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エクアドル戦、中島翔哉のプレーに見られた”ある変化”とは?

清水英斗サッカーライター
エクアドル戦、シュートを打つ中島翔哉(写真:ロイター/アフロ)

コパ・アメリカ、勝てば決勝ラウンド進出となるグループステージ第3戦のエクアドル戦は、互いに攻めつつも1-1の引き分け。日本の敗退が決まった。

最も思い浮かぶのは、後半21分の上田綺世投入以降、多数訪れた決定機を逃してしまったことだ。それはエクアドルの側にも言える。オープンに打ち合い、日本とエクアドルは互いにチャンスを作った。1-1では割に合わないほど。しかし、1-1だった。

「決めるとこ決める問題」。お互いに決定機をモノに出来ず。サッカーというロースコアの競技では、結局そこが勝敗を決する。すべてのチームに共通する永遠の課題でもある。

上田や前田大然など、決勝ゴールを決められなかった東京五輪世代の選手は、これから研鑽に励むことだろう。その刺激を得られるのが、コパ・アメリカだ。

その一方、筆者が気になるのは、中島翔哉だった。

エクアドル戦の中島のプレーについて、「(ドリブルで)持ちすぎ」と感じた人はいるかもしれないが、個人的には1戦目、2戦目よりも球離れが早く、シンプルにプレーしたように感じた。特に『フリック』(ボールに軽く触り、軌道を変えるワンタッチプレー)が多い。相手のアンカー脇にスペースがあったため、三好康児を含め、コンビネーションで素早く崩すプレーが多かった。

いつもの強引さを抑え、シンプルに。中島のプレー変化は印象的だ。それにより、トップ下の久保建英も輝きを増した。リズムが上がり、スペースもあるため、中央でボールに触る回数が増え、チリ戦とは比べ物にならないほどのチャンスを生み出した。

このようなフリック等を用いたシンプルな崩し方を用いるなら、中島は4-2-3-1の左サイドハーフ以外に、今後増えるであろう3-4-2-1の2シャドーに入る形も機能しやすいだろう。一面的に見れば、それは良いことだ。

だが、中島はこの変化により、失ったモノもあるのではないか。

それは“重さ”だ。前線に中島、南野拓実、堂安律、大迫勇也を並べて、本格的なスタートを切った森保ジャパンは、アグレッシブさと、シュート意識の高さが魅力だった。シュートが打てそうな位置に来たら、とにかく打つ。過去の日本代表に見られた、「そこ打てよ!」と叫びたくなるシーンは、森保ジャパンでは減った。むしろ、無駄打ちに思えるほど、打ちまくってきた。ボールを持ったら、ゴールへ一直線。そのフレッシュな勢いが、彼らの魅力だった。

そのイメージで見ると、エクアドル戦のプレーは、チーム的であると同時に、物足りなさもある。中島のシュートに体重が乗っていないのだ。前半13分のように、ループシュートなのか、ミスキックなのかも判別しづらいような、中途半端なフィニッシュが目立つ。それはすごく珍しい光景に感じた。本来ならば、中島は強靭な足腰でグイグイと切り込み、重たいミドルシュートを打ち込むのが魅力だったはず。しかし、エクアドル戦はそんなシーンがあまりなかった。

なぜか。理由は明らかだ。中島はシュートを打つ直前、周りをキョロキョロと見回している。この試合では、味方を使う意識が強かった。しかし、誰も間に合っていないので、自分でシュートするように切り替える。一見、問題がない流れにも思えるが、これではシュートに体重が乗らない。

力強いシュートを打つためには、予備動作として軸足を踏み、重心を沈ませ、体重を乗せなければならない。しかし、その直前に顔を上げ、周りを見回すと、重心が浮いてしまう。その姿勢からもう一度、沈んで打とうとすると、シュートを打つタイミングが一瞬遅れてしまうのだ。あるいは重心が沈まない状態で、あわてて打ちに行き、弱々しいシュートになってしまうか。無人のゴールに打つような機会は別として、際どいシュートのタイミングは、パスよりも早く作り、準備しなければならない。

この件については、著書『日本サッカーを強くする観戦力 -決定力は誤解されている-』の中で、『TRE2030 STRIKER ACADEMY』の代表を務める元Jリーガーの長谷川太郎氏に話を聞き、言及している。興味があれば参照して頂きたい。

前半46分、三好が打ったシュートも典型だ。ゴール前で久保からのパスを受けたが、踏み込みが甘く、シュートは浮き上がって枠を外れた。三好はあの瞬間、シュートを意識したコントロールが出来ていない。重心も高いままだ。ボールを止めた後で、相手DFに寄せられ、あわてて打ちに行ったので、体重を乗せるための充分な“間”を作れなかった。

シュート意識、というよりシュート準備の意識の高さは、ワンテンポ早く、かつ強いシュートを打つためには欠かせない。ゴール前で余裕を与えてくれるイージーな試合ならばともかく、このコパ・アメリカのように緊迫した舞台では、コンマ1秒の駆け引きに勝ったシュートでなければ、決定力を生み出せない。

これは上田や前田大然にも言えること。しかし、中島の場合はちょっと違う。彼の場合、ワンテンポ早く、体重が乗ったシュートを打ち込むことは、普段は出来ていた。しかし今回は、中島が他のプレーを修正したことで、パス、コンビネーションのリズムが身体に染み付いた。それがシュート場面で、デメリットとして表れてしまったのではないか。

要は、シンプルにボールを回すシーンと、体重を乗せて重量感のある仕掛けやシュートを行うシーンを、エリアや状況に応じて使い分ければいい。しかし、これは「言うは簡単、行うは難し」の典型だ。試合の疾走感、緊迫感、瞬間の中で、中島はそれを消化し切れていない。

東京五輪世代の伸びしろが強調される今大会だが、それはオーバーエイジも同じだろう。たとえば、柴崎岳があれほど頼もしい選手だったとは、この大会前は思っていなかった。攻撃センスは知っていたが、守備のカバーにあれほど“効く”選手であり、周りに落ち着きを与えられる選手とは思わなかった。五輪代表を模した、この若いチームでキャプテンを務めたことは、彼にとっても小さい経験ではないはず。

中島はどうなるか。このコパ・アメリカで見せたパフォーマンスは、決して最大値ではないはず。真・中島の到来が待たれる。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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