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働き者のファンタジー。柴崎岳はテネリフェを昇格に導くか

清水英斗サッカーライター
(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

ホームで行われたプレーオフ決勝・第一戦でヘタフェに1-0で勝利したテネリフェは、1部昇格まであと一歩に迫った。

[4-4-2]の左サイドハーフで先発した柴崎岳は、前半22分にコーナーキックを蹴り、DFホルヘ・サエンスのゴールをアシスト。プレーオフ準決勝・カディス戦で挙げたゴールに続き、この試合でも強いインパクトを残した。

印象的なプレーは、コーナーキックのアシスト以外にもたくさんあった。後半14分、MFスソのクロスのこぼれ球に詰めたシュートは、60:40くらいのタイミングで突っ込んできた相手DFと接触し、枠を外してしまったが、このシーンはカディス戦のゴールを彷彿とさせた。

テネリフェはディフェンスラインが深くなる場面が多く、MFにはプレスバックして中盤のスペースを埋める動きが求められる。サイドハーフの柴崎は、相手サイドバックを見つつ、ボランチ脇のスペースを埋めなければならない。なおかつ攻撃も、たまにサイドバックが上がってくることを除けば、後方からの押し上げは少なく、前線のみで攻めきるシーンが多い。そのため柴崎は2トップをサポートするために、くり返し、くり返し、相手ゴール前に走り込む。かなりの運動量だ。

カディス戦のゴール、そして前述した後半14分のシュート場面は、そうした幾度となく繰り返されたスプリントのほんの一部が、チャンスに結びついたものだった。

また、運動量の負担が大きく、スペイン2部の激しい球際にさらされながらも、柴崎のプレーは正確さを失っていない。

後半21分には中盤で相手DFに寄せられそうになったが、その裏をかいて、ノールック気味のスルーパスをMFスソへ通した。「なぜそこが見えている?」「なぜそこに出せる?」と、周囲を驚かせる柴崎らしい必殺パスが随所に出ている。余裕があり、充実している証拠だ。チームのために働く犠牲心と、個人のファンタジーがうまく溶け合っている。

テネリフェへの移籍が決まったときは、2部クラブであることに落胆する向きもあったが、シーズン途中の冬の移籍であることを踏まえれば、むしろこれで良かったのだろう。Jリーグのシーズン終わり、1~2月に合わせると、欧州ではシーズン途中の移籍になる。つまり、即戦力のみがピンポイント補強されるタイミングであり、実績のない選手には難しい。さらに海外生活への順応期間を踏まえると、冬の移籍で2部クラブを選ぶことは、むしろ妥当なルートかもしれない。スペインらしい丁寧なポゼッション、連動したコンパクトなプレッシングといった組織的なプレーは、2部とはいえ、やはり通じるものがある。こうした違いを、最初の半年で体感できたのは良いステップだ。

……と、すべてをポジティブに振り返ることができるとしたら、次の結果次第だろう。アウェーで行われるプレーオフ決勝の第2戦は、25日午前4時(日本時間)にキックオフする。

シーズンの最終盤に中2日の試合が続き、選手の身体は悲鳴を挙げているだろう。しかし、次の試合がラストだ。テネリフェは昇格を成し遂げるのか。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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