Yahoo!ニュース

雅楽師・東儀秀樹の長男・ちっち、ギタリストデビュー!通学のお供はカセットテープな“昭和好き”

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
常にギターを手にしている東儀典親(ちっち)さん(撮影:すべて島田薫)

 奈良時代から1300年にわたり雅楽を世襲してきた東儀家の長男として生まれた、東儀典親(とうぎ・のりちか)さん、現在16歳。通称“ちっち”として、『ハマスカ放送部』(テレビ朝日系)や『千鳥のクセがスゴいネタGP』(フジテレビ系)などテレビ番組にも度々出演。4月には、「なにわ男子」藤原丈一郎さんが始球式を務めるオリックス開幕戦で、父・東儀秀樹さんと共に国歌『君が代』を演奏することが決まっています。今月発売の東儀秀樹さんのアルバムには、初めてギタリストとして参加。将来を嘱望される存在です。

―1300年続く雅楽の東儀家に生まれたのを意識したのはいつ頃ですか?

 小さい頃から父のコンサートには行っていましたけど、その時はただ楽しんで聴いているだけでした。小学校5~6年生くらいから、自分の立場といいますか様子をなんとなく理解してきて、自分も音楽家になりたいと思うようになったんです。家の中には父の音楽が流れていましたから、音が頭に焼き付いていましたし、その頃から雅楽が好きでしたね。学校のクラスメイトにも雅楽の面白さを伝えたりしていました。

―将来をどう考えていましたか?

 将来はロックをやりたいという気持ちがありました。もちろん雅楽も大切にしたいし、できるようになりたいと思っています。父が「ロックもできる雅楽師」と言っていますので、僕は「雅楽もできるロックミュージシャン」としていられたら楽しいなと。雅楽だけ、ロックだけ、とは決めず、総合して好きな音楽をやっていきたいという思いです。

―好きなジャンルは?

 完全に70年代のロックです。イギリスの「フリー」「ウィッシュボーン・アッシュ」「ピンク・フロイド」、日本では「四人囃子」などのハードロック、プログレッシブ・ロックが好きです。ファッションも、ベルボトムなど70年代のものに憧れています。

―雅楽はいつ頃から始めて、担当楽器は決まっていますか?

 古典の世界では打楽器・弦楽器、一通りやります。父は管楽器の篳篥(ひちりき)や笙(しょう)、その他琵琶や舞などをすべてマスターしているので、すごくいい環境にはいます。僕は現在、笙を中心に演奏していますが、雅楽はこれから本格的な勉強をしていこうと思っていて、一番やりたいのは主旋律となる篳篥です。

 父から篳篥を教わったことはまだないです。アドバイスをもらったり、分からないことを聞くと教えてくれますが、本格的にレッスンという空気ではありません。楽器も練習というより遊んでいる感覚です。家中いろいろな場所に置いてあり、いつでも手に取れるので、ギターは朝から晩まで毎日ずっと触っています。

 これまで、父から雅楽をやるように言われたこともないですし、音楽をやれとも言われていません。何も強制されたことはないので、もし僕がサッカーにハマったらサッカー選手を目指す自分を応援してくれたと思います。

 僕の理想とする音楽家は父です。いろいろ学んでこれからにつなげていきたいです。

―音楽以外に興味があるものは?

 昭和文化です。昭和の漫画が好きで、手塚治虫さんや赤塚不二夫さんの作品を読みます。好きなテレビ番組は「快獣ブースカ」「ゲゲゲの鬼太郎」で、「~鬼太郎」は現代ではなくて、60年代の白黒アニメだった頃のものが面白いのでDVDを探して買ってきます。

 昔の作品の方が、悪者が出てきて倒すだけでなく何か考えさせられる道徳的な要素が詰め込まれていて、温かく感じられます。水木しげるさんの原作は民族学だと思うし、妖怪の話を調べたことを基に作っているので、経緯・文化がすごく面白いです。

 音楽を聴くのは基本的にレコードです。もちろんCDも聴きますが、LPがいいです。音質が大分違うんです。CDだと人間が耳でキャッチできない領域の音がカットされちゃうんですけど、レコードだとそれが残っているので、耳に聴こえなくても体で感じ取れるような気がするんです。

 アルバムは、レコードだとA面が1~5曲目、B面が6~10曲目だとしても、CDだと1~10曲目までつながっていますよね。作り手側もレコードだと、A面からB面に裏返して新しい気持ちで聴くことを考えて作っていたと思うんです。だから、裏返す作業をしてから聴くのは気持ちがいいです。

 通学電車では昭和時代のウォークマンにカセットテープを入れて音楽を聴いています。自分の好きな曲をベスト盤みたいに録音するんです。今はコードをつなげば録音できますが、昭和世代の「シーッ!」と言いながらテレビ・ラジオの音を録音する場面は憧れです。こういう話が好きなので、話が合うのは50~60代の方が多いですね(笑)。同級生より共通点が多くて話が弾みます。

 TikTok、YouTubeは、インストールはしていますがほとんど見ないです。YouTubeで70年代のアーティストのミュージックビデオを見ることはありますが、TikTokは年齢層が若めなので僕の見たいものがあまりないんです。

 テレビはDVDを見る時に使います。LINEで友達とのやり取りはしていますけど、スマホでは音楽も聴かないし、触るのは用事がある時だけですね。

―反抗期はありましたか?

 これが本当になくて、多分これからもないとは思います(笑)。家は楽しくて自由度が高くて、抑えつけられることはなかったし、良い環境で育てられたと自分でも感じます。両親は、僕が興味を持ったものにすぐに反応して行動してくれました。例えば宇宙に興味を持ったら宇宙センターに連れて行ってくれたり、気になったことはすぐに調べてくれました。

 怒られた記憶はないです。もちろん僕に不注意があれば注意されますし、良いこと悪いことの区別は教えてくれましたが、怒鳴られるのではなく、話して理解させてくれます。

―お父さんのアルバムにギターで参加したそうですね。

 本格的にギターで参加するのは初めてです。以前父に曲を提供したことはあったんですが、その時は今より子供でしたし、制作や音楽家たるものが何なのか全然分かっていませんでした。最近は音楽制作のバックヤードに興味が湧いている時期だったので、このタイミングで心構えを持ってアルバムに参加できるのは本当に特別なことです。

 高校生であり、まだ足りない部分はありますけど、音楽家という世界に片足を踏み入れられていればうれしいです。一番目指したいのは「プロ」になることですが、何をもってプロなのか、ギタリストなのかというのは難しいですね。

―お父さんからアドバイスはありましたか?

 特にないです(笑)。僕が参加したのは1曲は父のオリジナル、1曲は「四人囃子」というバンドのカバーです。『ハレソラ』という曲なんですけど、自分が大好きでコピーした動画をYouTubeにあげたら「四人囃子」のメンバーご本人が見てくださって共演に至った経緯もあり、僕の十八番でもありました。

―中学校在学中には、人格と学業で皆の模範であることが表彰されたそうですね。

 自分では分かりませんが、過ごし方がよかったんですかね(笑)。ああいう賞をいただけたことは誉(ほまれ)に感じます。

―「誉に感じる」とは、なかなか日常会話に出てこないですね。

 言葉はキレイにしていたいという意識はあります。現代語は進んで使っていないかも…「マジ」とか「ヤバい」は言ったことがないかもしれないです(笑)。

―10年後は何をしているでしょう。

 10年後にどうなっているかは分からないですけど、一度好きになったものは嫌いにならないので、蓄積されていくと思います。より幅が広がって、よりワクワクしているのではないかと思います。いいものを見定める能力を持って、好きなものを大切にして、これはいいと言い切れるような感覚でいたいです。

―最後に、父である東儀秀樹さんは、成長著しいちっち君をどう思われますか?

東儀秀樹:僕が雅楽を学び始めたのは19歳ですが、ちっちはこの年(16歳)で固まっているというか、年齢と共に価値観が変わるというよりも、小さい頃からすでに持っているような気がします。一瞬でも人を音楽で楽しませることができたらいい音楽家だと思うし、ちっちには素養があると信じている。今回アルバムに参加したのも「喜ばせよう」とか「プロ意識を味わわせよう」ということではなく、普段からいい感じのギターを弾いていたのでそのまま録音したくなったのです。とても自然なことで、それでアルバムの中のギターは成功です。

 最近SNSで反響が大きかったのが、僕がいつもステージで吹いている篳篥での『リベルタンゴ』を、ちっちがそっくりに吹いていたもの。聴いて・感じて・表現できることが音楽では大事で、マニュアルや五線紙をどんなに見つめても人を楽しませられない人もいる。人が気持ち良く感じてくれる表現をしたいと向上心を持っている人が、いい雅楽師でありギタリストだと思うので、彼はいい音楽家になると思います。

自然とセッションが始まった東儀秀樹さん(右)とちっち君
自然とセッションが始まった東儀秀樹さん(右)とちっち君

■インタビュー後記

これまで東儀秀樹さんを取材する際にちっち君を度々お見かけしてきたので、小さな頃から1つのことへの集中力、物事に動じない落ち着きは感じていました。今回初めてゆっくりお話を伺いましたが、人生何周目だろうと思うような熟成感があり、独自の目線で語る姿は超然としています。一度も口論がないという東儀家の親子と別れて帰路につくと、ディズニーランドから帰る時のような、夢の国から現実に引き戻されるような感覚を覚えました。芸能の世界で生きる要素はすでに持ち合わせています。

■東儀典親(とうぎ・のりちか)

2006年11月22日生まれ、東京都出身。愛称は“ちっち”(CICCI)。奈良時代から1300年にわたり雅楽を世襲してきた東儀家に生まれ、父は雅楽師・東儀秀樹。2019年、仁和寺音舞台で初舞台。2020年、沼津御用邸記念公園開園50周年記念スペシャルコンサート「東儀秀樹の素晴らしき仲間たち」をはじめ、コンサートや舞台に出演。テレビ・ラジオ・雑誌などにも進出している。3月29日リリースの東儀秀樹ニューアルバム『NEO TOGISM(ネオ・トーギズム)』にギタリストとして参加。4月4日、オリックス・バファローズ本拠地開幕戦で国歌・球団応援歌を演奏予定。

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

島田薫の最近の記事