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アン・シネ、イ・ボミら人気ゴルファーの日本進出をKLPGAはどう思っているのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
カンチュンジャKLPGA首席副会長(写真提供:KLPGA)

先月の韓国取材でKLPGAを訪ねたときのことだ。KLPGAとは、韓国女子プロゴルフ協会のこと。文字通り、韓国女子プロゴルフを取り仕切る団体で、ソウルの中心部・江南の三成洞にオフィスを構えている。

韓国から見た“アン・シネ旋風”

「最近の日本はアン・シネ選手の人気で沸いていると聞いていますよ」。いつものように温かく迎えてくれたKLPGAの広報担当者は、開口一番にそんなことから切り出してきた。日本に吹き荒れた“セクシークイーン”アン・シネ旋風は、韓国でも話題になっているらしい。日本で彼女が振りまいた話題は逐一韓国でも報道されているという。

(参考記事:話題の超絶セクシークイーン“アン・シネ旋風”。日本と韓国では何がどう違う?)

ただ、日本でのフィーバーぶりが韓国でのアン・シネ人気をさらに燃え上がらせているというわけではないらしい。広報担当者はこんなことを話していた。

「 “日本で話題だからさらにその人気に拍車がかかった”という感じではないですね。アン・シネ選手に限らず、イ・ボミ選手やキム・ハヌル選手の人気がブレイクしたときもそんな受け止め方ですよ。もともと3人は韓国で人気がある選手なので、“日本でも話題なんだなぁ”という印象。日本で人気ということに意外性はなんいです。それに韓国では、次々とスター選手が出てきます。メディアもファンも、韓国の話題を追いかけることに精一杯なんですよ(笑)」

人気の美女ゴルファーはイ・ボミやアン・シネだけじゃない

実際、最近のKLPGAは次々と新たなスターか誕生している。2014年にはキム・ヒョージュ、2015年にはチョン・インジが彗星のごとく登場し、昨年は“勝率100%の女”と呼ばれたパク・ソンヒョンが一躍スターとなった。

今年のKLPGAツアーはすでに14試合を消化したが、最近は優勝者が毎試合で変わっているほど。まさに新陳代謝が激しく、百花繚乱なのが現在のKLPGAでもあるのだ。

(参考記事:【25連発撮】韓国美女ゴルファー大図鑑 in 「BMWレディース2016」)

また、旧知のカメラマンによると、今年は“次世代セクシークイーン”ユ・ヒョンジュのように、若くてフレッシュな新星も誕生しているらしい。日本ではアン・シネ旋風が吹き荒れたが、韓国はまた違った新しい“セクシー旋風”が起き起こっているという。

「毎年のように若くて新しいスターが誕生していることが今のKLPGAの特長でしょう。次々とスターが出てくるから、国内が盛り上がる。アメリカや日本に負けず劣らず、KLPGAもにぎわっているんですよ」

そう語っていたのは、拙著『イ・ボミはなぜ強い? 女王たちの素顔』の取材に応じてくれたKLPGAのカン・チュンジャ副会長だ。

カン・チュンジャ副会長は韓国女子プロゴファー第1号でもあり、現役時代には日本でもプレーしている。2008年からKLPGAの副会長を務めており、その前後から韓国では有力プロたちの海外進出が増えるようになったが、それは歓迎すべきことでもあると語っていた。

「一部では有名選手の海外進出を憂慮する声がありますが、むしろ私たちは肯定的に捉えています。というのも、彼女たちがアメリカや日本で活動し活躍することは韓国ゴルフの存在を世界にアピールできるという国威発揚の性格を担っていますし、彼女らの活躍によって国内でもゴルフ熱が盛り上がるんです」

急成長を遂げている韓国女子プロゴルフ

具体的にどのように盛り上がるのか。

例えば韓国では、国営放送KBS、民放テレビ局SBS、ケーブルテレビ局JTBがそれぞれゴルフ専門のケーブルチャンネルを展開しており、そこでKLPGAはもちろん、アメリカ女子ツアーや日本女子ツアーの試合が放映さている。アメリカや日本で韓国人選手が優勝すると、それが記事やニュースでも取り上げられ、KLPGAにも問い合わせが殺到するという。

「メジャー大会を制すると普段ゴルフを見ない方々もゴルフに関心を持ちますし、彼女たちをキッカケにゴルフを始める子供たちも増えるんですよ。また、アメリカや日本といったゴルフ強国で韓国人選手が勝つということは、そのままKLPGAの実力の高さとイコールになり、その効果でスポンサーも集まり、大会数や賞金規模が大きくなりました」

その成長を如実に表す興味深いデータがある。KLPGAツアーの年間試合数と賞金総額だ。

2009年度は18試合・69億3000万ウォンだったが、翌2010年度は21試合・96億4000万ウォン、2011年度は19試合・99億8000万ウォン、2012年度は20試合・111億6000万ウォン、2013年度は22試合・131億5000万ウォン、2014年度は27試合・165億600万ウォン、2015年度は29試合・185億4700万ウォンと上昇曲線を描いているのだ。それどころか、2016年には33大会・219億ウォンと、目標にしてきた30試合・200億ウォンの大台を突破した。

(参考記事:美しきメディア露出とスキンシップに注力する韓国女子ゴルフ成功戦略とは?)

韓国が昨今、深刻な経済不況にあることはよく知られている。多くの企業が業績不振にあえいでおり、盤石だった財閥さえも窮地に立たされている。そして、その煽りをもろに受けているのが、韓国スポーツ界でもある。

韓国スポーツ界は、今の日本では考えられない長くて根深い“財閥とのくされ縁”があるが、財界ランキング12位の現代重工業、24位の大宇造船海洋、48位の韓進重工業などは、造船・重工業業界の長引く低迷により、それまで支援してきたアマチュアスポーツのスポンサーから撤退した。韓国の国民的スポーツであるプロサッカーのKリーグやプロバスケットボールのKBLなどは、リーグ戦のタイトルスポンサーがなかなか見つからず苦労しているのだ。

そんな状況下にありながら、KLPGAだけは新規のタイトルスポンサーが増えている事実は、それだけKLPGAの価値が高まっている証拠とも言えるだろう。

「国内一位が世界一位」というスローガン

そして、その急成長を牽引してきたのが選手たちでもある。韓国はもちろん、日本やアメリカで活躍する選手たちが、KLPGAの価値を高めているとカン・チュンジャ副会長は言うのだった。

KLPGAの関係者たちが数年前から掲げているスローガンがある。

「国内一位が世界一位だ」。選手のレベルはもちろん、プロツアーとしての規模やステイタスでも世界の頂点に立つことが目標だという。歴史や伝統ではアメリカや日本よりも後発の韓国女子ゴルフが世界ナンバーワンになるためには、賞金規模などまだまだ解決しなければならない課題も多いが、昨今の韓国女子ゴルフの勢いを見ていると、その夢も決して絵空事ではないような気がする。

イ・ボミ人気やアン・シネ旋風に沸きつつ、彼女たちを輩出したKLPGAの急成長ぶりにも注目していく必要がありそうだ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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