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“セクシー”だけじゃない。両親が教えてくれた“娘アン・シネ”の変化

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
母イ・ヨンスクさんと父アン・ヒョジュンさん(写真提供:李仁守)

本日7月7日からスタートする女子プロゴルフツアー『ニッポンハム・レディース』。先週のオープンウィークを終えて、女子プロゴルフツアーの今季後半戦がスタートする。

前半戦で“セクシークイーン旋風”を巻き起こした韓国のアン・シネも出場するが、これから始まる後半戦で彼女に期待されるのは、成績だろう。日本初出場となったサロンパスカップでは41位タイ、続く『ほけんの窓口レディース』では予選落ち、『アース・モンダミンカップ”では16位タイと着実に成績を伸ばしているだけに、そろそろベスト10入りも狙いたいところであるが、成績に関してもっとも気にかけているのは、ほかならぬアン・シネ本人でもある。

「日本のギャラリーやメディアの方々から注目されることは、それだけ期待されていることでもありますし、その期待に応えるためにも私はプロゴルファーとして成績で語る必要があると思いますから」

先々週の『アース・モンダミカップ』最終日。日本メディアとの取材対応を一通り終えた彼女に声をかけると、そんな言葉が返ってきた。昨年8月に行なった単独インタビュー以来の対話となったが(その内容は後日詳しく)、どんなときでも明るく対応してくれるメディア対応は変わらなかった。

ただ、少しだけ変化を感じたことがある。それは明るく華やかでありながら、どこか落ち着いているように見えたことだ。韓国で強烈すぎるレッドカラーのミニスカ姿を披露するだけではなく、日本でも毎回のようにゴルフウェアを変える華やかさばかりが注目されがちだが、久しぶりに見たアン・シネからは、以前にはあまり感じなかった“落ち着き”を感じた。

理由はいろいろあるだろう。彼女に近しい人の話を聞いてしまったせいもあったかもしれない。

実は『アース・モンダミンカップ』最終日。アン・シネの父アン・ヒョジュンさんと母イ・ヨンスクさんからじっくり話を聞く機会に恵まれた。ギャラリーに交じって一人娘のラウンドを最初から最後まで見守り続けるふたりとともに歩きながら、たくさんの話を聞くことができたのだ。

「シネが航空券も宿泊するホテルもすべて用意してくれたんです。クラブハウスで休んでいてもいいから、“とにかく来てね”とせがまれてしまって(苦笑)」

母イ・ヨンスクさんはそう言って嬉しそうに話ながら、アン・シネに関するさまざまなことを教えてくれた。

子供の頃はジャージャー麺を手で掴んで食べてしまうほどのおてんば娘だったこと、小学生になったあたりからかなり負けず嫌いだったこと、ニュージーランド留学時代のエピソードや、留学を終えて韓国に戻ったときの苦労話についても教えてくれた。

両親から聞くエピソードは、 “セクシークイーン”と呼ばれてきた彼女のイメージとは、かなりかけ離れていて意外なものばかりだったのだ。

アン・シネはもちろん、多くの女性アスリートを撮影してきた韓国人カメラマンのカン・ミョンホ氏も、「アン・シネはほかのスポーツ選手とは違う。スポーツ選手らしくない」と語っていたが、それとはまた異なる意外な“アン・シネ評”があった。

(参考記事:【写真36枚】韓国の永遠のカメラ小僧カン・ミョンホが捉えてきた“スポーツ女神”たち)

そんな両親が教えてくれた話の中で、もっとも印象的だったのは母イ・ヨンスクさんが、ポツリと漏らしたこんな一言だった。

「あの子は本当に強くなりました。6年前とはまったく違います」

6年前、イ・ヨンスクさんは乳がんを患った。そして昨年には父アン・ヒョジュンさんのすい臓がんが発覚。大手術を受けている。『アース・モンダミンカップ』最終日に、一緒に歩きながらアン・シネのプレーを見守ったが、まだ本調子ではないことは筆者の目にもわかった(それでも18Hすべてを直接チェックしていた父の愛情には感服させられた)。

そんな家族のことが心配になって、ゴルフが乱れてもおかしくはない。母も言っていた。

「私が乳がんを患ったとき、シネは明らかにスランプに陥っていました。先々のことが不安なりに動揺したのかもしれません」

ただ、今は違うらしい。

「数年はゴルフがうまくいかなかった。でも、今のシネはあのころとは違います。家族を心配して狼狽するのではなく、むしろ“家族が大変だからこそ自分が頑張ろう”と考えている。最近も“私が活躍して家族を安心させてあげたい”と話していました。自分が家長になったと責任感を持っているようにも見えます。あの子は本当に強くなりました」

愛する家族を喜ばせたい。安心させたい。励ましたい。そんな思いが娘を突き動かしているというのだ。もしかすると、アン・シネの“落ち着き”は、そうした思いがもたらした“成熟”なのかもしれない。

「膝上30センチのミニスカにファン大興奮」「セクシークイーン旋風が北海道上陸」など、今週もその“セクシーさ”が話題になりそうだし、それが今のところ彼女のイメージなのだろう。

(参考記事:話題のアン・シネは膝上30!! 韓国女子ゴルファーが「超ミニスカ」にこだわる理由)

ただ、その外見だけでは伝わらないパーソナリティーがアン・シネにはある。今日から始まる『ニッポンハム・レディース』で、そういった彼女の人間性にもスポットライトが集まることを期待したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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