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【Jリーグ あの判定の検証】サッカーの悪質なタックルを、どう見極めるのか?

清水英斗サッカーライター
Jリーグ審判団(写真はイメージ)(写真:松尾/アフロスポーツ)

19日に行われた『2017 第4回JFAレフェリーブリーフィング』では、J1第14~18節、J2第17~22節、J3第11~16節で起きた事象について、レフェリングの説明が行われた。

フィジカルチャレンジの正当性が焦点となる、3つのシーン

ひとつめはJ1第13節の川崎フロンターレ対浦和レッズ、後半41分のシーン。川崎のエドゥアルドが仕掛けたタックルが、浦和の李忠成のひざに当たり、李は負傷退場した。

主審を務めたのは、家本政明氏。エドゥアルドにイエローカードを提示したが、この判定の正当性はどうか? JFA審判委員会の副委員長を務める上川徹氏は、このシーンを次のように説明した。

「(エドゥアルドの)足が上がり、足の裏が入っています。スピードも伴っている。もうひとつのポイントは、ひざが真っすぐに伸びていること。ひざを張った状態で相手に当たるのは、大きなダメージを与えます。少しでもダメージを和らげようと、ひざを曲げていれば、若干見方は変わってきますが」

選手の安全を脅かすタックルであり、著しく不正なプレーで退場が妥当であると、上川氏は結論付けた。

では、なぜ主審の家本氏はイエローカードを選択したのか?

「ボールにプレーしようとした、というのがレフェリーの判断でした。当たっているように見えなかったと。レッズの選手もそれほど不満を言ってこなかったので、選手の感覚でも、(エドゥアルドは)ボールにプレーしようとしていたと、イエローカードで納得している様子でした。しかし、映像で見て、主審本人ともディスカッションし、判定はレッドカードが妥当であると」

このブリーフィングでは、映像を見ている記者にカードが配られ、判定内容を上川氏に説明される前に、自分が正しいと思った判定をカードで意思表示した。その結果、このシーンでは、ほぼ全員がレッドカードを出している。

しかし、次のシーンは意見が割れた。

J1第16節のジュビロ磐田対FC東京、後半15分のシーン。FC東京のピーター・ウタカが、ボールを持っている磐田の櫻内渚に対してスライディングタックルを仕掛けた。主審の山本雄大氏は、ウタカにイエローカードを提示している。

ウタカは遠めからジャンプして飛び込み、勢いを伴い、さらにひざも伸びている。となると、これもエドゥアルド同様、レッドカードが妥当か? しかし、映像を見ている記者の反応はレッドカードが7割、イエローカードが3割と少し割れた。

ここでの焦点は、ウタカのタックルが櫻内に当たったわけではなく、足の裏はボールに当たっていたこと。これをどう考えるか?

「実際の試合ではイエローでしたが、我々の判断としてはレッドカードが適当と考えます。イエローにしたのは、(ウタカが)ボールにプレーしているためかなと。コンタクトだけを見ると、イエローと見ることもできます。しかし、このチャレンジ自体が相手を非常に危険にさらしています。足の裏が(櫻内に)当たれば、間違いなくレッドと言えますが、それがなくても、退場に値する粗暴な行為と見ます」

「接触が何もなかったとしても、これは方法からすれば、やられたほうがすごく不満を抱えるチャレンジです。(櫻内は)うまく回避したのかもしれませんが、だから許されるチャレンジとは言えません。プレーできる位置にいたのに、怪我を恐れてプレーをやめたとすれば、ファールタックルの方法が退場に値すると考えられます」(上川氏)

相手を危険にさらすタックルは、結果論では片付けられない。さらにブリーフィングに同席した委員長の小川佳実氏は、プレミアリーグの考え方を用いて付け加える。

「イングランドもこういうチャレンジが多いですが、選手協会と監督協会の要望があり、接触の有無に関係なく、レッドカードの判定を下しているそうです。これはお互いの約束。自分が怪我を負いたくないので」

実際に当たったかどうかではなく、タックルやチャレンジの方法に対して、退場処分が下されるのが妥当。選手は自分がそれまで無意識にやってきたタックルの方法を、見直したほうがいいだろう。そうでなければ、いつ自分に返ってきてもおかしくない。

3つめは、J3第12節の鹿児島ユナイテッド対福島ユナイテッド、後半アディショナルタイムのシーン。福島の茂木弘人の足の裏を向けたタックルが、レッドカードと判定された。主審は金次雄之介氏。 

前の2つのシーンとは違い、茂木のひざは伸びていない。それほど悪質ではないと考えたのか、映像を見た記者は、ほぼ全員がイエローカードを表示。レッドカードは少数派だったが、判定は妥当だったのか? 上川氏は説明した。

「実際の試合で示されたとおり、我々もレッドと考えます。ちょっと難しいのは、(タックルの)最後の瞬間に足の裏を向けていること。粗暴ではありますが、これはボールにプレーする意志はあると思います。ただし、相手のくるぶし辺りにそのまま強く接触している。非常に大きなダメージになると考えます」

「こういうタックルをする要因もあります。その前の場面でレフェリーがノーファールで流し、笛を吹いてもらえなかったことに対し、リードされた状況もあり、フラストレーションが溜まったのかもしれません」

0か1かのデジタルな判断ではなく、タックルの悪質性を総合的に見るため、難しいところはある。しかし、プレミアリーグを見ても、危険なタックルをくり返すのは、同じ選手であることが多い。自省を否定すれば、いつか本当に、相手に深刻なケガを負わせるかもしれない。

ケガをしてボールを蹴れなくなれば、それがどれほど辛いことか。これらはJリーグというトップレベルの話ではあるが、アマチュアや草の根でサッカーをする選手にとっても、大切なこと。Jリーガーは、その鑑になってほしい。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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