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クラブW杯アジア代表の元Jリーガーが語った「日本と韓国の違い」

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
キム・ボギョン(左)とキム・チャンス(右)。(撮影:慎武宏)

AFCアジア・チャンピオンズリーグ覇者として、FIFAクラブ・ワールドカップに出場するKリーグの全北現代には、日本と縁がある選手が多い。

パク・ウォンジェ(2009年 大宮アルディージャ)、チョ・ソンファン(2009年 コンサドーレ札幌)など、かつてJリーグでプレーしたことがある選手が多いのだ。

今季は大分トリニータ、セレッソ大阪、松本山雅でプレーしたキム・ボギョンや、2013〜2015年まで柏レイソルに所属したキム・チャンス、2014年にはFC東京で活躍したブラジル人FWエドゥーも加わっている。

日本で選手生活を送った彼らが、ACL王者として日本に戻って来る。これまで多くの韓国人Jリーガーを取材してきたが、クラブ・ワールドカップ出場のためにふたたび日本に戻ってくるのである。

(参考記事:「イルボン(日本)はライバルか」を韓国人選手に問う)

ただ、彼らにとってはさほど特別なことではないらしい。「特別な感慨深さはないですよ(笑)。Jリーグを離れたあとも日本にはACLのために行っていますし、レイソルの選手たちとは今も連絡を取り合いますから。最近も大谷(秀和)と電話で話しました」と、キム・チャンスは笑った。

彼らにとって、かつて所属したJクラブの近況は今も気になるらしい。キム・ボギョンからもこんな言葉が返ってきた。

「松本山雅、残念でしたよね。気になってちょくちょく試合結果はチェックしていたんです。降格1年でふたたびJ1復帰できれば良かったのに、運がなかったというか…。逆に大分はJ2に、セレッソはJ1に復帰できて良かった」

韓国ではJリーグの試合結果も逐一記事になるが、さすが情報が早い。一部の選手やメディアの中には「Jリーグの魅力は10年前に比べて半減した」とする者もいるが、実際に日本でプレーした彼らすると、かつての古巣は今でも気になる存在なのだろう。

キム・チャンスも言っていた。

「リーグのシステム、サッカーインフラ、観客の応援文化など、レイソルではたくさんのことを学ぶことができました。パス主体の日本サッカーを肌で感じ、体でも学ぶこともできたし、一人の人間としても成長できたと思います」

興味深いのは、Jリーグを知る彼らの日韓サッカー比較だ。Jリーグでプロとしてのキャリアをスタートさせ、2012年から2015年までカーディフ・シティやウィガンなどで欧州生活も経験したキム・ボギョンは、Kリーグの環境についてこんなことを言っていた。

「イングランドや日本では、ピッチ外のことは自分で管理しますよね。でも、韓国では合宿生活が主で、チームに管理してもらっている印象。チームスケジュールも、イングランドが1か月単位、Jリーグが1週間単位で事前に出るけど、Kリーグではなかなか決まらず、直前になってスケジュールが出てくる。そういうところに戸惑います」

日本人Kリーガーだった渡邉大剛も、Kリーグの選手管理法に馴染めなかったと明かしているが、韓国人であるキム・ボギョンですら「戸惑った」というのだから、Kリーグもそろそろ改善が必要なときを迎えていると言えるだろう。

(参考記事:日本人Kリーガー渡邉大剛が見て感じた“日韓サッカーの決定的な違い”)

ただ、それでもKリーグがACLで結果を残してきたのも事実である。「ACLに対する取り組みに日韓で違いがあると思うか?」という問いに、ふたりはこう答えた。

「僕がレイソルに所属したとき、全北に負けたことはなかったんですよ。当時のレイソルは、Jリーグでの試合とは異なるやり方で全北とのACLに臨みました。タイトにディフェンスしてフィジカルコンタクトでも一歩も引かない姿勢を示したのが良かったと思います。

ただ、僕がレイソルにいたとき、ACLでは2013年にベスト4、2015年はベスト8でした。そこにはいろいろな理由もあったと思いますが、全北に来て感じるのは、ACLに勝つためには選手層を厚くしなければならないし、クラブとしてどれだけタイトル奪取に切実になれるか、というこです。優勝に対する切実さが、全北にタイトルをもたらしてくれたと思う」

(キム・チャンス)

「リーグのシステムの成熟度や選手の質など、Jリーグはアジアでもレベルがかなり高いほうだと思う。ただ、国内の素晴らしい日本人選手たちはどんどんヨーロッパに飛び出していきますよね。韓国も日本と同じような課題を抱えていますが、逆に中国などは良い選手がどんどん入ってくる。そういった点で、Jリーグの競争力は落ちる。

うまく言えませんが、Jリーグならではのカラーというか特長はあると思うのですが、それがリーグの競争力向上には繋がっていないという印象。Jリーグももっと積極的に選手獲得に投資すれば、おのずと競争力は備わっていくと思います。環境面やシステムは盤石なのですから」(キム・ボギョン)

タイトルへの切実さ、投資への意欲。ACLを制した全北現代にはそれがあったということになるが、注目したいのはそんな全北現代がクラブ・ワールドカップでどんな姿を披露するか、だ。

「レイソル時代にクラブ・ワールドカップのことは話で聞いていましたが、僕自身、初めての経験なので楽しみにしています。アジア代表として、世界の超一流のクラブと真剣勝負できることは、選手としても良い機会になる。とても楽しみですね」(キム・チャンス)

「今季は全北現代に来て、改めてサッカーの面白さを感じたシーズンでした。日本やヨーロッパで選手生活を送ってたくさん学びましたが、今度は全北の一員として成長した姿を日本のファンたちにお見せしたいと思っています。初戦はかならず勝ちたいですね。初戦を勝てば、レアル・マドリードとの対戦が待っている。この機会を逃してしまうと、いつまたレアルと対戦できるかわからない(笑)。ただ、初戦で対戦するクラブアメリカも手ごわい相手だと思います。僕たちができるすべてを注ぎ、チームとして太刀打ちしていきたい」(キム・ボギョン)

アジア王者の一員として、ふたたび日本に戻ってくる元Jリーガー。今年のクラブ・ワールドカップは彼らの活躍にも注目しておきたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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