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キム・ヨナ、浅田真央、羽生結弦のコントラストな三角関係

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
リレハンメルユース五輪2016広報大使も務めたキム・ヨナ(写真:伊藤真吾/アフロスポーツ)

アメリカ・ボストンで行なわれている世界フィギュアスケート選手権。男子はハビエル・フェルナンデスが羽生結弦に逆転し連覇を成し遂げたが、韓国メディアは「フェルナンデスと羽生はともに“キム・ヨナの師匠”ブライアン・オーサーの指導を受けているが、2014年大会では羽生が、昨年と今年はフェルナンデスが制した」と伝えている。韓国で羽生が語られるとき、何らかの形でキム・ヨナはぶら下がってくるようだ。

(参考記事:韓国が見た羽生結弦とキム・ヨナの3つの共通点

では、そのキム・ヨナは現在、何をしているのだろうか。2014年ソチ五輪を最後に引退した彼女は現在、2018年平昌(ピョンチャン)冬季五輪の広報大使を務めており、最近はリレハンメルユース五輪2016の広報大使も務めている。相変わらず企業CMにも引っ張りダコで、韓国メディアによると高麗大学の大学院にも進学してキャンパス生活も送っているらしい。昨日4月1日には韓国プロ野球の開幕戦で始球式も務め、その投球フォームが話題になっているほどだ。

(参考記事:「プロ顔負けの投球フォーム!! “フィギュア女王”キム・ヨナの始球式」

ただ、そうしたキム・ヨナの現状をちょっぴり複雑な心境で見ている者たちも多いとか。スポーツ新聞『スポーツ朝鮮』のフィギュア担当で長くキム・ヨナ番を務めたイ・ゴン記者も言う。

「ヨナは引退後も各種企業のCMに出演する人気者。また、自身が属するというか、事実上、彼女の会社とも言える『オール・ザッツ・スポーツ』を通じて、フィギュアの普及や育成にも努めています。特に子供たちを指導する彼女の表情は選手時代の険しいそれとは異なり、意外な素顔も多くて、それを見ている私たちも微笑ましい気持ちになりますが、今後どのような道に進むべきか、彼女自身が悩んでいるようにも映りますね」

(参考記事:「あっ!」と驚いた表情がかわいい、童心に帰ったキム・ヨナ

イ・ゴン記者が心配するのは、平昌冬季五輪組織委員会や韓国フィギュア界で日に日に高まるキム・ヨナ依存度の大きさだという。

「引退後のヨナはとても幸せな日々を過ごしています。もはやフィギュア選手ではなく“セレブリティ”の仲間入りを果たしたと言えるでしょう。ただ、平昌五輪で彼女が担わなければならない役割は大きい。ご存知の通り、平昌五輪はいろいろと問題が多く、韓国フィギュア界の展望も明るくない。五輪組織委員会やさらにその上の上層部から、ヨナは何かと重責を負わされることでしょう。そうなったとき、彼女が以前から目標にしていたもうひとつの夢の実現に支障が起きないか心配です」

(参考記事:2年後の平昌は大丈夫? キム・ヨナ不在の韓国フィギュアの悩み

現役時代からIOC選手委員になりたいと語っていたというキム・ヨナ。しかし、イ・ゴン記者によると、その夢を実現させるためにはいくつか問題があるらしい。

「現在、韓国のIOC選手委員は2004年アテネ五輪のテコンドー・金メダリストで現在は国会議員のムン・デソン氏が務めていますが、彼の任期は今期かぎりで、2016年リオデジャネイロ五輪でIOC選手委員の投票が行なわれます。その投票に韓国から立候補するのは2004年アテネ五輪・卓球金メダリストのユ・スンミン氏なのですが、もしもユ・スンミン氏が当選すればヨナがIOC選手委員になる機会がまた遠のきます。というのも、IOC選手委員は各国1名ずつとなっているためです。ヨナはIOC選手委員として2018年平昌冬季五輪にかかわりたいと思っていただけに、複雑なのではないでしょうか。ただ、同じ韓国のユ・スンミンの落選を願うわけにもいきませんし・・・」

そんな状態のせいなのか。キム・ヨナは以前、韓国メディアの取材にこんなことも言っていたらしい。

「まだ特にやりたいことが見つからない。こうやって充実した毎日を過ごしていれば、何か新しいことをやろうと思える瞬間が訪れるかもしれない」。人生の第2幕の幕開けがいつなのか、韓国メディアもやきもきしているようなのだ。

(参考記事:韓国のフィギュア女王キム・ヨナは今、何をやっているのか)。

それだけにイ・ゴン記者にはむしろ、浅田真央の復帰が印象的に映るとも言う。

「ヨナを取材しながら浅田真央の成長過程も見てきましたが、五輪などの大一番で力を発揮できない浅田は、ちょっぴり“残念な選手”に映ります。ただ、同時に復帰の知らせを聞いて“凄い”とも思いました。これまでの結果がどうであれ、放棄せず挑戦し続ける姿が印象的です。彼女の必殺技と言えるトリプル・アクセルの完成度に対する意地が、そうさせたのでしょう。せっかく復帰したのですから、あのトリプル・アクセルを大舞台で成功させ、新しい歴史を刻んでほしい。ヨナにはもうそのチャンスはないのですから」

正直なところ、韓国における浅田真央の復帰には賛否両論がある。韓国では常に「トリプル・アクセルへの執着」「弱いメンタル」などのネガティブな話題が取り上げられることが多く、本田真凛が“ポスト浅田真央”と称されることについても「引退を迫られている裏返しなのでは」と同情する声もあるようだが、イ・ゴン記者のように浅田真央の復帰を肯定的に見ている者もいるわけだ。

(参考記事:キム・ヨナも驚いた!? 韓国ファンが見る浅田真央の復帰と現状

キム・ヨナと浅田真央。かつて鎬を削りあったふたりのフィギュア女王はそれぞれ対照的な道を選び、それぞれ模索を続けているのは間違いない。キム・ヨナの引退でそのライバルストーリーに終止符は打たれたが、ふたりのドラマは今も進行中なのだ。

果たしてトリプル・アクセルを決めて満面の笑顔を浮かべる浅田真央と、同じく満面の笑顔を浮かべて祝福するキム・ヨナの2ショットを見る日が来るだろうか。今回の世界フィギュアスケート選手権では叶わずとも、それが2年後の平昌だったら最高なのだが・・・・・・。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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