Yahoo!ニュース

16歳で単身ニューヨークへ!世界中から応募者殺到のオーディションを勝ち抜いた櫻井多美衣

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
NY在住、ストンパーの櫻井多美衣さん(撮影:すべてtaro)

 イギリスで生まれ、ニューヨーク・オフブロードウェイで29年にわたって公演するなど、世界中で旋風を巻き起こしてきた『STOMP』は、バケツ・デッキブラシ・ゴミ箱のふた・ビニール袋といった、日常のあらゆるものが楽器となるステージです。日本人史上2人目となる「ストンパー(『STOMP』の出演者)」の櫻井多美衣(さくらい・たみい)さんは、ニューヨークの1ブロックを埋め尽くすほど長蛇の列ができたオーディションで合格。16歳で渡ったニューヨークでの生活にも迫ります。

―日本人史上2人目の「ストンパー」ということですが、『STOMP』に入るきっかけは?

 ニューヨークで師事したのが、ミッチェル・ドランスという、タップ界でものすごいビッグネームの「マッカーサー・フェロー」(アメリカの「天才賞」と呼ばれる)受賞者でもあるカッコイイ先生でした。尊敬する彼女が『STOMP』に入ったので舞台を観に行ったら、タップダンスではないのにリズムの経験を活かしてこんなことができるんだ!と感動したんです。しかも、他にも尊敬するタップダンサーが『STOMP』出身だと分かり、このショーができればうまくなれるんじゃないか、私もあの役ができるんじゃないかと思いました。

 『STOMP』の魅力の1つが、ステージ上のキャラクターと自分を結びつけて考えられること。楽しそうに何も考えてないような女の子もいれば、シリアスでパワフルな子もいる。背の高い人、低い人もいれば、オタクっぽいドラムのお兄ちゃんもいる。逆にずっとふざけているだけで面白い人もいるし、誰かしら自分を重ねられるキャラクターがいると思うんです。

―櫻井さんはどんなタイプですか?

 私は何も考えてない、すごく楽しそうなタイプ(笑)。『STOMP』は基本的に全部で12人のキャスト構成で、その中から8人が日替わりで出演します。女性は2人で、役も変わるので毎日ショーも変わります。

―オーディションには大変な人数が集まったそうですね。

 当時は2~3年に1回の開催で、毎回すごい人数が集まり、ニューヨークの1つのブロックを応募者がぐるりと1周するくらい、長蛇の列ができていました。オーディションでは、ステージに上がっていろいろな動きをするのですが、スキルよりは自分のキャラクターを見せられる人、目を引く人、リズム感のある人を求めているようでした。

 初めて受けたのが19歳(2008年)、合格したのが27歳(2016年)…8年かけて4回受けました。年数・回数は多いかもしれませんが、オーディションのワークショップが楽しかったし、そんなに思いつめていたわけではないです。

―タップダンスを始めたきっかけは?

 祖父が日野敏という、日劇のタップダンサーでした。トランペットを吹きながら踊っているのを見て育ったので、私も小さい頃からタップダンスを習っていました。日野家は音楽をやっている人が多いのですが、楽器で成功するのは大変だなと思っていましたし、私は体を動かす方が好きだったので、ダンスの道に進みました。

 日本では私立の中学校に通っていましたが、エスカレーター式で上がる高校ではなく、もう少し広い世界が見たいと思うようになり、インターナショナルスクールを探していたところ、ニューヨークに渡った方が世界を肌で感じられるのではないかということになりました。両親はニューヨークに住んでいたことがありましたし、伯父の日野皓正(トランペッター奏者)もよくニューヨークと日本を行き来していましたから、何かあったら頼れるだろうということで、両親も送り出してくれました。

―ニューヨークではどんな生活を?

 現地の高校に入学して、1年間はホストファミリーの家に住み、その後は半地下の狭い家に8年くらい住んでいました。

 英語は中学校3年間の授業で習った程度でしたから、何か話題がないと話す機会もない。だからタップダンスをやったんです。タップのクラスで「あそこのステップ難しかったからもう1回見せて」とか声をかけて友達を作って、会話をすることによってだんだん話せるようになりました。ダンスとリズムで繋がって成り立つ会話です。皆が「タミはまだ英語が分からないから」とゆっくり話してくれたり、先生が言っていることや知らない単語を説明してくれたりしました。

 高校を卒業して大学に入り、数学科とダンス科を専攻して学位を取りました。完全に理系です。『STOMP』には様々なバックグラウンドのキャストが集まっているので、アフリカンダンスやジャズダンスをやっていた人たちは、カウントせずに歌のリズムで覚える感じで、私はドラマーの人と、カウントを楽譜に起こしているものを細かく確認しながらやっていました。

―実際にメンバーになってどうでしたか?

 最初の1年はついていくのに精一杯でした。自分の音を鳴らすことはできるようになるんですけど、必要なのは落ち着いていられること。もしほうきが割れたらここに取りに行くとか、誰かがケガをしたらカバーするとか、アクシデントに対応できるような新人研修期間がありました。

 そのうち、お客さんの様子を見ながら反応に合わせていく感覚がつかめてくるんです。メンバーの出方を見ながら自分のキャラクターを考えながらショーができるようになるまでは、数年かかりますね。

―『STOMP』は世界中回るんですか?

 12人編成のカンパニーが、アメリカ・ニューヨーク・ヨーロッパにありました。私がいたのはニューヨークで、アメリカ全土を回るチームとは別です。29年続いたニューヨーク・オフブロードウェイが今年1月に閉まりまして、私はヨーロッパのカンパニーに所属することになりました。

 今年ヨーロッパカンパニーで回ったのは、ドイツ3都市、デンマーク、スペイン・マドリード、日本に来る前はフランス・パリに2ヵ月いました。私以外のヨーロッパのメンバーはその後イギリス公演に行きました。

 今回日本に来るメンバーは、1月にニューヨークのカンパニーを卒業した人たちとアメリカ・ヨーロッパのミックスになっているので、日本でしか見られない今回限りの特別なメンバー編成です!

『STOMP』日本公演メンバー
『STOMP』日本公演メンバー

―『STOMP』の楽しいところはどこですか?

 臨場感が尽きないんですよね。毎日出るメンバーが変わるし、いろいろな役がどんどん回ってくるので、見る度に違います。

 ステージで音を出しているのは全部日用品です。クリエイターさんがこだわって探してくるので、フライパンはここのメーカーとか、椅子も音をすべて確かめて用意しています。ポテトチップスの袋やビニール袋も使います。

―ニューヨークと日本は日用品の音は違いますか?

 全然違います。日本のスーパーの袋はニューヨークの物よりちょっと分厚くて、シャカシャカいい音がします。ペットボトルはペコペコさせて音を出しますが、日本の方が薄くて、カチャカチャ鳴るんです。これもリズム。ペットボトルをキュッと押したら戻ってくる時間がそれぞれ違うので、そこのチェックも大事です。私はペットボトルを使う役なので、見ると絶対に音を確認します(笑)。いい音のペットボトルを見つけたら即キープ!

―日本のステージで日本のアイテムが出てくるシーンはありますか?

 どこの国に行っても、新聞はローカルのものを使います。真剣に読んでいるように見えて、内容は分かってなかったりしますが、見たことがある記事も目にするかもしれません。

 紙とペットボトルを分別してリサイクルするシーンでは、中身はほとんど日本の物になると思います。日本で見つけたいい音のペットボトルがあれば使うかもしれないし、お煎餅が入っている袋の下のトレーは結構カシャカシャして面白いので、いつか使えるかもと取ってあります。

―『STOMP』のお奨めの楽しみ方を教えてください。

 大きな声で笑って、声を出してください。私たちも皆さんの声をエネルギーにしています。小さいお子さんから年配の方まで楽しめますし、演劇・ミュージカル・コメディーの要素もあるし、音楽としても確立しているので、コンサートに行くつもりで来ていただいても楽しいと思います。

ゴミ箱のふたを持ち踊る櫻井多美衣さん
ゴミ箱のふたを持ち踊る櫻井多美衣さん

【編集後記】

小さな体に謙虚な姿勢、佇まいはダンサーそのものです。ニューヨーク生活が長く、「大人として日本に滞在した期間が少ないので、失礼な言葉があったらすみません」とのことでしたが、全くそんなことはなく、自然に出てしまう英単語はその都度日本語に直して一生懸命話してくれました。すべてに前向きで、オーディションに何度も落ちたことも全く気にしていません。とにかく『STOMP』が楽しい!という気持ちでLIVE感を大切にされています。

■櫻井多美衣(さくらい・たみい)

1989年4月9日生まれ、日本出身。アメリカ、ニューヨークを拠点とするタップダンサー。幼少の頃、祖父で日本劇場のトランペットプレイヤー兼タップダンサーであった日野敏の影響でタップダンスを習い始める。16歳でニューヨークへ単身渡米。2006年から非営利団体American Tap Dance FoundationのTap City Youth Ensemble初期メンバーとしてブロードウェイの劇場でデビュー、様々な舞台に立つ。2014年、CUNY Hunter Collegeダンス科と数学科を同時に卒業。その後、数多くのタップダンスカンパニーに所属し、Tap City Youth Ensembleのリハーサルディレクターとして後進の指導に当たる。2016年8月、『STOMP』のオーディションに合格し、日本人で史上2人目の“ストンパー”となる。ニューヨークの舞台にレギュラー出演していたが、2023年1月閉幕後はヨーロッパツアーの一員として舞台に出演する日々を送る。Steps On Broadwayをはじめ、小・中・高・大学での講師としても活動している。

『STOMP』(ストンプ)は8/16~27、東京・東急シアターオーブにて上演予定。https://stompjapan.jp/

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

島田薫の最近の記事