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韓国が世界初を謳う『ミス・セクシーバックコンテスト』に潜む矛盾

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
『ミス・セクシーバックコンテスト』の模様(写真提供:SPORTS KOREA)

この欄で紹介したコラム「整形告白や権威失墜に揺れる“ミス・コリアの真実」でも触れた『ミス・セクシーバックコンテスト』決勝大会が昨日8月11日、ソウル市内にあるKBSアリーナで開催された。

同イベントは、文字通り、“後ろ姿美人”を競うコンテスト。「健康な後ろ姿美人を探せ!!」というスローガンのもと、グラマラスで美しい脚線美と適度なボリュームと弾力があるヒップラインを持つ美女を公募してナンバーワンを決めようというもので、今年でなんと3回目を迎えたという。

近年の“マッスル・ブーム”や“フィットネス・ブーム”によって、シム・ウトゥムなどが“国宝級アップルヒップの持ち主”と持て囃されていることは知っていたが、“後ろ姿美女”を競い合う大会まで開かれるほどなのだから、その過熱ぶりを見過ごすわけにはいかないだろう。

ヒップラインを強調した黒いショートパンツにヘソ出しビキニ・スタイルで、なぜか顔には怪しい金のマスクで後ろ姿の美しさを競い合ったようなのだが、主催者側によると、「顔がわかると審査のピントがズレてしまう。あくまでも後ろ姿のセクシーさを競うコンテストであるがための処置」だとか。韓国メディアによると、世界初の“後ろ姿美人コンテスト”だという。

(参考記事:韓国最高の美尻を決める『第3回ミス・セクシーバック・コリア』開催。今年の優勝者は!?)

その模様は中国のオンラインTVでもネット中継されたらしいが、改めて感じるのは韓国人の美女コンテスト好きだ。韓国の美女コンテストと言えば、“ミス・コリア”が有名だが、そのほかにも国際的な美人コンテストの韓国選抜大会も行なわれているし、地域ごとにミス・コンテストが行なわれている。『美人大会、地域祝祭に必要か』と題されたネット公開の論文によると、規模の大小にかかわらず、その数は韓国各地で年間200以上になるらしい。

しかも、最近は“マッスル・マニア”など筋肉美を競い合うコンテストなど、細かくカテゴライズされた美女コンテストが増えているのだから、それらの地区大会を含めれば500は超えるという見方もあるほど。

(参考記事:写真20連発!! 韓国ソウルで行われた“マッスル美女”たちの大会がド迫力!!)

もちろん、そうした流れを「女性を商品化している」と批判する声もある。かつて“ミス・コリア”もそうした非難にさらされ、とある女性団体が『アンチ・ミスコリア選抜大会』を開催したこともあった。

同大会は水着審査、身長や体重、ウォーキングなどミス・コンテストにありがちな既存の審査を一切せず、コンテストの趣旨に同意する女性なら誰でも参加できるような仕組みで開催され、「凝り固まった美の基準ではない女性たちの多様な美しさを見せた」と評価された。

ただ、そんな“アンチ・ミスコリア”が話題になったのは一瞬で、昨年のミス・コリア選抜大会では参加者全員がゴージャスに装飾された水着を着用した“ビキニ・パレード”が行なわれているし、今回の『ミス・セクシーバックコンテスト』では参加者全員がヒップラインを強調した大胆な水着姿を披露している。

しかも、『ミス・セクシーバックコンテスト』は“後ろ姿”に自信がある者なら自薦他薦は問わない完全公募式で、年齢も身長・体重も既婚・独身の区分もなしに応募できる手軽さもあって2500人以上の応募があったそうだ。日本では“腹筋女子”が人気だが、韓国では“マッスル・ブーム”がキッカケになって後ろ姿にまで気を配るほど、容姿への関心がエスカレートしているのかもしれない。

日本の“腹筋女子”人気と韓国の“マッスル美女”ブームの共通点 ヤフーニュース個人2016/08/04

その応募者たちが釜山、蔚山、大邱、光州、ソウルなど6都市で予選を実施。ブラインドボディ審査、スピーチ審査、パフォーマンス審査、ウォーキング審査などで競い合い、それを勝ち抜いた25名の決勝大会進出者たちは、ウォーキングとスピーチのレッスン、ヘルス&ビューティー管理、プロモーション活動、写真撮影などを行なった5週間の合宿を経て決勝大会に臨んだ徹底ぶりだったという。

もはやここまで来ると、単なる美女コンテストでは片付けられなくなる。実際、過去の出場者は、入賞をキッカケにガールズアイドルグループの一員にもなっているのだ。

かつては『ミス・コリア』が数多くの女優を輩出し、最近では レイヤンなど『マッスル・マニア』入賞者が“フィットネス・タレント”として成功しているが、『ミス・セクシーバックコンテスト』も芸能界デビューへの登竜門になりそうな気配であるが、なぜ韓国はこうもミス・コンテストが多いのだろうか。

理由はさまざまだが、韓国の知人が言っていたことにひとつの本質があるような気がする。

「韓国には本当にたくさんのミス・コンテストがある。これほど多い国も世界では珍しいでしょう。ただ、それは裏返せば女性の地位がまだまだ低いから。女性が社会的に成功したり出世するためにもっとも早い近道は、有名スターになることであって、そのためにはミス・コンテスト出場がもっとも手っ取り早い。その流れは避けられないのでは?」

女性を商品化してはいけないという認識がある一方で、当の女性たちがこぞってミス・コンテストに参加する。ここに韓国が抱えるひとつの矛盾があるような気がする。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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