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崖っぷちに立つ韓国サッカー。ロシア行き失敗なら待ち受ける“危機”

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
昨日の韓国スポーツ新聞『イルガン・スポーツ』の一面(著者撮影)

韓国に来ている。明日8月31日にソウル・ワールドカップ・スタジアムで行われるロシア・ワールドカップ アジア最終予選の韓国対イラン戦を取材するためだ。

イラン、ウズベキスタン、カタール、中国、シリアと同じグループAに属する韓国。だが、ハリル・ジャパン同様に予選では苦戦中。最終予選以降、不甲斐ない戦いが続き、アウェーではシリア(0-0)、イラン(0-1)、中国(0-1)、カタール(2-3)と一度も勝っていない。

それでも現在、勝ち点13でグループ2位にあるが、3位ウズベキスタンとの勝ち点差はわずか「1」。油断を許さない状況にある。

事態を重く見た韓国サッカー協会(KFA)は、それまでチームを率いていたドイツ人指揮官ウリ・シュティーリケ監督を更迭。代わって、リオデジャネイロ五輪代表監督で5月に行われたU-20ワールドカップでは若きU-20韓国代表を率いたシン・テヨン監督が急きょ、指揮官の座に就くことになった。

一部で噂された60代のベテラン監督の再登板をひっくり返してシン・テヨン監督が登用された背景には、シン・テヨン監督と同世代の後押しというか、“不惑猛者たちの決起”もあったといわれているが、注目すべきは新監督が決戦に向けて選んだ選手たちだ。

8月14日に発表されたメンバーには、キ・ソンヨン(スウォンジー)、ソン・フンミン(トッテナム)、ク・ジャチョル(アウクスブルク)といったおなじみの欧州組が選ばれた。

シン・テヨン監督がリオ五輪で重用したファン・ヒチャン(ザルツブルク)や、フランスのディジョンでプレーするクォン・チャンフンも選ばれている。

ただ、ソン・フンミンは6月のカタール戦で右ひじを骨折、キ・ソンヨンは6月に右膝の炎症で手術したばかり。決して本調子ではなく、ク・ジャチョルも一時期ほどの勢いが見受けられないが、やはり大一番では欧州組を外せないといったところなのだろう。

(参考記事:ソンは香川より価値が高い?ドイツ専門サイトが韓国欧州組の市場価値を算定)

また、キム・ヨングォン(広州恒大)やチョン・ウヨン(重慶当代力帆)といった中国組、キム・ジンヒョン(C大阪)、キム・スンギュ(神戸)、チャン・ヒョンス(FC東京)、キム・ボギョン(柏)といったJリーグ組も加入しているが、韓国で特に話題となっているが、イ・ドングッ(全北現代)を2年10か月ぶりに代表復帰させたことだ。

19歳で1998年のフランスW杯に出場し、2000年シドニー五輪、2000年アジアカップ(得点王)、2010年ワールドカップにも出場したイ・ドングッ。

国際Aマッチ出場歴は103試合33得点を数え、ブレーメン(2000-2001年)、ミドルズブラ(2006-2008年)などヨーロッパでもプレー。Kリーグでは得点王1回(2009年)、アシスト王1回(2011年)、シーズンMVPに至っては受賞4回(2009、2011、2014、2015年)を数える。

世代的には、日本の小野伸二、稲本潤一、小笠原満男と同じで、若かりし頃には日本の“黄金世代”と交流を深めた選手でもあるので、日本のサッカーファンにもその名が広くしられていることだろう。

(参考記事:日韓サッカー黄金世代たちが語り合った伝説の“チェンマイの夜”を完全再現!!)

そんな彼も今年で38歳。今季はKリーグでも先発よりもサブに回ることが多く、途中出場が多い。それでも現時点で19試合4得点3アシストを記録しているのはさすがだが、38歳4か月での代表抜擢は韓国サッカー史上2番目の最高齢だけに、その抜擢にはメディアもファンも驚かずにはいられなかった。

ただ、シン・テヨン監督は言っている。

「ベテランだから選んだのではない。十分戦力になる実力があるとして評価した。彼はベテランとして精神的リーダーの役割もできるし、ゴールを決めるためのプレーもできる」と。

実際、イ・ドングッはイランはもちろん、9月5日に敵地決戦に臨むウズベキスタンとも相性がいい。

イラン相手に2得点(2000年アジアカップ、2004年アジアカップ)を決めているし、ウズベキスタンには4ゴール(2005年ドイツ・ワールドカップ予選、2012年親善試合2得点、2012年9月のブラジル・ワールドカップ予選)を上げているのだ。

明日行われるイラン戦では、そんなイ・ドングッの起用法にも注目が集まるが、韓国はイランとの相性がすごぶる悪い。

Aマッチの通算成績で9勝13敗7分けと負け越しているだけではなく、2011年アジアカップでの対戦で勝利して以降、6年7か月近く勝ったためしがない。それどころか2012年10月以降、4連敗中なのだ。

イランはすでにグループ1位でのロシア行きを決めているが、それでも容易い相手ではないだろう。韓国ホームでの試合とはいえ、前回のホームゲームだった2013年6月のブラジル・ワールドカップ・アジア最終予選では0-1で敗れている。

仮に韓国がイランに勝ち、同じ日に行われる中国対ウズベキスタン戦でウズキベスタンが敗れれば、韓国のロシア行きが決まるが、果たして……。

ここ最近、韓国サッカーはACLでも結果を残せず、Kリーグも観客動員数で苦戦するなどその低迷ぶりが深刻だが、代表チームがロシア行きを逃すことになれば、それこそ空前絶後の“危機”に直面するだろう。

(参考記事:ベトナムで恥をかき、国内では閑古鳥が鳴くKリーグの深刻度)

崖っぷちに立たされた韓国サッカー。その行方をこの目でしっかりと見届けたいと思う。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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