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グラドル美少女写真集がバカ売れ。『君の名は。』小説も人気でも、深刻な韓国出版不況

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真提供=S-KOREA編集部)韓国では原作小説も大人気だ

日本で出版不況が囁かれてどれくらいになるだろうか。特に雑誌は苦戦が続き、昨年年末には雑誌販売が41年ぶりに書籍を下回る見通しになったことが出版科学研究所の調査で明るみになり、雑誌業界関係者たちは落胆の色を隠せなかった。筆者もライターとして長く雑誌作りに携わってきただけにショックだったが、雑誌の苦戦は何も日本に限ったことではない。

お隣・韓国でも雑誌の休刊・廃刊は後を絶たない。昨年4月には新聞社『京郷新聞』が発刊し、創刊34年の歴史を誇る『レディ京郷』がその歴史に幕を下している。韓国でも雑誌不況は深刻なのだ。

その深刻さを物語るデータもある。韓国の大手広告代理店「第一企画」が発表した雑誌の年度別広告収入だ。2013年は4650億ウォン(約465億円)、2014年は4378億ウォン(約437億円)、2015年は4250億ウォン(約425億円)と年々縮小傾向にあるという。

2016年の統計はまだ出ていないが、4000億ウォン(約400億円)に届くか届かないかのラインだったらしい。雑誌にとって収益の大きな柱である広告収入も不振なのだから、日本同様に先行きは暗い状況だ。

“グラドル登竜門”の写真集は品薄完売状態!!

そんななかで健闘が目立つのが、写真集である。年末にはKリーグの公式写真集が韓国の大手書店チェーン「教保文庫」で大々的なイベントを行って話題になったし、年明け早々には『MAXIM B SIDE』というタイトルが付けられて4パターンが作られたグラドルの写真集が予約時点で品薄完売状態になって、それを各メディアが報じていた。

(参考記事:業界騒然!! 4パターンがすべて完売品薄状態の怪物写真集『MAXIM B SIDE』とは?

『MAXIM B SIDE』は、韓国の人気男性誌『MAIXM KOREA』が発行した写真集だ。勝ち抜きで素人モデルのナンバーワンを決める「MISS MAXIM CONTEST」を開催しており、その受賞者たちはモデルやグラドルとして活躍する、言わば“韓国のグラドル登竜門”だ。

『MAXIM B SIDE』はそのコンテンスト上位者たちを厳選した写真集であるが、もともと『MAXIM KOREA』は日本のグラドルを起用して伝説を作ったこともある。

名付けて「篠崎愛表紙完売伝説」。そんなネームバリューもあって品薄状態にあるようだが、女性モデルを作った写真集の売れ行きが韓国の出版業界で話題になるのは今回が初めてではない。

2015年には中堅出版社が発表した9人の美少女たちのオムニバス写真集『Girls 少女たち』たちが発売第1週目で韓国の大型書店チェーン「教保文庫」の総合ランキング上位に入り、品切れ店が続出した。

インターネット転売サイトではプレミアがついたほどだったが、賛否両論も起こった。写真集を撮影したRotta氏の作風は、世界的な芸術家でもある村上隆が自身のFacebookに「好み過ぎる!」とコメントしたほどだったが、韓国ではロリータ論争が起きたのだ。

昨年10月にインタビューしたRottaは、「そんな論争も僕の写真集の爆発的ヒットにつながりましたね」と自虐的に語っていたが、マニアックな写真集がベストセラーになったことだけでも韓国では凄いことである。

(参考記事:ロリコンがタブー視される韓国で挑戦し続ける気鋭のクリエイターRotta(ロタ)が語った『Girls 少女たち』

韓国出版市場を盛り上げる村上春樹と『君の名は。』

というのも、韓国の出版市場では雑誌はもちろん、写真集さえもマイナーなのである。韓国出版文化産業振興院が昨年末に発表した「2016出版産業実態調査」によると、2015年の韓国出版市場でのジャンル別売上比重は学習誌が35.8%、参考書が23.4%、単行本が18.9%、全集が13.1%となっており、雑誌も写真集は蚊帳の外といった扱いだ。

前出した写真集はそうしたなかでベストセラーとなり話題となっただけに、韓国出版界にとっては好材料ともいえるが、気になるのは韓国出版界全体の業績が落ち込んでいることだ。

前出した韓国出版文化産業振興院の「2016出版産業実態調査」によると、2015年度の出版業界の総売り上げは前年度(2014年)よりも4.8%ダウンの4兆278億ウォン(約4027億8000万円)だったという。出版業界で仕事する従事者も前年比3.7%ダウンしているという。

韓国成人の読書率が77.8%(1999年)から65.3%(2015年)に落ちているという調査結果もある。韓国でも日本同様に出版界全体の地盤沈下が深刻なのだ。

そんななかで確かな存在感を放っているのが、日本の書籍たちでもある。村上春樹の『ノルウェイの森』30周年記念限定版や、韓国でも大ヒットしている映画『きみの名は。』のノベライズ本や関連書籍が人気で、「日本の書籍がなかったら韓国の出版業界は回らないのか」と思えるくらいの勢いだという。

(参考記事:『君の名は。』韓国語版原作小説が売れ行き好調!! 韓国における日本文学の位置は?

ただ、年明け早々には韓国出版界に暗い影を落とす出来事も起きた。

韓国出版界の大手流通業者である「ソンイン書籍」が200億ウォン(約20億円規模)の手形を支払えず、不渡倒産。ソンイン書籍は日本で言うところの日販とトーハンのような最大手だが、その最大手が不渡を出したことによって出版社、印刷会社などの業界に及んだ被害は、総額330億ウォン(約33億円)にもなると言われている。ただでさえ業界下降気味の韓国出版界にとっては、ダブルショックどころかメガトンショックだと言っても言い過ぎではないだろう。

雑誌も苦戦し、書籍売上も伸びず、流通網まで不渡り倒産してしまった韓国出版業界。その状況は日本となんら変わりなく、このままではむしろともに沈没しかねない。出版不況は日韓だけではなく世界各国で叫ばれているが、なんとか打開策を見出したいところだが……。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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