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「人生は大したことない」自らを“社会不適合者”と語る、東出昌大の生きる意味

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
現在・過去・未来を率直に語る東出昌大さん(撮影:すべて島田薫)

 山での生活も2年目となり、独特のライフスタイルを送る東出昌大さん。時間をかけた暮らしぶりで、現在はマネジャーも付けずフリーで活動していますが、今年は映画4本、舞台1本と充実した日々を送っています。最近はバラエティー番組にも出演し、あまりに自然体な姿も話題になりました。映像作品が多いイメージですが、今回はかなり攻めた舞台『ハイ・ライフ』に挑戦。あまり知られてこなかった東出さんの素顔や普段の生活、たどり着いた人生の意味まで、ありのままに語ってもらいました。

―今回『ハイ・ライフ』という舞台に出演されますが、比較的映像作品の多い東出さんにとって、舞台は何か違いがありますか?

 舞台はすごく緊張するし、怖いです。でも、以前と比べたら気負いがなくなって、舞台・映像、両方とも面白いと思えるようになってきました。舞台はプリミティブな行為であり、エッジの効いたものでもあるので、続けていきたいと思っています。今は『ハイ・ライフ』に集中していますし、共演者が本当に大好きな方たちなので、一緒にやるのが楽しみです。

 男性ばかりの4人芝居で、僕は前科まみれでリーダー格のディック、阿部亮平さんは殺人者役、尾上寛之さんはコソ泥役、小日向星一さんは女性に貢がせてばかりの役で、全員麻薬常習者です。汚いものをそのまま汚く描ける作品だと思いましたし、この4人が缶詰になって修行のように稽古し合えるのが楽しみです。

―セリフは放送禁止用語、内容は罪のオンパレード、かなり過激です。自分に全くないものなのか、それともどこか共感できるところがあるのでしょうか?

 そういう人生は歩んでこなかったですけれども、僕の中には、いい大学を出て大手企業に就職して、人の道とはこうあるべきというエリート志向よりも、この4人が特にそうなんですけど、掃き溜めと言いますか、そっちの方が共感しやすいです。欲求に素直で、なりふり構わず好き勝手に生きようという姿勢が非常に動物的で、生きるエネルギーに溢れている人たちなので、ライフスタイルは僕とは全然違いますけれども、楽しそうで生き生きしていると思います。そもそも、役者という仕事がちょっとぶっ飛んでないと就く仕事ではないですから。

―東出さんにもぶっ飛んだところはありますか?

 僕は、本当はそういう人です(笑)。僕って何なんだろう、とすぐに見失って考えたりしますけど、理屈っぽい部分もあるし、無頼(ぶらい)のようなものに憧れも持っている。堅実や保険はあまり考えないタイプです。全身全霊、その役にベット(賭け)したいと思いながら、特にこの数年はお仕事してきたように思います。

―俳優デビューから11年、転機はありましたか?

 僕は、以前所属していた事務所にとても恩義を感じています。その都度方針を考えてくださり、大事に育ててくださいました。若い時にはこういう仕事をする、人気を得る時期は忙しくする、キャラクター・見られ方を考える。一人の役者を育てるにあたり、見られ方や仕事の選び方を考えて積み重ねてきてくださったものがあるんです。

 それが、僕にスキャンダルが起こった時に「全部なくなった」と言われたこともあって、「マジか⁉」と絶望しました。その反面、そんなに簡単になくなったものとは何だったんだろう、とも思ったんです。

 これからどうしよう、どう生きていこうかと考えていたら、そんな時でも仕事で声をかけてくれた方たちがいました。「なぜ声をかけてくれたんですか?」と聞いたら、「今まで全身全霊でやってきた姿を見ているし、今回もそうやるでしょう」と言ってくださったんです。それで、やってきたこと全部はなくなっていなかったと思えたのと、今更何かを気にしなくていいかと開き直れたことで、捨て身でできるようになったのかと思います。最近はそれが楽しくもあり、怖い部分でもあります。

―何が怖いですか?

 「常識」や「こうあるべき」みたいな言葉は、そうでないと見ている人を不安にさせるし、生き方も然りです。今回の作品が麻薬中毒者役だからといって、別に違法薬物を役作りでやろうとは一切思わないですよ。でも、役者って憑依(ひょうい)するためにどこまで自分をかけられるか、そこにやりがいを覚えると、自分が自分でいられなくなることもあるのではないか、と考えると怖いです。この仕事はのめり込まないとできない。僕は器用ではないから、その怖さがあります。

―普段の生活は仕事に繋がりますか?

 どう生きているのかも含めて、全部繋がると思います。山の生活を始めて今年の冬で2年になりますが、ディックという役をやるにあたり、東京で過ごしてきただけではなく、山での生活、“猟友会のおっちゃん”、周りの人たちの迫力、そういう経験が役に生きればいいですね。都市部を離れて生活する中での気付きもあるし、生活と芝居の関係性は連綿と続いていると思います。

―そもそも、なぜ山の生活を始められたんですか?

 東京に家があるわけでもないし、東京に住みたいとも思ってない中で、北関東の山で土地の人とご縁があって、「こっちに住みなよ」と言ってくださったのがきっかけです。そんな生活ができるのだろうかと思ったら、社会がリモートを推奨する流れになったので、時代の追い風を受けた形で始まりました。

―どんな生活ですか?

 電気は、電球1個と冷凍庫分は通っています。あまり電気に頼りたくないので、掃除機の代わりにほうきと雑巾、洗濯機はないので手洗い、人の家で洗わせてもらうこともあります(笑)。水道は山の水を引いています。ガスはないので薪を使います。

―今までそういった経験はないですよね。

 これまで人類はそういう営みをしてきています。特別に見えるかもしれないですが、僕にはたった50~60年の短い時間で“そんな生活はできない”という新しい常識が作られているだけのように思います。僕の生活は、車もガソリンもチェーンソーも使い、文明の利器の恩恵はたくさん受けています。

 動物も来ますよ。夕飯を食べていると足元でガサガサっと音がするから見てみると、椅子の下にタヌキが来てたり(笑)、シカも来ます。本当に可愛いです。

―熊に襲われたりしないんですか?

 山には熊もいますが、100年前の人たちは危険も生活の中にあったと思います。今はあまりにも安心安全な時代だから、危険の中に生きることが表裏一体で、この『ハイ・ライフ』も安心安全から離れたところで生きている人たちの話だから生き生きしているのかなと。こうあるべきとは思わないですけど、生きるとは何だろうということを日々考えて生活していることを、この芝居に注力できるのではないかと思っています。

―この生活で、ご自身に変化はありましたか?

 まだ途上ですけど、「生きる」とか「人間」とかいろいろ考えました。結果、大したことないんだというところに行き着きました。それもお芝居する上で楽になったのかもしれません。自分の人生の意味は多分ないし大したことないから、あと何年生きるか分からないけど、誰かに「人生であの作品を見られてよかった」と言ってもらえるような芝居を1本でも残せれば御の字かなと思います。

―最近バラエティー番組『プライムビデオSP 相席食堂』(Prime Video)、『世界の果てに、ひろゆき置いてきた』(ABEMA)にも出演されていました。オファーを受けた理由は?

 スタッフさんの熱量を感じたからです。残念ながら消費される仕事ってあると思うんです。キャッチーに作ろうと思ったら、スキャンダルを逆手にとっていじり倒すという企画もあり、実際そういったオファーもあります。

 ただ、それは本来家庭内の問題であったはずなのに、僕の場合表に出てしまったことで騒ぎになったと思っているので、家庭内のことをいじられてお金を得たいとは思わない。人前に出ればいいというわけではないと思います。

 とはいえ、“いじりは全くナシで”となると、汚いものを覆い隠そうとする、不都合を押し入れにしまうような感じで違う気もする。なので、人間としての距離感を分かってくれた上で、お互いの人間性を認め合って「仕事をしたい」と言ってくださる方とは、単純に消費されるものではなく面白いものを作りたいということだと思うので、そこで僕が何かできることがあるのなら参加させていただきます、といった感じです。

 出演したどちらの番組もいい出会いでした。芝居に生かせることがあればラッキーです。全部ひっくるめて人生、生きていくということだと思うので、すべてが生きることを豊かにさせてくれればいいなと思います。

―今の東出さんを人に紹介するとしたら、何と言いますか?

 「社会不適合者」(笑)。僕はいろいろとあって、これもまた自分で掘る必要はないんだけど、将来の不安とか今までのキャリアがすべて瓦解(がかい)したとか、いろいろなことを言われた時に、山に行って目の前の動物を見て、この子たちは身一つで今日も生きている、たくましいな、社会保障もなければ年金もない、でも今、草を喰(は)んで生きている、満ち足りているんだと思ったんです。

 世界が変わってしまうという不安に押しつぶされそうになった時に、「生きる」という根本を動物に見せられた気がしました。そう思ったらお芝居が怖くなくなったし、ある意味開き直ることができて、お芝居がしたいという気力が満ちてきました。深く潜れるようになったと思います…僕、大丈夫?語りすぎですか(笑)。

―“芸能人の生活”とかけ離れているので、芸能の仕事に戻るのが嫌になったりしませんか?

 自分の生きている意味も芸能という意味もあまりないと思います。古代メソポタミア文明におけるシュメール人にも、人気役者や人気者はいたと思うんです。でも6000年も経つと誰も覚えていないし、何も残っていない。古代メソポタミアで「俺は人気者だ」ということだけに幸せを覚えた役者は、本当に幸せだったのか。自己の充足感を持って日々生きている人の方が、役者や芸能人でいることよりも幸せなのではないか。いい芝居をすることは、自由であり権利なのでそれは目指すけど、芸能人然として生きていたいとは一切思わなくなりました。

―最後に東出さんの理想を教えてください。

 “一匹狼”が僕の理想で、独立独歩、自主自立が本来の姿だと思います。体も心も強くなりたいです。強くなれば多くのことが完結するし、人の力にもなれるし、お芝居の限界の幅も広がるだろうし…強くなりたいと思います。

【編集後記】

約束の時間より早く到着された東出さん、撮影の試し撮りをしていた場所にフラッと現れ、さり気なくスタッフと交代してレンズ前に立ち、挨拶もそこそこにレンズ越しに会話が始まり、ゆるりとした時間が過ぎていきました。ご自分の考えはハッキリしていますが、私が投げかけた質問にも何度も相槌を打ち、受け止めてくれます。思っていた以上によく笑う方なのでそれが心地よく、今も東出さん独特の笑い声が脳内をリフレインしています。「自然体とは?」と言われてしまいそうですが、自然体の人でした。

■東出昌大(ひがしで・まさひろ)

1988年2月1日生まれ、埼玉県出身。有害鳥獣駆除免許取得、猟友会会員。高校生の時に「メンズノンノ専属モデルオーディション」でグランプリを獲得しモデルデビュー。パリ・コレクションにも出演。2012年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビューし、「第36回日本アカデミー賞」新人俳優賞、「毎日映画コンクール」「スポニチグランプリ」などの新人賞を受賞。2014年『クローズEXPLODE』で映画初主演、『コンフィデンスマンJP』シリーズ、『聖の青春』、『菊とギロチン』、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』、『ごちそうさん』など主演・出演作品多数。2020年出演の映画『スパイの妻』は「ヴェネツィア国際映画祭」で銀獅子賞を受賞。近年の作品は『Blue/ブルー』、『草の響き』、『天上の花』、『Winny』など。映画『福田村事件』は現在公開中。『コーポ・ア・コーポ』は11/17~公開予定。まつもと市民芸術館プロデュース『ハイ・ライフ』は長野・まつもと市民芸術館 実験劇場(11/23~26)、東京・吉祥寺シアター(12/1~6)にて上演予定(チケットは9/2より一般発売)。

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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