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「汚れた王者」「国際的な恥さらし」となってしまったKリーグ全北現代の“罪と罰”

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
2016年の全北メンバー。彼らに罪はないのだが……。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

やはりと言うべきか、当然と言うべきか。韓国Kリーグの常勝軍団で昨季アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)覇者である全北現代の、今季ACL出場権没収が正式決定した。

発端は2013年。当時、全北に所属したスカウトが審判を買収。それが昨年5月に発覚し、今年1月にアジアサッカー連盟が今季ACL出場権はく奪を決定したが、全北現代はこの裁定に納得できず、国際スポーツ仲裁裁判所(CAS)に異議申し立てをしていた。だが、CASは2月3日、全北の異議申し立てを棄却したことで、改めて全北現代の今季ACL出場権が没収されることになった。

(参考記事:解説/全北現代の審判買収事件とACL出場権剥奪はなぜ起きたのか

もっとも、この決定は当然とも言える。何しろ数年前のこととはいえ、クラブ職員であるスカウトが審判を買収していたのだ。問題のスカウトは9月28日に懲役6カ月・執行猶予2年を宣告されている。つまり、有罪判決を受けたわけで、全北に罪があったことは法的にも明らかになっていたのだ。

にもかかわらず、Kリーグの賞罰委員会が全北現代に下した処罰は、「勝ち点9の剥奪と制裁金1億ウォン」のみ。ファンたちの間では「イタリアのユベントスのように優勝カップ剥奪に2部降格すべきではないか」という意見もあったことを考えると、その罰は軽くて甘すぎるとしか言いようがなかった。韓国では“綿棒で叩かれたような処罰”と皮肉られたほどだった。

そうしたなかで年明け早々にAFCから処分が言い渡され、CASに異議申し立てした全北現代だっただけに、サッカーファンや世論の支持は得られなかった。

全北現代は韓国屈指の法律事務所と契約し、「スカウトの審判買収が八百長まで発展した証拠が不十分で、すでにKリーグからも処罰を受けているのでAFCの決定は二重懲戒処分だ」と主張したが、韓国では「名分なき訴訟」「無謀な抵抗」「国際的な恥さらし」と揶揄された。

それでも、世界的自動車メーカーのひとつであるヒュンダイ自動車を親会社とする全北現代としては「名誉回復のために異議申し立てが必要だった」という事情もあったようだが、結果的にはCASからも「ACL出場の資格なし」とされてしまっただけに、そのダメージは大きいと言わざるを得ないだろう。

キャンプ先のドバイでCAS棄却の一報を受けた全北現代のチェ・ガンヒ監督も、「当初は(CAS)に控訴すべきではないという意見もあった。Kリーグの懲戒も良くなかった。誰もが納得する処罰が下されるべきだった」とコメント。問題発覚当時、Kリーグ・チャレンジ(2部)降格も考慮したというチェ・ガンヒ監督は「今回の決定でかわいそうなのは、ファンとサポーターだ。これから後ろ指がさされる彼らを思うと、申し訳ない」と苦渋の表情を浮かべたという。

筆者も今回の棄却の知らせを聞いて真っ先に浮かんだのは、全北現代の選手たちである。日本の選手たちと育んだ友情を励みに、ベテランの領域に立っても今なお奮闘するイ・ドングッなどは、今回の決定をどう受け止めているのだろうかと思うと、やるせない気持ちになる。

(参考記事:全北イ・ドングッが今こそ明かす日本サッカー黄金世代との「友情秘話」

何よりも大きなダメージを負ったのはKリーグだろう。2011年5月には自殺者まで出た八百長事件が発覚したKリーグだが、今回の一件で審判買収があったことも世界に晒すことになってしまったのだのだから。それもKリーグの常勝軍団とされていた全北現代が、である。

近年、韓国ではKリーグの存在価値を巡ってさまざまな意見が飛び交っている。一昨年夏には「Kリーグはセーリング・リーグに成り下がってしまった」と嘆く声が起き、最近は長引く経済不況で親会社の支援もままならない状態で、市民クラブの経営状態も火の車。企業や地方自治体がサッカークラブを運営することへの是非についても議論が絶えない。

(参考記事:Kリーグが企業からも地方自治体からも愛されていない理由

そんななかで成績・人気の両方で成功し、親会社や地方自治体からも愛され、何よりも「ACLで勝つことで示されるKリーグの存在価値」を体現してきたはずの全北現代が、7年連続として出場したきた“アジアの舞台”は出場できなってしまったことで、Kリーグが負うことになった痛手は大きい。

全北現代に代わって、同じくヒュンダイ・グループ系列の蔚山現代が2月7日のACLプレーオフに出場するが、Kリーグ勢が今季もACLで好成績を収められる保証はどこにもない。むしろ中国スーパーリーグやJリーグに押されて、Kリーグ勢が惨敗に終わる可能性もあるだろうし、Kリーグ勢の不振が続けば、「常勝軍団の全北が出場していれば」との声も出てくるかもしれない。

ただ、そこに同情の余地はないだろう。全北現代のACL出場禁止処分は“身から出た錆”なのだ。

今回のCAS棄却は全北現代だけではなく、韓国サッカー界全体が重く受け止めるべきだろう。社会的にも重く受け止めなければ、問題は繰り返される。二度と同じ過ちを繰り繰り返さないためにも、韓国サッカー界には改めて今回の「罪と罰」に対する自戒と猛省が求められる。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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