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今度は「強制徴用労働者像」が設置…映画『軍艦島』が韓国社会に与えている“影響”とは

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:Duits.co/アフロ)

終戦記念日を迎えて、韓国の映画『軍艦島』が日本でも話題だ。

映画公開の5カ月以上前となる今年の2月に関連記事を報じていた『産経新聞』はもちろん、『朝日新聞』でも「韓国映画「軍艦島」事実と創作の境界は? 現地でも論争」と報じられたほどである。

簡単にあらすじを説明すると、映画の舞台は1940年代の長崎県・端島。日本で稼げるという言葉に騙されて、同島に辿りついた朝鮮人たちが地下1100メートルの炭鉱で過酷な労働に強いられ、それに反逆して脱出劇を繰り広げるというストーリーだ。

映画『軍艦島』、観客動員数が急減

公開前から注目が高く、実際に観客動員数は現在までで640万人を超えている。十分なヒットといえるが、公開から1カ月も経たずに観客数の伸びは失速しているという。

その原因について、韓国メディアは「映画としてそれほどおもしろくない」といった批評も多いが、「歴史的事実」に関する周辺の騒動と報じているケースも見受けられる。

(参考記事:観客急減の理由は歴史歪曲!? 韓国メディアが暴いた、映画『軍艦島』のウソと真実

ただ、『軍艦島』はドキュメンタリー映画ではないが、韓国社会に少なくない影響を与えていることはたしかだろう。

慰安婦像に続き「強制徴用労働者像」が設置

例えば『聨合ニュース』は、「“済州島は巨大な軍艦島だった”道民4万人、日帝軍事要塞の強制労役」(8月14日付け)と見出しを打った記事で、こう報じている。

「先月(7月)20日、済州の社会団体が強制徴用労働者像を設置することを決め、日本の強制労働を扱った映画『軍艦島』が公開して大衆の関心を受けるなど、最近になって日帝強制労働問題がまた提起されている」

実際に8月12日にはソウル龍山駅広場と仁川・富平公園の2カ所で「強制徴用労働者像」の除幕式が行われている。

強制徴用労働者像を製作したのは、慰安婦像=少女像の製作者として知られるキム・ウンソン、キム・ソギョン夫婦だ。

(参考記事:少女像に続き、今度は「強制徴用労働者像」が登場。日韓関係の新たな火種になるか

韓国メディアが映画名を出して報じているように、『軍艦島』の影響がなかったとは言い切れないだろう。

「親日映画」とも…認知バイアス?

それにしても興味深いのは、韓国で『軍艦島』が「反日映画」や「愛国映画」と表現される一方で、「親日映画」とも評されていることである。

理由は、劇中に描かれる登場人物のなかに、日本人よりも悪どい朝鮮人が登場するからだという。日本人よりも邪悪な朝鮮人を描いた=親日という理屈なのだろう。

一部では「親日映画だから観るな」という不買運動も起こっているとか。ずいぶんと荒唐無稽な主張だが、韓国人の10人に9人が“認知バイアス”に該当するという調査結果もあるだけに、そうとらえる人もいるのかもしれない。

(参考記事:韓国人の90%以上が該当…自分の考えや感情を正当化する“認知バイアス”の怪

いずれにしても、韓国を超えて日本でも注目を集めている映画『軍艦島』。韓国で8月15日は「光復節」にあたるが、観客動員数が再浮上するのか注目したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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