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南野拓実、覚醒したゴールハンター。今後も期待できるゴールと、そうでないゴールの違い

清水英斗サッカーライター
ワールドカップ2次予選、モンゴル戦の南野拓実(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

24歳の南野拓実が、覚醒を始めている。所属するザルツブルクではチャンピオンズリーグ3試合にフル出場。リヴァプール戦では豪快なボレーシュートで、前年度王者からゴールも挙げた。南野に対するファンや欧州クラブの関心は、日増しに高まっているようだ。

その活躍は森保ジャパンにとっても欠かせない。

ワールドカップ2次予選では3試合連続ゴール中、計4点を挙げている。10月のモンゴル戦とタジキスタン戦は、エースの大迫勇也を欠く試合になったが、ゴールハンターとして覚醒した南野が、その不安を吹き飛ばす結果を出し、チームを引っ張った。

また、その得点がすべて、ゴールエリア付近のワンタッチゴールだったことにも注目したい。サッカーではこの正面エリアからのシュートが得点の大半を占めることは、データでも証明されている。いわば点取り屋が住むエリアであり、そこで南野がゴールを量産しているのは偶然ではない。いつ、どうやってこのエリアへ入り、ボールと出逢えばいいのか。南野はその感覚を完璧につかんだようだ。

たとえば、9月に行われたミャンマー戦では、前半26分に堂安律のミドルシュートのこぼれ球から、再び堂安がショートクロスを上げ、フリーの南野がヘディングで突き刺した。

なぜ、彼はフリーだったのか。この場面、南野はミドルシュートに反応して相手GK前へ詰めた後、2次攻撃でオフサイドにかからないよう、素早く戻りながら相手センターバックの背中へ入り、再び走り込んでヘディングしている。こぼれ球によって状況が不安定になる中、南野は連続性のある鋭い動きで行ったり来たりを繰り返し、ゴール前の死角に暗躍した。その結果、ミャンマーのDFは完全に南野を見失っている。

これは対戦相手のレベルが上がっても有効な得点パターンだ。たとえばチャンピオンズリーグのナポリ戦で、ザルツブルクは後半27分にコーナーキックのこぼれ球から、再びクロスを蹴り、ハーランドがヘディングで決めたが、この場面もセットプレー直後で状況が不安定になったため、ナポリはマークがはっきりせず、ハーランドをフリーにしてしまった。ミャンマーに限らず、ナポリほどの強豪でも、この手の場面で一定の隙は生じるということだ。

状況のすき間に暗躍し、ゴールを決める。南野はこうした匂いを嗅ぎ分け、動き出すのが抜群に早い。堂安もその動きをよく見ていた。これは今後も有効な得点パターンになるだろう。

今後の再現が難しい、2つのゴール

その一方、モンゴル戦、あるいはタジキスタン戦の先制ゴールはどうか。

モンゴル戦では前半22分、右サイドを走り抜けた伊東純也がコーナーフラッグ際からクロスを蹴り、ゴール正面でフリーになった南野がヘディングで合わせた。

見事なゴールではあるが、これはレベルの高い対戦相手に対しては、簡単に決まるような形ではない。一般的にタッチライン付近からのロングクロスは、ボールが浮いている間に中央のDFに対処する時間が与えられる。そのため、これほどのフリーで南野が合わせる場面は想像しにくい。高いレベルのDFを相手にすれば、再現できないゴールになってしまう。無論、そのDFと競り合いながら南野がヘディングで叩き込む形も想像しづらい。今後は通用しない形だ。

タジキスタン戦の先制ゴールも同様だった。

後半8分に中島翔哉からのクロスを、相手センターバックの背中に入った南野が、ファーサイドへふくらみながらフリーでヘディングを決めた。ところが、このゴールも相手が強豪になれば、再現は難しい。世界のDFは高く、ステップワークも早い。その頭上を越えるような高さのファーサイドへのクロスを、小兵の南野がヘディングで合わせるシーン自体が希少だ。

また、このゴールの直後、タジキスタンのセンターバックとサイドバックは、どちらが南野をマークするべきだったか、言い争いを始めた。サッカーではよく見かける場面だが、サイドバックの守備対応が優れていれば、センターバックの背中側をカバーし、南野を捕まえることもできたはず。

つまり、どちらのゴールも、対戦相手のレベルが上がれば、再現が困難になってしまう形だ。伊東のクロスにせよ、中島のクロスにせよ、遠めからのクロスでは、今後も南野がゴールを取り続けることは難しい。いや、大迫でも難しいかもしれない。

相手のレベルが上がっても……

その意味では、タジキスタン戦の2点目は注目すべき内容があった。

日本は後半11分、ペナルティーエリア近くに酒井宏樹がスピードを持って走り込み、グラウンダーのクロスを、ダイレクトに入れた。そこへ南野がタイミングを合わせて飛び出し、ニアサイドでワンタッチシュートを決めている。相手の背後からニアサイドへ出てクロスに合わせるプレーは、技術的にもタイミング的にも難しいが、DFにとっては非常に止めづらいフィニッシュだ。自分の前で、点で合わされてしまえば、DFは対処のしようがない。

この手の得点パターンは、大迫が抜群にうまく、9月に行われたパラグアイとの親善試合でも、ニアサイドからゴールの天井を撃ち抜くワンタッチゴールを決めた。スカパーの番組『スカサカ! 激論』で岩政大樹さんも語っていたが、このような形は、相手のレベルが高くなっても尚、有効になる。今後はそのねらい、頻度を高めたいところだ。

南野の3試合連続ゴールは、たしかに素晴らしい。だが、その形には今後も通用するものと、しないものがある。

ニアサイドで相手の前に出てワンタッチで決める形、あるいはミャンマー戦でこぼれ球に暗躍してフリーになった形。これらは相手のレベル云々にかかわらず、今後につながるゴールとして内容を評価できる。

逆に、遠めからのクロスによるモンゴル戦とタジキスタン戦のゴールは、今後を見通しづらい。チャンピオンズリーグのザルツブルク対ナポリを思い返しても、ナポリが緊密にゴール前を固める中、単純なクロスをどんなに入れても、ゴールは割れなかった。最終的に2得点を挙げたのは、PK奪取と、前述したこぼれ球からのフィニッシュである。レベルの高い相手には、通用する得点パターンが変わってくる。

相手のレベル云々が議論になる2次予選だけに、何を見て、何をブラッシュアップしていくのか。結果だけでなく、プレーの質についても目線の高さが必要だ。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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