に3人を抜き去りトップに躍り出ると、韓国は40秒387の五輪新記録を叩き出して大逆転勝利を収めたのだ。

それだけに、今日のレースには、前出のキム・ヒョンギ記者も期待を寄せる。

「平昌五輪直前の騒動によって、選手たちの士気が落ちてしまっているのは事実です。しかし、膨大な量のトレーニングで培われた実力は、間違いなく世界トップレベル。動揺せずに本来の実力を発揮すれば、十分、金メダルもあり得ると思います」

(参考記事:日韓“女子高生対決”も。韓国がショートトラック大国となった本当の理由

韓国中の視線を集める今日の決勝。“ショートトラックの女帝”の走りにも注目しながら、レースの行方を見守りたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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