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韓国人が日本の放射能問題に過剰な“アレルギー反応”を示す理由は何なのだろうか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
韓国の脱原発デモの様子(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

韓国に来て多くの知人や友人たちと会って雑談をしていると、唐突に聞かれることがある。

「ところで最近は放射能問題などは大丈夫なのか」

10人に会って1〜2人からそんな疑問を投げかけられるのだ。今回も50代半ばになる旧知のカメラマンから唐突に尋ねられた。

「原発の処理水を海に流すというのが、本当に大丈夫なのか」と。

先日、東電・川村隆会長が東京電力福島第1原発の“処理水”を海に放出するという主旨の発言をしたとはいえ、東電が「最終的な方針を述べたものではないと否定した」と言い返しても、なかなか納得してくれない。日本の問題であるはずなのに、まるで自国も関わっているといわんばかりの表情だった。

ただ、そうなるにもワケがあるのだろう。今回の件は韓国メディアでも詳しく報じられている。

「東京電力“福島原発の汚染水を海に放出”…現地漁民たちは反対」(『朝鮮日報』)、「東京電力“福島原発の汚染水を海に流す”」(『中央日報』)などといった具合なのだ。

韓国の“放射能アレルギー”

この報道に触れた韓国ネット民たちの反応はセンシティブで、ある記事には2000件近くコメントが書き込まれていた。

「異常がないのなら自分たちの飲み水にしろ」「日本の水産物は輸入すべきではない」とかなり荒々しい語気のコメントが書き込まれている状態なのだが、韓国は日本以上に「日本の放射能事情」に敏感な印象がある。

例えば、昨年『毎日新聞』や『朝日新聞』が変な色のカエルがいると報じたときは、「日本で相次ぐ奇形生物発見…福島原発事故の影響?」(『東亜日報』)などと報じていたほどだ。

(参考記事:「東京で奇形生物」に「ほら見ろ!!」の声…日本以上に敏感な韓国の“放射能アレルギー”

韓国人が敏感になるワケ

韓国人が日本の放射能事情に対して敏感になるのは、いくつかの理由が考えられる。

ひとつは、韓国が日本の水産物を大量に輸入しているからだろう。韓国では2013年9月から、福島をはじめとする8県の水産物の輸入を禁止している。しかし、2011年以降の6年間で福島産の食品は407トンも輸入されていたという。

また、韓国の水産物品質管理院が2015年に水産物販売・加工会社や飲食店を取り締まった結果、原産地を偽ったホタテ104kgを摘発したのだが、すべて日本産だったことも。2016年に市民放射能監視センターが販売されている水産物を検査すると、日本産の鰹節からセシウムが検出されたという報道もあった。

そういった食材がいつの間にか自分の食卓に並んでいるかもしれない。そんな意識があるため、韓国人は日本の放射能事情に対して敏感に反応しているわけだ。

韓国の食品医薬品安全処が消費者連盟と2014年、2015年に実施した国民意識調査によると、放射能が検出されていなくても「日本の水産物を買いたくない」と答えた韓国人は、68.8%(2014年)と67.6%(2015年)にも上ったと言われているほどなのだ。

韓国人にも意外と“身近な問題”

もうひとつは、日本旅行が韓国人のなかでブームになっていることも関係しているかもしれない。

今年4月に日本を訪れた韓国人は55万4600人となっており、昨年の4月に比べて56.8%も増加したという。ものすごい増加率だ。

韓国のブロガーたちは日本旅行の好きなところを「どこに行っても定価」「細かな心遣い」などと挙げていたが、一般的には韓国と距離が近くて廉価なところが人気の理由と分析されている。

加えて、韓国人の56%が「日韓関係は今後良くなる」と考えているだけに、日本への旅行者が増えるのも自然な流れかもしれない。

(参考記事:日本5%vs韓国56%という意識のズレ…なぜ韓国人は「日韓関係は今後良くなる」と考えるのか

ただ、日本に関心があるということはそれだけ気になることも多くなるということ。裏返せば、日本を訪れる韓国人が多いからこそ、現地の放射能事情について知りたいという要求が生まれているのかもしれない。

つまるところ、韓国人が日本の放射能事情に敏感なのは、「日本の食材を食べる」「日本に旅行する」などと、意外と“身近な問題”に起因しているとも言えるだろう。

放射線量は東京よりもソウルが高い

ただ、その一方で韓国は世界でも原発が多い国のひとつであり、国土を考えると原発の密集度は世界一とも言われている。

過去には原子力発電所に偽造部品が使用されるなどという不祥事もあった。

そういった自国の不安定な原発事情も相まって、日本の放射能事情に過剰反応してしまう側面もあるのだろうが、冒頭でも紹介した韓国人の日本の放射能問題に対する関心は、やや本末転倒な気もする。

日本の放射線量の話もよく出るのだが、東京よりもソウルの放射能数値が高いというのがなんとも言えない皮肉でもある。

(参考記事:数値は3倍以上!? 東京よりもソウルが放射線に汚染されている理由

いずれにしても、日本の放射能事情にアレルギー反応を示している韓国。福島第1原発では約78万トンの“処理水”が敷地内のタンクにたまっているという。実際に処理水を海に放出するとなると、その過敏反応はさらに高まるような気がするのだが……。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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