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ハリル招集を読み解く。注目はディープ・アタッカー倉田秋と、クローザー本田圭佑

清水英斗サッカーライター
メンバー発表の記者会見で説明するハリルホジッチ(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

ワールドカップ最終予選は、これから後半戦に突入する。まずは23日に行われるアウェーのUAE戦、28日に行われるホームのタイ戦。日本代表に選ばれたのは以下の25人だ。

GK 西川周作、川島永嗣、林彰洋

DF 吉田麻也、森重真人、槙野智章、昌子源、植田直通

酒井宏樹、酒井高徳、長友佑都

MF 長谷部誠、山口蛍、今野泰幸、高萩洋次郎、

香川真司、清武弘嗣、倉田秋

FW 岡崎慎司、大迫勇也、

久保裕也、原口元気、本田圭佑、宇佐美貴史、浅野拓磨

このリストを見て感じられるのは、ハリルジャパンのチーム作りが次の段階へ進んでいること。

現時点でスタメンの座に近いのは、西川、吉田、森重、酒井宏、酒井高、長谷部(今回は負傷で欠場濃厚)、山口、香川、清武、大迫、久保、原口あたり。そこに岡崎、長友、おそらくは本田も含めて、約15人が中核メンバーになる。

それ以外で、残りの8~10人をどう選ぶか? ここに監督の色や考え方が出やすい。

今までの2次予選と最終予選における招集は、"競争"のイメージが強かった。昨年9月のホームのUAE戦で先発出場した、川崎フロンターレの大島僚太、あるいは10月のオーストラリア戦で先発した小林悠、11月に出場した小林祐希や齋藤学を含め、昨年までは主力に変わり得るスタメン候補を探すために、8~10人の枠を使っていた。その中でクラブの活躍を含めて、大迫、原口、久保が頭角を現したことになる。

では、今回選んだ8~10人はどうか?

スペシャリストが多くなった。レギュラーを競ってポジションを奪うというよりも、特定の状況に対する起用をイメージしやすい選手ばかりだ。

たとえば、浅野は裏へ飛び出すスピードスター。後半にスペースが空く展開で武器になる。UAEに対してうまく先制すれば、後半に浅野を投入して堅守カウンターを仕掛けられる。シンプルかつ効果的だ。

今野は中東アウェーで勢いに乗る相手を跳ね返すための球際ファイター。長谷部の負傷もあり、守備を重視するUAE戦での起用を念頭に置いたことは明らかだ。

宇佐美はタイ戦を見据えている。相手が引きこもってブロックを固めたら、仕掛けるテクニックと遠めからのシュート力が肝心。たしかに、その点で宇佐美はかなり優れている。相手を押し込み続けるであろう、タイ戦での途中出場の可能性について、ハリルホジッチも言及した。ジョーカーならゲーム体力の不安はないし、タイ戦までは9日あるので、練習でコンディションを上げられるとも思っているだろう。クラブでの出場機会が少なく、落選でもおかしくなかった宇佐美だが、今回は役割を限定したスペシャリスト招集になっている。

ディープ・アタッカーの倉田

そして、もっとも面白いのは倉田だ。

19日に行われたG大阪対浦和の試合で、今野のゴールにつながった倉田のドリブルが象徴的だが、倉田は少し低めの位置からボールをスペースへ持ち運び、相手の守備ブロックへ侵入するプレーがうまい。これは昨シーズンにも見られた。

アンドレア・ピルロのように司令塔が低い位置からゲームメークする役割を『ディープ・プレーメーカー』と呼ぶが、それになぞらえるなら、倉田は『ディープ・アタッカー』だ。低い位置からドリブルで、あるいはオフザボールの飛び出しで、攻撃に推進力を与える。

この役割について、ハリルホジッチが最初に目をつけたのは原口だった。スコアレスドローに終わった2次予選シンガポール戦の後半、柴崎岳に代えて原口をボランチで起用したときは、ほとんどのサッカーファン、解説者の頭に「??」が浮かんだ。

当初は原口自身も「?」だったディープ・アタッカーだが、徐々に慣れ、本格的なオプション戦術として計算できる段階にきていた。相手のブロックをパスで崩すだけでなく、中央からドリブルで侵入して行く。たしかに、効果的だ。

ところが、その原口が、必死の努力で前線の左ウイングのレギュラーをつかむ。2次予選で左ウイングとしてスタメン出場したのは、守備重視のアウェー戦のみだったが、最終予選はホームとアウェーにかかわらず、左ウイングの定位置を勝ち取っている。

原口が不動のスタメンになると、途中から流れを変える『ディープ・アタッカー』が不在になった。そこで倉田だ。今回の倉田の招集は、原口の台頭が呼び込んだとも言える。「ポジショニングでどこへでも行ってしまう癖を修正しなければならない」という倉田に対するハリルホジッチのコメントも、過去に原口に語ったものと全く同じだ。

浅野、宇佐美、今野、倉田に見られるように、今回の当落線上にいる選手たちは、昨年9月~11月のメンバーよりも、一芸スペシャリストが多い。実戦での起用について、特定の状況や時間帯を細かくイメージしやすい。

逆に唯一、今回のメンバーで特定の状況をイメージしづらいのは高萩洋次郎くらいか。しかし、ハリルジャパン初招集でいきなりUAE戦に出ることはないだろう。出場があるとすればタイ戦か。いずれにしても、23人ではなく25人を招集しているので、高萩と植田については、少し先を見据えた招集ではないか。

サウジ戦で機能した”限定起用の本田”

もう一つ、気になるのは本田の起用法だ。

サウジアラビア戦では1-0で迎えた後半の頭から起用された。前半はハイプレスで相手を追い詰めたハリルジャパンだが、本田が入った後半はディフェンスラインを下げ、自陣でブロックを作って待ち構える戦術に変えた。そして、攻撃も縦の速さだけでなく、ポゼッションで支配力を高め、そこから追加点。うまく試合をコントロールした。サウジアラビア戦は、途中出場の『クローザー本田』が機能した試合だった。

果たして、この本田の特徴を、UAE戦ではどのように生かすのか。ゲーム体力は不安があるので、時間限定の起用か。そんなところも気になる。

主力が固まり、それ以外の選手に、起用状況を見据えた一芸スペシャリストが増えた今回のチームは、より実戦的なステージに上がった。ただし、戦術的に偏った選考が増えたぶん、「なぜ、調子が良いのにあの選手が外れるの!?」という印象も増したわけだが。

当然、門戸の広かった競争から、チーム作りは段階が進んで行く。UAE戦とタイ戦は、スペシャリスト采配に注目したい。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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