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海峡を渡った長身右腕・門倉健氏が語る「韓国プロ野球の真実」その2

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
サムスンのコーチ時代の門倉氏(写真提供:SPORTS KOREA)

現役時代は中日ドラゴンズ、大阪近鉄バファローズ、横浜ベイスターズ、読売ジャイアンツなどで活躍し、2005年にはセ・リーグの最多奪三振のタイトルを獲得した門倉健氏。2009年から2011年までは韓国プロ野球でも活躍したが、そこで知った「韓国野球界が見たニッポン」とは――!?

―韓国の球界関係者たちから“日本野球の良さを伝えてほしい”という要望があったということは、ちょっぴり意外です。

「僕もそうでした。世間一般的に言うと、どうしても韓国野球は日本野球に対して敵意むき出しというイメージが強いじゃないですか。僕が韓国に行ったときは、ちょうど第2回WBCが終わった直後でもありましたから」

―ただ、そんなイメージを変えることがあったんですね?

「ええ。僕が最初に所属したSKワイバーンズには、韓国代表の正捕手だったパク・キョンワンがいたんです。彼は韓国では日本で言うところの古田敦也さんみたいな地位にいたスターなのですが、ロッカールームが隣同士ですぐに仲良くなり、彼に一度、聞いたことがあったんですよ。 “日本の野球をどのように見ているか?”と。すると、思いがけてない言葉が返ってきたんです」

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―どんな言葉だったんですか?

「“俺たち韓国の野球人たちにとって、日本野球は雲の上のような存在だ”と。彼らにとって、日本との対戦は“対決”というよりも、“自分たちの真の実力を試す場”だったと言うんですね。WBCで何度もあった日本戦も、韓国野球が今、どれだけの地位まで上がっているかを確かめるための試合なので、“どうしても他の国とやるときよりも必死になってしまうんだ”と、真顔で言うんですね。野球の日韓戦も激闘が多かったですが、それを聞いて、ハッとさせられました」

―社交辞令ではなく、本気で日本野球をリスペクトしていると感じたんですね。

「そうなんですよ。WBCで韓国が日本に勝ったあと、マウンドに彼らの国旗を立てたじゃないですか。僕は最初とても挑発的に感じて気分が悪かったけど、韓国人選手たちにあのときの心理状態を聞いてみると、想像していたのとちょっと違うんです」

―なんて言っていたんですか?

「あれは別に、“俺たちは日本に勝ったんだということをひけらかしたいわけではなく、“韓国野球がついにこのレベルまで到達したんだ“という嬉しさの表現だったらしいんですよ。決して日本に対する挑発や敵対心の表れではない、と。うまく言えませんが、 “韓国の選手たちは日本を目標にしているんだ”“日本の野球をリスペクトしているんだ”という本心が伝わってきて、自分の中でそれまであった韓国で野球をすることのやりづらさみたいなものが、スーッと抜けていったんですよ。むしろ、そこまで日本野球を評価してくれているなら、自分も日本の野球人として韓国でしっかりやらなければならないなと自覚を強くしたくらいです(笑)」

―韓国時代はよく質問攻めにもあったそうですね。

「パク・キョンワンからはもう毎日質問攻めですよ(笑)。彼は僕よりも1歳年上で、かなりの成績を上げている選手なんですけど、“とにかく俺に日本野球のことを教えてくれ。キャッチャーとして俺はまだまだ成長したいし、日本野球のキャッチャ―のことやリード、配球、練習方法、体調管理まで、お前が知っているすべてを教えてくれ“と言われました(笑)」

―勉強熱心というか、ガツガツしているんですね、韓国の選手たちは。

「日本野球のノウハウをもっと知りたいという気持ちが伝わってきましたし、日本の選手たちを例に出して、“自分もああいう選手になりたい。彼はどんな技術を持っていて、どんな練習をしているんだ”とよく聞かれました。イチロー選手に関しても、 “イチローは本当にすごい”という感じで、みんなリスペクトしているんですよ。“イチローのような選手になりたい”という韓国人選手は多かったですね」

―イチロー選手に関しては「30年発言」の因縁を超えて、最近は「人間イチロー」の姿に共感し刺激を受けている韓国人選手が多いと聞きますが、そのほかには?

(参考記事:韓国人が抱く“イチローへの愛憎心”を変える人間・鈴木一朗の努力と涙)

「挙げたらキリがないほどですが、ひとつの象徴的なエピソードを紹介するなら、韓国の球団が春に日本でキャンプするじゃないですか。僕もSKやサムスン時代に日本にキャンプに来て、日本の球団とオープン戦などをすると、韓国のチームメイトたちからかならず頼まれることがあるんですよ。 “あの選手のバットを1本もらってきてください”とか、“あの選手のグローブをちょっと触ってみたいんだけど、紹介してくれないか”とか(笑)。まるでプロ野球選手に少しでも近づきたいどこかの野球少年のようなんですね。僕はサムスン・ライオンズで投手コーチも務めましたが、そのときは特にそうでしたよ」

―あまり知られていませんが、実は門倉さんのように「韓国プロ野球で活躍した日本人コーチ」も多いですね。韓国球界で外国人選手としてプレーし、コーチにもなったのは門倉さんが初めてではないでしょうか。今回のWBCにも教え子が多かったのでは?

「ピッチャーでは、オ・スンファン、チャン・ウチャン、シン・チャンミンなどですね。野手だとパク・ソンミンやチェ・ヒョンウがサムスンで一緒にやっていますね。結構一緒にやっている選手が多かったので、今回のWBCは残念でした」

―韓国は世代交代が進んでいないというか、第2回のWBCからさほどメンバーが変わらず、世代交代が進んでいないように映ります。それが敗因のひとつに挙げられいます。

「そうなんですよ。イ・デホ、キム・テギュン、オ・スンファンなど経験値があるので、それを強みにしてそれなりにやるんじゃないかと思いましたが…。イ・スンヨプも40歳を超えて今季限りでの引退を表明するなど、韓国プロ野球は今、ひとつの過渡期にあると言えるかもしれません」

日本と同じように本日開幕を迎える韓国プロ野球。今季はかつて北海道日本ハム・ファイターズを指揮したトレイ・ヒルマン監督かSKワイバーンズの指揮官に就任したりと、新しい話題も豊富だ。ただ、WBCのショックは癒えておらず、韓国プロ野球が抱える課題は多い。

(参考記事:北海道で愛された元日ハムのヒルマン監督は韓国球界でも成功できるだろうか)

(参考記事:「暴かれた化けの皮」との声も。WBC惨敗で韓国野球バブル大崩壊へと向かうのか)

そんな韓国プロ野球に指導者としても携わった門倉健氏。その門倉氏の目から見た韓国プロ野球の課題は何か。次回はこのテーマに迫ってみようと思う。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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