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過去最大の“キムチ赤字”を叩き出してしまった韓国で、意外にも「キムチ離れ」が進むワケは?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:ロイター/アフロ)

韓国を代表するキムチの輸出入額が記録的な“赤字”に陥ったという。

韓国関税庁が公表した統計によると、2017年のキムチ輸入量は約27万6000トン。そのうち99%が中国からの輸入だ。一方、韓国産キムチの輸出量は約2万4000トンと、輸入量の10分の1にも満たない水準であることが明らかになった。

その結果、貿易赤字額は4730万ドル(約52億4000万円)にも上った。この赤字額は統計を開始した2000年以降、最大となっている。

過去最高の“キムチ赤字”については、韓国メディアも「“キムチ宗主国の屈辱”…昨年貿易赤字4730万ドル、史上最大」(『聨合ニュース』)、「キムチ貿易赤字、昨年史上最大に」(『韓国日報』)などと報じている。

国家予算で「世界キムチ研究所」まで作ったが…

韓国メディアが表現しているように、韓国はキムチの宗主国として“キムチの世界化”を目論んできた。国家予算を1000億ウォン(約100億円)も投じたとされる「世界キムチ研究所」を設立しているほどだ。

(参考記事:“キムチ世界化”のために国家予算1000億ウォン投入した「世界キムチ研究所」の実態

それだけにキムチの輸出が増加していない現状にはショックを隠せない一面もあるだろうが、そもそも韓国国内でも“キムチ離れ”が進んでいるという研究結果もある。

嘉泉大学食品栄養学科イ・ヘジョン教授チームの論文『ここ10年間の韓国人の地域別、所得水準別キムチの摂取変化』がそれで、同論文を見ると、韓国人1人当たりが一日に食べるキムチの量は、2005年123.9gから2015年96.3gと10年間で22.3%も減ったらしい。

特に女性は10年間で27.8%減となっており、17.8%減の男性に比べると“キムチ離れ”が顕著であることがわかるだろう。

韓国で“キムチ離れ”が進む理由

なぜ、韓国では“キムチ離れ”が進むのか。理由のひとつは、食文化の多様化が挙げられるだろう。

洋食や和食などを食べるのが当たり前になり、韓国の伝統料理を食べる機会も相対的に減っているようだ。

韓国では和食レストランでもキムチを出すし、カレーライスといった軽食を出す店でもキムチがあるが、やはりキムチは韓国料理に良く似合う。だが、食の多様化により、人々が韓国の伝統料理を食べる機会が確実に減っているのだ。

一昨年には迷子になった愛犬が村人に食べられるという怪事件もあったが、韓国では犬食文化もすっかりと影を潜めている。

(参考記事:「迷子になった愛犬が食べられた…」飼い主を横目に近隣住人が“犬食パーティー”の恐怖

食の多様化は今後も進むと考えられている。韓国の農林畜産食品部と韓国農水産食品流通公社が発表した「2017加工食品の細分化市場の現況報告書」によると、韓国国内のインスタント食品市場は2015年に比べて34.8%も拡大している。

ひとり暮らし世帯や共働き世帯の増加がその背景だが、売り上げが伸びているインスタント食品は洋食がほとんど。「インスタント食品においても西洋式の風が吹いている」(『世界日報』)と言われているのだ。

原産地の偽装や黒歴史アニメも

また、キムチには原産地の偽装が多いことも明らかになっている。

(参考記事:韓国で横行するキムチの“産地偽装”。その巧妙な手口と「やめられない」理由

さらに最近はネット上で韓国人女性を侮辱するときに「キムチ女」というスラングを使ったり、過去にはキムチを広報しようとして作ったアニメ『キムチ戦士』の黒歴史もあったりと、悪いイメージがあることも否めないかもしれない。

ちなみに前出の論文には、所得が少ない層は相対的にキムチの消費量が多いという調査結果もあった。韓国に廉価な中国産キムチが大量に輸入されている理由は、こんなところにあるのかもしれない。

いずれにしても、過去最大となった“キムチ赤字”を改善するためには、キムチの輸出に力を入れるしかないだろう。今後、何かしらの対策が取られる可能性は高そうだ。

韓国産キムチの主な輸出先は日本であるだけに、注目したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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