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サッカー韓国代表の新監督決定。窮地を任されたのは日本とも激闘したあの人物!!

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
今年のU-20W杯で韓国を率いた指揮官がA代表に(写真:田村翔/アフロスポーツ)

ウリ・シュティーリケ監督の更迭によって空席になっていたサッカー韓国代表の新監督が決まった。新監督に任命されたのは、シン・テヨン氏。先ほどKFA(韓国サッカー協会)が技術委員会を開き、筆者のもとにも協会からの速報リリースが届いて確認した。

手倉森ジャパンと激闘も経験

シン・テヨン氏は日本でもその名が知られている人物だろう。現役時代は城南一和などでプレーしてJリーグでのプレー経験はないが、監督としては城南一和で2010年ACLを制覇。2016年1月にはU-22韓国代表監督としてU-23アジア選手権・決勝で手倉森ジャパンと対戦し、2-3の逆転負けを喫した。

(参考記事:ドーハが“奇跡の地”から“衝撃の敗北の地”へと変わった日)

その悔しさを隠し切れず、韓国メディアとのインタビューで「時間が過ぎてもあの敗北は忘れられない。あんな衝撃的な敗北は監督になって初めて」とも語っていたほどだ。

当時、「五輪で準決勝まで勝ち上がれば日本と対戦できるが?」という問いに対しても、「そうなったら日本を放っておかない。まだ頭に来る。サッカーファンたちに申し訳ない気持ちも依然として持っている。かならずそれを晴らす機会を掴みたい」と意欲を燃やしていた人物として知られる。

そんなシン・テヨン氏がなぜ、新たな韓国代表監督に選ばれたのか。

新たな技術委員会。浮かび上がった複数の候補

まず、韓国の代表監督選出方法を説明する必要があるだろう。韓国の代表監督選びは、技術委員会で決まる。シュティーリケ前監督も技術委員会によって選ばれて招聘された。

ただ、そのシュティーリケ前監督を招聘し技術委員会の長だったイ・ヨンス氏も責任をとって辞任。代わって04年アテネ五輪・韓国代表監督で2012年には蔚山現代を率いてACL王者にも輝いたキム・ホゴン氏が、新技術委員長に就任した。

今年で66歳になるキム・ホゴン氏は、FCソウルのファン・ソンホン監督、水原三星のソ・ジョンウォン監督、城南FCのパク・キョンフン監督などKリーグの現役監督3名や、98年と02年ワールドカップを経験した元韓国代表GKのキム・ビョンジ氏らを新たに技術委員会メンバーに加えた。これにもともと技術委員だった亜洲大学のハ・ソッチュ監督などを加えた8名が、本日、初めての技術委員会を開いて決めたのが、シン・テヨン氏となる。

98年フランスW杯や2002年W杯で活躍したかつての“四強戦士”たちが、代表監督人事を預かることになったわけで、オールドファンからすると時の流れを感じずにはいられないところでもあるが、シュティーリケ前監督が更迭されて以降、複数の候補が浮かび上がっていた。

(参考記事:2002年W杯から14年。韓国の“四強戦士”たちは今、どこで何をしているのか)

2010年W杯で韓国代表を16強に導いたホ・ジョンム氏、そのホ・ジョンム氏の右腕を長く務め、今年6月から急きょ首席コーチとして代表に加わっていたチョン・ヘソン氏などだ。2014年ブラジルW杯後に韓国代表監督を辞任し、5月に中国2部リーグの杭州緑城の監督職から解かれたホン・ミョンボ監督や、6月に中国スーパーリーグの江蘇蘇寧を解任されたチェ・ヨンス監督も候補として噂された。

「韓国人であり、危機管理能力に優れ、選手たちを統率でき、何よりも熾烈な最終予選を経験した指揮官が必要ではないか」とイ・ヨンス前技術委員長が語ったことで、ホ・ジョンム監督が最有力とされたが、2012年4月に仁川ユナイテッド監督を辞任して以降、5年以上も現場を離れていたホ・ジョンム監督の“現場感覚”に疑問視を上げる声が多かった。そうした世論の反発もあって、今回はホ・ジョンム監督・再登板のカードは回避されたのだろう。

近年は火消し役として頻繁に登用されてきた

それに、そもそもシン・テヨン氏は3月にシュティーリケ前監督の更迭論が持ち上がったときから最有力候補に上がっていた。シュティーリケ体制発足直後は代表コーチを務め、選手たちのことやチームの状況についてはよく知っている。現場を知り、チームの内情も知る適任者とされてきたのだ。

ただ、最近は“火消し役”としての役割を求められることが多い。前出のU-22韓国代表監督に就任したのも、前任者で2014年仁川アジア大会・金メダルの故イ・グァンジョン監督が白血病に倒れたための登板だった。

リオデジャネイロ五輪ではグループリーグ突破するも8強止まりで終わり、昨年11月からは急きょ、U-20韓国代表監督に就任。自国開催となったU-20ワールドカップではわずか6か月しかない準備期間でもチームを立て直してグループリーグ突破を果たすが、決勝トーナメント1回戦のポルトガル戦では1-3で敗れている。

シン・テヨン監督は、主に4-1-4-1、4-2-3-1、4-4-2などを使い分けながら攻撃サッカーを標榜する指揮官だが、ポルトガル戦ではイ・スンウ、ペク・スンホら“バルサ・デュオ”を本来のポジションとは異なるウインガーとして配置する4-4-2を採用したことが采配ミスとも指摘された。

(参考記事:久保建英だけじゃない!! 韓国のイ・スンウとペク・スンホはなぜ、バルサの一員になれたのか)

ピンチヒッターとしては最高の人材だが、過度な期待を掛けすぎてもいけない。

まして韓国代表は今、さまざまな問題を抱えている。期待外れとの揶揄が収まらない欧州組の出来、不安定な守備ライン、選手間の不協和音など、シュティーリケ前監督でも解決できなかった課題を新監督は解決できるか、どうか。

(参考記事:W杯予選脱落に現実味が…サッカー韓国代表に今、何が起きているのか)

新監督の前途は多難だ。現在、韓国代表はロシア・ワールドカップアジア最終予選で苦戦中。勝ち点13でグループ2位の座にあるが、3位ウズベキスタンとの勝ち点差はわずか「1」と拮抗している。8月31日にはすでにグループ1位を確定させたイランをホームに迎えるが、イランとは12年10月以降、4連敗中と分が悪い(通算成績も9勝13敗7分け)。しかも、9月には敵地でのウズキベスタン戦が待っている。最終節までまったく気を緩めなることができない状況なのだ。

“首の皮一枚だけが繋がった状況と言っても過言ではない。そんな窮地に立たされた中で、果たして新監督は韓国をロシアに導けるだろうか。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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