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宇佐美貴史と浅野拓磨の欧州進出を韓国人記者はどう評価しているのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
宇佐美貴史と浅野拓磨(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

ドイツ・ブンデスリーガのアウクスブルクへ移籍が決まった宇佐美貴史と、イングランド・プレミアリーグのアーセナルに移籍することになった浅野拓磨。ふたりの日本人選手の欧州移籍のニュースは韓国でも報じられた。韓国で欧州サッカーに関する多数の著書があるサッカージャーナリストのハン・ジュン氏も言う。

「韓国サッカーとなにかと比較対象になる日本サッカーの有望株ですし、奇しくもふたりとも韓国人選手となんらかの関わりがあるクラブに移籍したこともあって、私も注目しています」

(参考記事:夢や挑戦よりも安定と実利を選ぶ“韓国サッカー海外進出“最新事情)

例えば宇佐美が移籍するアウクスブルクには、チ・ドンウォン、ホン・ジョンホ、ク・ジャチョルら3名の韓国人選手がいる。「アウクスブルクが宇佐美を獲得した背景には、香川真司らブンデスリーガで活躍する日本人選手の存在が大きいと思うが、すでに所属していた3人の韓国人選手によってアジア選手に好印象を抱いたことも少なからず影響しているでしょう」というのがハン・ジュン氏の見方だ。

ちなみに宇佐美は2度目の欧州進出となるが、韓国でも過去にイ・チョンスが、スペインから一度Kリーグに戻った後にオランダに進出しているが、2度目も欧州進出でも成功できなかった。

ハン・ジュン氏は「宇佐美はイ・チョンスと同じ轍は踏まないはずだ」と語る。

「イ・チョンスが2度も欧州進出に失敗したのは、ピッチ内ではなくピッチ外の生活でいろいろと適応できず難しさがあったからでした。2度目のドイツとなる宇佐美にはそうした不安要素はないでしょうし、韓国人選手は日本人選手と良い関係を築きます。

特にク・ジャチョルはマインツ時代に岡崎慎司と良い関係を築き、今も仲が良い。これから宇佐美に重要になってくるのは、いかにチームに溶け込むかでしょうが、ク・ジャチョル試合では良いパスを出してくれるでしょうし、ピッチの外でも心理的にリラックスできるよう働きかけてくれる。きっと良いアシスト役になってくれると思いますよ」

(参考記事:「アジアのロールモデル(見本)だ」韓国が岡崎慎司を大絶賛するワケ)

そんな宇佐美に比べると、アーセナルに移籍した浅野のほうがやや厳しい挑戦になるではないかとハン・ジュン氏は見ている。

ハン・ジュン氏だけではない。浅野のアーセナル移籍が決まった直後、韓国では「アジア人の墓場であるアーセナル、浅野もパク・チュヨンら前轍を踏むのか」(『デイリーアン』)、「アーセナルのアジア人選手残酷史、浅野は例外となるか」(『オーマイニュース』)などの記事も出回った。ハン・ジュン氏は語る。

「稲本潤一、宮市亮、そしてパク・チュヨン。アーセナルはこれまでもアジア人選手を獲得してきましたが、冷静に言うと誰ひとりとして成功していない。失敗ばかりです。その悪い流れの延長として、浅野のアーセナル移籍を見る人が韓国には多いのです」

ただ、ハン・ジュン氏は浅野には、過去の負の歴史を覆すチカラがあると見ている。「今年1月のU-23アジア選手権で浅野の怖さは実感済みです。韓国は2-3の逆転負けを喫しましたが、その引き金を引いたのが彼だったことは誰の目にも疑いの余地はなかった」と前置きしながら、こう語るのだ。

(参考記事:ドーハが“奇跡の地”から“衝撃の敗北の地”へと変わった日)

「浅野のスピードは欧州でも通用するはずですし、爆発力と決定力も素晴らしい。アーセナルがこれまで獲得したアジア人選手のなかで、もっとも潜在能力が高い選手だと思う。しかも、若い。選手としてこれから絶頂期を迎えようとするなかで、いち早く欧州に進出してレベルの高い競争に身を置けることは、彼にとってかなりプラスに働くのではないでしょうか」

ただ、そのためにはひとつの条件があるという。かつてアーセナルに所属したパク・チュヨンを引き合いに出しながら、ハン・ジュン氏は言った。

「浅野とパク・チョユンではアーセナルに移籍した時点での状況は異なります。浅野はこれから伸びる選手でアーセナルもその潜在能力を評価して獲得したのでしょうが、パク・チュヨンは完成された選手として即戦力の期待がかかるなかでの移籍でした。だが、パク・チュヨンはレギュラー争いに勝てず、ベンゲル監督からも信頼を得られなかった」

「問題はここからです。パク・チュヨンは実戦に起用されない日々が続き、結果的にそれが原因で試合感覚が鈍って長いスランプに陥れました。それは時間が経てば経つほど悪化していく、深刻なものでした。現在も好不調の波が激しく、全盛期の輝きを取り戻せていない」

つまり、アーセナルでベンチに燻っているだけでは錆びてしまうということだ。ましてアーセナルのようなビッグクラブでは、チャンスがそう易々と巡ってくるわけでもない。

「アーセナルでいつ来るかわからないチャンスを待つよりも、試合に継続的に出場できるクラブにレンタル移籍して技量を高めた後、アーセナルでのレギュラー争いに挑戦すべきでしょう。とにかくパク・ジュヨンと同じ失敗を繰り返してほしくはない。浅野にはアジア人選手を軽く見下げているアーセナル・サポーターを見返すような活躍を期待します」

欧州の地で韓国人選手とタッグを組む宇佐美と、韓国人選手も沈没した名門クラブで新たなスタートを切ることになった浅野。新たに誕生したふたりの日本人欧州組の動向には、韓国もひそかに熱視線を送ることになりそうだ。

(初出:『サッカーダイジェストWEB』【韓国メディアの視点】浅野と宇佐美の欧州挑戦は成功するのか?韓国人記者曰く、「宇佐美はイ・チョンスと同じ轍は踏まないはずだ」 7月13日掲載)

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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