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イ・ボミが教えてくれた韓国ゴルフ強さの秘密

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:アフロスポーツ)

昨季はシーズン7勝を飾り、悲願の女子ツアー賞金女王に輝くとともに、男女両ツアーを通じて史上最高額(2億2581万7057円)を獲得したイ・ボミ。今季女子ツアー開幕戦となった『ダイキンオーキッドレディスゴルフトーナメント』では6位に終わったが、その注目度は依然として高い。今やイ・ボミは日本女子ツアーの華となったが、私が彼女と初めて取材したのはまだ日本ツアーに本格参戦する前。正確には2011年1月のことだった。

優勝はおろかまだ日本デビューを飾っていなかったイ・ボミを取材することになったのは、韓国KLPGA広報部から「実力があり、キュートで親しみやすく、人柄もいい。日本でも絶対、人気が出るから今から取材しておいたほうがいい」という推薦があったからだ。

実際、電話対応もとても丁寧で感謝のメールを送ると、彼女からこんな文面のメールが返ってきた。

「まだ日本で活躍していない私に関心を持ってくださって、ありがとうございます。日本で良い活躍をお見せできるように頑張ります」

絵文字が入っているあたりが、今どきの女の子らしかったことを今でも強く覚えている。あれから5年。今や日本語も上達し、日本のテレビ番組にも出演するほどの人気者になったイ・ボミ。数年前にインタビューしたときには、日本のアマチュアゴルファー向けにワンポイントレッスンをしてくれたこともあった。教えてくれたのは目隠しトレーニングと硬貨パッティング。いずれも自宅でも手軽にできる練習法だった。

(参考記事:「すぐできる!! イ・ボミ式のお手軽ゴルフ上達練習」)

思わずハッとしたのは彼女が言ったこんな一言だった。

「ゴルフは自分の内面や気質がそのまま映し出されるスポーツだと思うんです」

今や日本だけではなく米国ツアーなど世界を席巻する韓国ゴルフ。選手、コーチなど関係者に話を聞くと、かの国ではゴルフをメンタルスポーツとして捉えているところが大きい。昨季、日米韓でメジャーを制して今季からアメリカツアーに本格参戦するチョン・インジのコーチも言っている。

「考えてみてください。スイングというものは毎回完璧にはできないものです。つまり、スイングに依存するのではなく、コース攻略によってスコアを作り出す能力が必要なのです。ですから、コース攻略に対する理解度とともにメンタルがとても良くなければなりません」

(参考記事:「師匠が教えるチョン・インジの原点と勝負強いメンタルの秘訣」)

では、そのメンタルを韓国ではいかにして鍛えられているのか。その方法はさまざまだが、彼女たちが育った環境とも無縁でないだろう。

例えば年少の頃からのスパルタ教育。韓国では両親の影響でクラブを握る選手が多く、24時間ゴルフ漬けで厳しく鍛えて育つ選手が多い。“韓国ゴルフ界の女王”パク・セリはその代名詞だし、アン・ソンジュやシン・ジエも父親に鍛えられて腕を磨いきた。

しかも、ジュニア時代から競争が激しく、誰もが国家代表になることを目指して鎬を削りあっている。それもかなりの狭き門だ。国家代表になれるのは男女ともに年間8人ずつで、代表入りのためには代表常備軍に名を連ねなければならない。この代表常備軍も男女16人ずつ、ジュニア常備軍に至っては男女3人に限られているだけではなく、その顔ぶれが毎年入れ替わる実力主義。国内外の公式戦成績(10~15試合)がポイント換算されて常備軍が選抜され、さらに競争に勝ち残った者だけが国家代表になれるという。

一度選ばれてもアドバンテージは一切なし。あのシン・ジエも代表歴は2005年の一度のみ。イ・ボミに至っては代表常備軍入りしかない。つまり、代表を頂点にしたサバイバル競争が、ジュニア時代から日常化されているのだ。

(参考記事:「現地徹底ルポ!! 直撃取材でわかった!! 韓国ゴルフの強さと意外な真実」)

そんな熾烈な競争の中で揉まれ育つからこそ、韓国人ゴルファーはしぶとく勝負強い。しかも、最近は強さだけではなく、美しさも兼備した美女ゴルファーたちが次々と誕生している。前出のKLPGA担当者も言っていた。

「最近だと人気面ではアン・シネがダントツの人気です。韓国のゴルフ人口で最も多いのは40〜50代男性ですが、アン・シネは“アジョシ(叔父さん)たちのアイドル”と言われているほど。かつてはイ・ボミがそのポジションにありましたが、今ではアン・シネがその地位にあります。聞けば、日本でもすでに彼女のファンがいるとか。アン・シネが日本に行けば、イ・ボミ以上の人気を呼ぶかもしれません」

(参考記事:「韓国ゴルフ界最高の超絶セクシークイーン、アン・シネがスゴい!!」)

実力だけではなく、美に関しても競争が激しい韓国女子ゴルフ。旧知の韓国ゴルフ記者によると、イ・ボミの日本での人気と成功に刺激を受けて、日本ツアー参戦を検討している韓国人女子ゴルファーたちも増えているという。イ・ボミもウカウカしていられない状況なのだ。

そのイ・ボミは今季、「メジャー優勝、日本ツアー3勝、リオデジャネイロ五輪出場」を目標に掲げている。リオデジャネイロ五輪での韓国代表入りを目指し、世界ランクポイントの高いアメリカ・ツアーも並行して戦う彼女が今季最初の優勝カップを掲げるのはいつだろうか。まずは本日3月11日から始まる国内女子ツアー第2戦『ヨコハマタイヤゴルフトーナメント PRGRレディスカップ』に熱視線を送りたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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