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アフガニスタン戦で香川が活躍するのは、”必然”だった

清水英斗サッカーライター
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

8日に行われたワールドカップ2次予選のアフガニスタン戦で、もっとも大きな仕事を果たしたのは、香川真司だった。その要因については、彼自身の良好なコンディションだけでなく、試合の状況が決めた、とも言える。

それはつまり、こういうことだ。アフガニスタンは[4-4-2]の守備ブロックを低く下げて、日本に挑んできた。いわゆる「引いて守る」格好だが、シンガポールやカンボジアとはやり方が違う。

2トップの8番ファイサル・シェイスタと、9番ノルラ・アミリは、日本のダブルボランチである長谷部誠と山口蛍をマンマーク。そのまま、1対1でどこまでも付いて行く。逆に、センターバックの吉田麻也と森重真人に対しては、何の守備もしない。

吉田と森重は、自由にボールを持てるが、しかし、ボランチの長谷部と山口は常にマークされ、ボールを渡せない。このセンターバック2人が、ビルドアップの起点となるのは、アフガニスタンの守備が誘導した、ひとつの必然だった。おそらくアフガニスタンは、日本のボランチやDFを誘い出して、ボールを奪い、ロングカウンターをねらったのだろう。

ところが、このねらいが、アフガニスタンの首を絞めた。まわり回って、調子の良い香川に、美味しいスペースを与えることになったのだ。

たとえば、シンガポールが[4-5-1]で中盤にアンカーを置いて、守備ブロックに厚みを持たせたり、あるいはカンボジアが[5-3-1-1]で最終ラインを厚くした守備ブロックを敷いたことに比べると、アフガニスタンの[4-4-2]は、前に2トップを置いてマンマークをさせるぶん、中盤の枚数が少ない。

中盤の中央のスペースに、3人をかけて分厚く守っていたシンガポールやカンボジアとは違い、アフガニスタンは、ダブルボランチの2番アバシン・アリクヒルと、18番アハマド・ハティフィーの2人のみ。たった1人分の違いだが、この違いは、思いのほか大きい。

アフガニスタンのダブルボランチが、サイドの原口元気や本田圭佑、あるいはマークを引き連れて飛び出してくる、長谷部や山口に注意を引きつけられたとき、背後のセンターバックとの間のスペース、いわゆる『バイタルエリア』に隙が生まれやすくなる。シンガポール戦やカンボジア戦では、これほどのスペースは与えられなかった。

このバイタルエリアで輝きを見せたのが、トップ下の香川だった。

前半10分の場面は、日本の連係がバッチリとかみ合った。左サイドで原口がボールをもつと、長友佑都がオーバーラップしてマークを引きつけ、原口自身がフリーでドリブルできる状態になった。

そして原口のカットインに呼応し、1トップの岡崎慎司が裏のスペースへ飛び出そうとする。すると、アフガニスタンのディフェンスラインは岡崎に対応するために下がり、バイタルエリアが、ガバッと空く。その瞬間を見逃さず、原口は香川へパス。

香川は遅れて背中に付いてきた2番アリクヒルを反転してかわすと、即座にミドルシュートを打ち、ゴールネットを揺らした。アフガニスタンの“守備の穴”であるバイタルエリアを、全員のコンビネーションで広く空けさせ、最後は調子の良い香川が、そのスペースから貴重なゴールを挙げた。

前半10分の先制弾。このゴールが日本代表に落ち着きをもたらし、前がかりになるアフガニスタンから、さらに5点を奪い取ったことは、言うまでもない。日本代表は6-0で快勝した。

この2次予選のグループをFIFAランク順に並べると、1番手の日本、2番手のシリア、そして3番手のアフガニスタンと続く。シンガポールは4番手、カンボジアは5番手だ。そんな力関係もあり、日本に対して引き分け以上の高望みをしなかったシンガポールやカンボジアに比べると、アフガニスタンはもう少し、勝ちへの色気を見せたと言える。

そのことが、アフガニスタンの守備ブロックを脆くした。

トップ下の香川が活躍したことは、ある意味では、試合の状況が決めたものだった。

このアフガニスタン戦は、香川に流れがやって来た。しかし、それは“棚から牡丹餅”という意味ではない。こうした試合の状況が与えられたとき、そのスペースを感じて、逃さずに利用し、こう着をぶち破る先制ゴールを挙げる。それが誰にでもできるかといえば、決してそうではない。

カンボジア戦の本田。アフガニスタン戦の香川。彼らはチャンスを逃さずに試合を決めた。“決定力”を発揮したのである。

シュートを20本以上打っても決まらない、『決定力不足』の改善を望むのなら、まずは試合を決めた王様を、思いっきり称賛しなければ始まらない。勝ち試合でパスやドリブルやアシストが褒められ、負けたときばかり『決定力不足』が叫ばれるとすれば、この国にストライカーは永遠に生まれない。

こう着をぶち破った、本田、香川、最高だ!

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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