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解散総選挙の争点に「ブラック企業」対策を!

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

突然の解散総選挙~国民の側で争点を作りだそう!~

今国会の解散総選挙は、ほぼ既定路線となっています。11月19日に衆議院が解散され、12月2日公示、12月14日投開票の日程が有力と報じられています。

突然降ってわいた総選挙、野党のみならず与党自民党からも、一体何のための選挙なのか、疑問の声も上がっているようです。

私は、今回衆議院の解散総選挙が行われるならば、その判断自体には、全く賛同出来ません。

ちなみに、憲法学上の通説でも、解散権行使には限界が有り、内閣が基本政策を根本的に変更する場合など一定の場合に限られ、内閣の一方的な都合や党利党略で行われる解散は不当であるとされています。ですから、明確な理由もないのに、「念のため解散」などという場合には、憲法上解散は許されないという考え方が通説なのです。

政策確認の「念のため解散」=自民・高村氏

とはいえ、その解散の当否・賛否にかかわらず、解散総選挙はやってきます。

しかも、選挙には多額の国費が費やされます。前回の衆議院選挙では、何と700億円!もの国費が費やされているとのこと。これだけ多額の税金が使われる選挙を、ただ受け入れるだけでは、本当に新たな税金の無駄遣いを生み出すだけの選挙になってしまいます。

ですから、選挙を税金の無駄遣いにしないためにも、来たるべき選挙の争点に対して、解散権を行使した内閣に明確な争点がないなら、主権者である国民の側から、積極的に争点を作っていくべきでしょう。

何を争点にするべきか~「ブラック企業」対策!

私が提案したいのは、若者を使い捨てを行う「ブラック企業」対策です。

厚生労働省は、2013年8月8日、「若者の『使い捨て』が疑われる企業等」に対する対策を発表し、「ブラック企業対策」であると注目されました。

ですが、まだまだ、若者を使い捨てる「ブラック企業」の被害はなくなりません。

この「ブラック企業」を根絶する政策をとる政党・候補者に投票するのか、それとも「ブラック企業」促進政策をとる現在の政府与党に投票するのか、これを選挙の争点にして欲しいのです。

なぜ、「ブラック企業」対策を選挙の争点にするべきか

「ブラック企業」対策は、まずは使い潰される若者のために必要です。

現在も、多くの若者が、労働現場における長時間労働やパワハラ・セクハラといった問題から、精神疾患などトラブルを抱え就労できなくなっており、若年者の過労死・過労自殺のケースも多数存在します。

ですから、「ブラック企業」対策は、まずはこのような、日本の社会を支えていく若者自身の未来のために必要なのです。

しかも、「ブラック企業」による若者使い潰しを防ぐことは、仕事と家庭の両立を可能にし、少子化対策としても機能します。

また、「ブラック企業」対策は、法令を遵守するまともな会社にとっても、極めて有益です。

「ブラック企業」の被害者は、当該労働者だけでなく、その「ブラック企業」と不公正な競争を強いられる、同業他社も実は被害者なのです。

これは、極めて単純な話です。「ブラック企業」は、労働法を守りません。例えば、長時間のサービス残業=残業代不払い。このサービス残業によって、残業代を払わずに、労働力を搾取します。

他方で、きちんと労働法を守る(=当たり前のこと)真っ当な企業は、サービス残業で労働力を搾取している「ブラック企業」と、価格競争を強いられています。こんな価格競争が「公正さ」に欠けるのは、明らかです。

ですから、「ブラック企業」を野放しにすることは、企業の公正な価格競争を阻害して、労働法をきちんと守っている真っ当な企業に、経済的な不利益を与えているのです。

ですから、実は「ブラック企業」によって、法令を遵守するまともな会社を助けることにもなるのです。

具体的な争点1~ブラック企業を促進する派遣法改悪

現在、臨時国会では、派遣労働者を激増させる法改悪が審理されています。この政府与党が成立させようとしている派遣法改悪が実現すれば、「ブラック企業」の活動が大きく促進されます。

今回の「改悪」の核心部分は、派遣の利用が臨時的、一時的なものだ(ざっくり言えば、派遣の利用は「例外」であるということ)という大原則を投げ捨てたことです。

この「改悪」が実現すると、正社員の仕事がどんどん減っていき、代わりに派遣の仕事が増えていきます。

詳細は、私が以前書いた記事(派遣と「ブラック企業」は大の仲良し?!)をご一読下さい。

なぜ、派遣労働者が増大すると、「ブラック企業」の活動が促進されるのでしょうか?

若者が「ブラック企業」の被害にあう背景には、何としても「正社員」になりたいという、正社員の椅子取りゲームが行われている事情があります。だからこそ、長時間労働がきつくても、パワハラが辛くても、ようやく見つけた正社員の仕事だからこそ、ここで辞めたら次の正社員が見つかるとは思えないからこそ、正社員にしがみつき、退職するという逃げ道をふさがれ、「ブラック企業」で使い潰されるのです。

ですから、派遣労働者へ置き換えられて正社員の仕事が少なくなれば、少なくなった正社員の椅子をめぐり、何としても「正社員」になりたいという若者が、ブラック企業被害に遭いやすくなっていくのです。

ですから、「ブラック企業」撲滅のためにも、派遣法改悪に賛成する政党・候補者か反対する政党・候補者なのかを選挙の争点とするべきなのです。

具体的な争点2~長時間労働の削減~

現在、日本の労働者の労働時間は世界最高水準です。このような長時間労働を抑制し、過労死を生むような現在の働き方を改善する政策を実現する必要があります。

例えば、労働時間の上限規制。その際、年間の労働時間の上限だけを決めても意味は無く、月・週・1日単位で労働時間の上限を法定するべきです。この労働時間の上限がなければ、労働者の過労死などの健康被害を防ぐことはできません。

また、勤務間インターバルの制度の新設、残業代の割増賃金率を諸外国並みにアップする(25%→例えば米国・韓国と同じ50%に)、さらには有給休暇の一部の強制取得制度などが考えられます。

これらの長時間労働の削減策は、国に過労死等の対策を義務づけた過労死等防止対策推進法にも適う政策です

これに対して、政府は現在、新しい労働時間制度の検討を進めています。いわゆる、「残業代ゼロ法案」「過労死促進法」です。

この残業代ゼロ法案も、ブラック企業を促進する政策です。

これまで、曲がりなりにも「本当は違法」であった「ブラック企業」による長時間のサービス残業が、合法化されてしまうのです。これで、正々堂々、「ブラック企業」が若者を使い潰すことができてしまいます。

しかも、この残業代ゼロ法案は、過労死推進法でもあります(政府が進めようとしている新しい労働時間制度の問題と過労死対策の矛盾については、私の以前書いた記事(「過労死をなくすためすべきこと~「過労死促進法」を葬り去り、過労死防止対策を!」)をご覧下さい)。

このように、「ブラック企業」対策の観点からも、新しい労働時間制度の導入に賛成する政党・候補者であるか、これに反対して、長時間労働を削減する制度を作ろうとする政党・候補者なのか、これを選挙の争点とするべきです。

まとめ

私のあげた対策は、「ブラック企業」対策としては、まだまだほんの一例です。

ですが、現在国会で審議されている法案や議論されている法改正に関しても、ブラック企業促進政策が政府によって提案されており、カウンターとして、ブラック企業撲滅に資する政策も存在することが、ご理解いただけるのではないでしょうか。

私たち国民は、解散するか否かの判断権はありません。ですが、解散後の総選挙の争点を作り出すことはできます。

理念なき解散であったからといって、争点なき選挙に直結するわけではありません。いや、理念なき党利党略による解散だからこそ、争点なき選挙にしてはいけないのです。'''私たち自身が、解散総選挙の争点をきちんと作り出していきましょう。

そして、その争点の中心には、ぜひとも、社会全体の問題である「ブラック企業」対策を置いて下さい!

弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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