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明暗分かれたリオ五輪サッカー。韓国メディアは手倉森ジャパンの敗戦をどう見たのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
リオ五輪で1勝1敗1分の成績を収めた日本(写真:アフロ)

1勝1敗1分けの成績でリオデジャネイロ五輪のグループリーグ敗退が決まったサッカー男子の日本代表とは対照的に、韓国五輪代表はフィジーに8-0、ドイツに3-3、メキシコに1-0の成績を収めて2勝1分けグループ首位で決勝トーナメント進出を果たした。まさに日韓サッカーは明暗が分かれた格好だ。

(参考記事:元日本代表フィジコも加入していたサッカー・リオ五輪韓国代表の内情と手倉森ジャパンとの違い)

韓国は明日未明、ホンジュラスと準々決勝を戦うが、韓国メディアは日本のグループリーグ敗退をどう見ているのだろうか。『サッカーダイジェストWEB』に寄稿した韓国メディアの視点を、以下に紹介したい。

■「“サムライの没落”日本」と報じた韓国メディア

リオデジャネイロ五輪でグループリーグ敗退に終わった手倉森誠監督率いる日本五輪代表のことは、韓国でも詳しく報じられている。

「奇跡はなかった日本サッカー、スウェーデンを下したが8強進出は挫折」(『朝鮮日報』)

「日本スウェーデンに勝っても脱落、またしても屈辱を味わう」(『アジア経済』)

「“サムライの没落”日本、スウェーデンを1-0で下してもグループリーグ脱落」(『スポーツ京郷』)

など、1勝1分1敗の成績を残してもグループリーグ突破できなかったことにウェイトを置いた記事も多かった。

こうした見出しや記事の引用だけではわからない韓国メディアの日本評を知りたくて、サッカー専門メディアで活躍するサッカージャーナリストに話を聞いた。

「日本でもそう見ているでしょうが、やはり初戦のナイジェリア戦の敗北が痛かったのでは」

開口一番にそう語ったのは、『スポータルコリア』のキム・ソンジン編集長だ。大会前にも「ナイジェリア戦に白星を奪えそうだが、先制点を許してはならない」としていたが、そこから日本の歯車が狂ったと見ている。

「ベストな状態でなかったナイジェリアに5失点は酷すぎた。もちろん、日本の追撃の意志も評価するが、序盤の浮き足立つ姿はかつての日本の短所だった軟弱な精神力がそのまま出てしまったように映った」

韓国メディアのなかには、「ナイジェリアばかりを見続けて荷造りすることになった日本」(『京郷聞』)と初戦から最後の星勘定までナイジェリアに振り回されたことを皮肉する記事もあったが、『フットボリスト』のハン・ジュン記者は日本の守備力にグループリーグ敗退の理由があったのではないかという。

「攻撃陣の技術は全般的に良かったが、問題は守備にあった。ナイジェリアに5失点、コロンビアに2失点は、相手の攻撃が良かったこともあるが、日本の守備の虚弱さに問題があったのでは。日本は、守備的MFやCBのポジション、さらには空中戦やルーズボールの奪い合いで闘争心と戦闘力が感じらなかった。リーダー不在も大きかったのではないか」

リーダー不在と同じ文脈で韓国メディアが多く指摘しているのが、「韓国と日本、ワイルドカードが分けた喜悲」(『スポーツ韓国』)などオーバーエイジの人選である。ソン・フンミン、ソク・ヒョンジュン、チャン・ヒョンスなど海外組で固めそれぞれ効果的な活躍を見せている韓国に対し、日本のオーバーエイジはチームにプラスアルファをもたらすことができなかったという見る記者が多い。

(参考記事:リオ五輪に挑む韓国サッカー界の“コルチャギ(谷間)世代”と強力オーバーエイジたち)

韓国の著名なサッカージャーナリストであるソ・ホジョン記者もこう指摘した。

「韓国も日本も2014年ワールドカップで世界との差を痛感したはすだ。国際大会で成果を出すためには、相手以上に準備することが必要だが、日本がそんな切実さをもって今回の五輪の準備をしたかを問いたい。端的な例がオーバーエイジだ。韓国は3人とも海外クラブに所属しており所属クラブとの協議が容易ではなかったが、説得して招集にこぎつけ、その効果が表れている。日本は欧州クラブに過度に配慮してオーバーエイジの人選でかなりの譲歩があったと聞くし、直前には久保も招集できなかった。こうした部分ひとつをとっても、日本はリオ五輪の準備で万全を尽くせなかったと言えるのではないか」

そんな日本とは対照的に、グループリーグ突破を果たした韓国。「日本、イラクは脱落、8強進出した韓国がアジアの自尊心を守った」(『アジア経済』)、「リオ五輪サッカー、喜悲分かれた韓日」(『日曜新聞』)と韓国メディアも対照的に終わった両国の結果を報じているが、『中央日報』のサッカー班チーム長であるソン・ジフン記者は言う。

「韓国と日本は対照的な結果に終わったが、今年1月のU-23アジア選手権の決勝戦こそが、韓国五輪代表に大きな悟りを与えてくれた。言うまでもなく韓国は大量リードしながら日本に逆転負けを喫した。あの経験を通じて、韓国は勝っている状況でも油断しないこと、押されていても最後まで諦めてはいけないというふたつの悟りを得た。初戦のフィジー戦やドイツ戦、試合内容では押されたが勝利したメキシコ戦などが、その成果だろう。アジア選手権決勝で日本に逆転負けを喫したのが、韓国にとってはむしろ災いが転じて福となった」

(参考記事:ドーハが“奇跡の地”から“衝撃の敗北の地”へと変わった日)

そう語り、さらに続けた。

「韓国と日本は同じく“谷間世代”の選手たちだが、韓国の選手たちは、4年前のロンドン五輪で銅メダルを獲得した先輩たちを越えようとする意志も強い。日本選手たちは、どんな気持ちだったのだろうか気になる」

「頭を下げた日本サッカー、勝っても8強脱落」(『SBSスポーツ』)、「こじれて絡まった日本、五輪の舞台から苦い退場」(『エクススポーツ』)などとも報じられている手倉森ジャパンのリオ五輪グループリーグ敗退。 韓国メディアの論調が癇に障るところもあるだろうが、韓国とは対照的な結果に終わっただけに今はひとつの意見として受け止めておきたい。

(参考記事:全文公開!!韓国記者4人が分析する手倉森ジャパンのリオ五輪敗退の理由)

(初出:『サッカーダイジェストWEB』【韓国メディアの視点】日本敗退を「サムライの没落」と報道。「OAの人選」や「守備の虚弱さ」を問題視 8月12日掲載)

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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