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サウジアラビア戦の『65.8%』が意味するもの。日本は持ったのか、持たされたのか?

清水英斗サッカーライター
森保一監督(写真は2019 EAFF E-1選手権より)(写真:ロイター/アフロ)

懸命に走っているつもりでも、相手の掌の上かもしれない。持っているつもりでも、持たされているかもしれない。ピッチ上に描かれる画。ペンは両チームが握っている。

タイで開催中のAFC U-23選手権グループステージの初戦。U-23日本代表はU-23サウジアラビア代表と対戦し、1-2で敗れた。

AFCの公式サイトによれば、前半、日本のボールポゼッション率は61.9%だった。さらに後半は先制を許し、追う展開になったこともあり、70.8%まで上昇。試合全体では65.8%だった。この試合は日本がボールを持ち、サウジアラビアがカウンターをねらう構図だったのは間違いない。

30度に近いタイの気温、中2日で行われる過密日程。身体的な負担を考えれば、走り合いではなくボール保持を重視し、ポゼッションを高めた日本の戦略は妥当だろう。サッカーに不向きな条件で戦うときは、いかに時間を殺すかが大事だ。これは似た条件でプレーする東京五輪も同じこと。最終的に重大なミスで敗れたとはいえ、日本としては大筋、描いた通りの試合展開だったのではないか。

しかし、疑念はある。その構図は、日本だけが描いた画だったのか。

[3-4-2-1]を敷く日本は、幅を使った攻撃を志向する。この試合も序盤から左ウイングハーフ、杉岡大暉をねらったサイドチェンジで攻め崩そうとした。しかし、このボールがあまり通らない。なぜか。

相手がかみ合わせてきたからだ。[4-2-3-1]を基本とするサウジアラビアだが、予想に反し、日本に対しては[5-2-3]を敷いた。4枚から5枚に増えた最終ラインが幅を広くカバーするため、横に大きく展開する日本の攻撃が、あまり効果を得られない。サイドに振っても、すぐに詰まる。相手が対応しているからだ。

しかし、5バックでお尻が重くなったサウジアラビアは、中盤が薄くなり、日本としてはボールを持ちやすい展開だった。食野亮太郎と旗手怜央、2人のシャドーがフリーで受ける場面も多かった。結果、日本のボールポゼッション率は65.8%を記録。

果たして、これはどちらが描いたシナリオだったのか。

双方だろう。省エネで時間を殺すべき試合で、日本はボールを持つことから入り、サウジアラビアはボールを持たせることから入った。サウジアラビアの両サイドは、キックオフ直後から最終ラインに下がり、守備は5バックで始まっている。日本に攻められ、状況的に“させられた”わけではない。

持ちたい側と、持たせたい側。画はケンカしなかった。その結果、試合は動きが乏しく、静かに調和した。

しかし、その調和の中で、より上手だったのはサウジアラビアだ。

サウジアラビアは[5-2-3]で構えつつ、7番MFアブドゥルラフマン・ガリーブ、10番MFアイマン・アルクライフ、9番FWアブドゥラー・アルハムダンの3枚が攻め残りした。彼らを生かしたロングカウンターは強烈の一言だった。

逆に日本は、攻撃から守備の切り替えが機能しない。ボールを奪われた瞬間、プレスをかけるのか、撤退するのかが明確ではなかった。

後半3分の失点シーンは相手GKから始まった場面だが、日本が高い位置から守備に行き、奪いきれなかったボールを田中碧が追い回す中、5バックは既にリトリートしていた。その結果、田中碧の追い回しは無駄になっただけでなく、中盤のスペースを相手に明け渡した。そこでフリーになった7番MFガリーブの仕掛けから、日本は失点している。

局面的な対応にも修正点はあるが、チーム戦術でいえば、攻→守の対応がバラバラになっているのは継続的な問題としても気にかかる。それは失点場面に限らず、前半29分のピンチにも見られた。日本は奪われたボールに、誰がプレスをかけるでもなく、撤退してスペースを埋めるわけでもなく、あっさりと縦パスを通され、3バックが相手のアタッカー3枚にさらされた。最後は大迫敬介のファインセーブで難を逃れている。

守備への切り替えに問題を抱える日本と、アタッカー3枚で攻めきる力があるサウジアラビア。日本の短所と、サウジアラビアの長所が、がっちりとかみ合わされてしまった。一方、日本の攻撃もスペースを得やすい食野や旗手を中心に、機能するシーンはあったが、全体的にはサウジアラビアに利する要素が多かったのではないか。

ポジションのバランスも今一つだ。センターバックもこなす守備的な両ウイング、杉岡と橋岡大樹が1対1でかみ合わされ、攻めあぐねる中、中央では田中碧と田中駿汰が両方共に前へ行き、空いたスペースをカウンターに利用されてしまう。

たとえばウイングに攻撃的な逆足のドリブラーがいれば、かみ合わせたサイドを1対1で外し、田中らがそれほど前へ行かなくても、サウジアラビアのねらいを上回る場面を作ったかもしれない。相手の戦略にはまり込むような個の組み合わせだった。

東京五輪に向け、良薬になったのではないか。

酷暑やコンディションに適応し、90分のゲーム戦略を立てることは間違いなく大事だ。しかし、そのプランや配置が固定化すると、相手に読み切られ、対策を立てられるリスクが高まる。

それは一発勝負の怖さであり、代表チームは特にその要素が強い。クラブの監督として経験を積んできた森保一監督には、その点で不安が残る。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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