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大ヒットドラマ『逃げ恥』が韓国に示してくれた可能性と新たなる期待

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
チャンネルWの番組HPより

今年下半期の最大のヒット作となったTBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』。“恋ダンス”やロケ地巡りがブームになるなど、さまざまな社会現象を巻き起こしたが、個人的にもっとも喜ばしかったことは“風見さん”を演じた大谷亮平の名と存在が日本でも広く知れ渡ったことだ。

そもそも大谷亮平は長らく韓国で活動してきた俳優だった。

下積み生活も長く、過去には出演作で演じた役柄をめぐってナイーブな状況に立たされたこともある。それでも「作品作りにこだわりたい」と言い続けてきたその生きざまからは、ブレることがない役者魂を感じさせたし、そんな大谷に好意を抱く韓国人は今も多い。

(参考記事:『逃げ恥』でブレイク中の大谷亮平はいかにして韓国で人気者になったか)

そんな彼が『逃げ恥』を機に日本でも全国区になったことを、韓国メディアも喜んでいる。

「大谷亮平、日本でも通用した」というタイトルの記事を掲載した『韓国経済TV』もこう評価していた。

「演技に対する情熱で韓国の観客たちから拍手を受け、韓日関係の架け橋的な役割をしてきた大谷亮平が、韓国で多くの愛情を受けてきたことに続き、彼の自国でも人気を得て“逆輸入”俳優の良き事例として確固たる地位を得たことに、韓国のネチズンたちも熱い反応を示している」

大谷の成功に熱狂するのは、彼のファンだけではない。昨今韓国ではTAKUYA、秋葉里枝、藤田小百合など多くの日本人タレントが活躍しているが、大谷の成功はそんな日本人タレントたちにも大きな励みにもなったことだろう。

(参考記事:日本に“逆輸入”される可能性あり!? 韓国芸能界で活躍中の日本人たち)

とりわけ韓国で今、もっとも人気がある日本人女優の藤井美菜には期待したい。

日本ではまだまだ無名の彼女だが、韓国では清純でありながらセクシーさも兼ね備えた女優として認知されており、今年9月の『ソウル・ドラマアワード2016』では、アジア・スター賞(女性部門)にも輝いている。

まさに芸歴も実績も十分。韓国で活躍した日本人女優と言えば、笛木優子が有名だが、藤井も近い将来、大谷のように日本に逆輸入される日が来るのではないだろうか。

そんな期待と合わせて膨らむのが、『逃げ恥』の韓国リメイクでもある。

この欄でも何度か紹介してきたが、『逃げ恥』は韓国のケーブルテレビ局であるチャンネルWで1週間遅れながら放映され、すでに韓国でも確かなファンを獲得している。

韓国で暮らす私の友人たちの中でも『逃げ恥』視聴者がとても多く、それまで日本ドラマに興味がなかったというサッカー記者さえも韓国ネットユーザーたちの評判を聞きつけて、『逃げ恥』韓国語字幕版を毎週楽しみにしていることを、フェイスブックで告白していた。

韓国の視聴者たちが『逃げ恥』に惹かれるのは、登場人物のキャラ設定や状況にあるのだろう。新垣結衣演じるみくりのような女性も、星野源が演じる独身男も、韓国には多く存在する。『逃げ恥』には、韓国にも通じる世界観があるのだ。

(参考記事:ドラマ『逃げ恥』に感情移入せざるを得ない韓国若者たちのリアル)

個人的には、だからこそ『逃げ恥』の韓国版リメイクの実現を大いに期待したくなる。平匡やみくりが見せてくれた、素朴でけなげに生きる姿や“ムズキュン”な恋模様は、現実に追われ疲れ果て、夢や希望も諦めつつある韓国の視聴者たち(特に若者たち)に、 “ときめき”と“元気”を与えてくれるような気がするからだ。

これまでも韓国でリメイクされてきた日本ドラマは多いが、『逃げ恥』のように日韓両方で呼応できる題材は最近では珍しくなっている。

まして昨今は日韓の関係が微妙な時期。そんな中で互いに共有できる世界観やコンテンツがあれば、その心情的な距離も大いに縮まるのではないか。『逃げ恥』はそんな淡い期待を抱かせてくれる作品だと思うのだ。

日本だけではなく、韓国の日本ドラマファンたちも楽しませてくれた『逃げ恥』。当分の間は『逃げ恥』ロスが続くだろうが、これからは『逃げ恥』の新たな可能性が広がっていくことを大いに期待したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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