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源実朝役・柿澤勇人が“鎌倉殿”になって見えた景色、三谷幸喜から言われた言葉とは?

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
“鎌倉殿”で話題の柿澤勇人さん(撮影:すべて島田薫)

 2人の人間国宝(祖父=三味線奏者、曾祖父=浄瑠璃語り手)を有する家に生まれた柿澤勇人さん。サッカーでプロを目指した後は「劇団四季」に入団し、ミュージカルの世界へ。次々と主要キャストに抜擢され、華やかな容姿と高い実力で人気となります。現在は、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の鎌倉殿・源実朝役で注目され話題の人に。実朝役は見る景色を変えてくれたと言います。

―『鎌倉殿の13人』での源実朝役が人気ですね。

 「いい経験でした」というレベルではないです。15年役者をやってきて、見たことのない景色が今見えています。これまで舞台中心で生きてきましたが、映像の現場でも戦っていける力がないと僕は終わる、と思っていたし言ってもきました。もしミュージカルだけで生きていくのであれば、僕は今も「劇団四季」にいたと思います。

 ホリプロに入って11年、僕が言っていることは変わっていません。「芝居で生きていきたい」。ミュージカルももちろん芝居ですが、それ以外もやりたいということです。でも自分がやりたくても求められないとできない、オーディションで受からないといけない世界ですから、『鎌倉殿の13人』の脚本を担当された三谷幸喜さんとの出会いには、感謝しかないです。

―初めて見えた景色とは?

 いろいろあります。この前、ある番組でMCの大御所芸人さんが、僕を見て「実朝や!本物や!」とおっしゃったんです。今までなかったことです。“鎌倉殿”をやっていなかったら番組に呼ばれることもないだろうし、その方は僕のことを知らなかったと思います。僕にとっても、芸人さんが必死に戦っている現場に行くことは、舞台だけやっていたらありえませんでした。今まで見られなかった景色です。

―「実朝くん」はTwitterで世界トレンド入りしました。

 ありがたいです。愛されるべき役ですし、僕も愛されたらいいなと思いながら演じていたので、役名で覚えてもらえたのはすごくうれしいです。

 僕はこれまで、テレビドラマだとゲスト出演で犯人や嫌われ役をよくやっていました。役者ですからもちろんそれもいいのですが、応援してもらえる、愛される役は実朝が初めてだったんです。三谷さんもそれを分かってくれていて、「柿澤さん、こういう役初めてでしょう?多分スゴく難しい役だけど、あなたならできます」とおっしゃってくれて、そういう意味でも新しい景色でした。

 僕は、感情を表に出して破滅していく、泣き叫ぶ、怒り狂う…といった芝居は比較的得意な方だと思うんです。「5秒後に泣いて叫んで暴れて」と言われたらできる。ところが三谷さんは、そこではないところで僕に課題を与えてくれたんです。

―“鎌倉殿”は、じっと座っていることも多いですね

 そうなんです。動きようがない“受け”の芝居が多いんです。最初は、巻き込まれ翻弄される場面が続くので、目の前で大好きな人が殺されたとしても、普通だったら胸ぐらを掴んで「この野郎!」となるところ、それができない。いきなり復讐するのではなく、全然違う考え方で義時(小栗旬)に対抗していくのは頭が良くないとできないことで、芝居でやるのは難しかったですね。でも、この役に巡り合えたことが本当に幸せです。

―現場の雰囲気は?

 小栗さんは、演出家・蜷川幸雄さんから「お前はいつか真ん中に立つ」と言われて育ってきた方なので、蜷川組で学んだこともあり、非常に良い雰囲気です。

 小栗さんも、大河の主役を1年半続ければしんどい時もあるはずなのに、僕のこともスタッフさんのことも気遣って、全員の名前をすぐ覚えて何かあればいじったりして、常に場が和むことをやってくださる方です。

 全員でアイデアを出して話し合って、緊急事態も笑いながら乗り越えたという思いがあるので、撮影終了時は皆ボロボロ泣いていました。愛がある現場だったからだと思います。

―周囲の反応は何か変わりましたか?

 近所の定食屋で「俳優さんに似てるって言われませんか」と言われて。普段からいろいろな人に似ていると言われることがあるので、今度は誰だろうと思いながら「言われないです~」と答えたら、「“鎌倉殿”をやっている人にすごく似ていますよね」と。「え、実朝ですか?ありがとうございます!」と言いました(笑)。カレー屋さん、居酒屋さんでも同じようなことがありました。

祖父君は三味線奏者として、曾祖父君は浄瑠璃の語り手として、共に人間国宝。そちらの方面に進むことは考えませんでしたか?

 考えなかったです。長男の家系は皆継いでいますけど、次男である父が継がなかったのが大きかったと思います。「やるか?」とは聞かれましたが、当時は芸能に興味がなかったし、音楽は好きでしたが、仕事にするとは全く思っていなかったので「やりません」と答えていました。

 結局、僕は「劇団四季」に入り、歌舞伎座や演舞場とジャンルは違えど、同じ舞台の世界に来ることになりました。僕が舞台の道に進むことを伝えたら、「華やかに見えるかもしれないけど甘い世界じゃない。つらいことの方が多い」と言われました。その時は、夢に向かってキラキラしていたので分かりませんでしたが、今は分かりますね。

 実は先日、伯父の清元志寿子太夫(きよもと・しずこだゆう)から「清元(三味線音楽・浄瑠璃)のレッスンをしてみないか」と連絡が来まして…行こうと思っているんです。

 (浄瑠璃は)ミュージカルの発声とは違いますけど、今、ボイストレーニングを受け直そうと思っているんです。35歳ともなると、若さと勢いで出せていたところが徐々に衰えてくるのが分かるんです。実朝にいい声はいらないと思い、半年間の撮影中は体も絞りましたし、歌わず、声のことは考えずに過ごしました。撮影後、久しぶりに歌ったら全く声が出なくて驚きました。これで清元をやったら、もしかしたらハマって「名前が欲しい」と言い出すかもしれませんね。

―次回作、『東京ラブストーリー』(作:柴門ふみ)は久しぶりの恋愛モノですね。

 物語に恋愛の要素が入ることは往々にしてあるんです。でも今回は、物語のそもそもの基本が恋愛の話で、どっちの女性を選ぶかという内容でもあるので非常に難しいです。

 先日、ドラマ版『東京ラブストーリー』放送当時(フジテレビ系で91年1月期に放送)のプロデューサーとお話しする機会があったのですが、このドラマは主要キャスト(永尾完治・赤名リカ・三上健一・関口さとみ)4人の気持ちのすれ違いで話が進み、事件が起こるわけでもない。当時は誰もゴーサインを出さなかったのに、結果大ヒットにつながったということでした。

 でも今回はミュージカルで、物語が大きく動くわけではない、今僕たちが生きている世界の日常の話を切り取ったものを歌にしなくてはならない。(演じる側は)難しいと感じながら頑張っています。

―柿澤さんの恋愛観は?

 穏やかな方がいいですね。穏やかで終わらなかったりもしますけど、恋愛には人を変える力があるじゃないですか。僕は昔、恋愛のことで兄から「お前じゃなかった。いつもの勇人じゃなくなっていた。何をやっているんだ」と怒られたことがあるんです。要はその人のことしか考えられず、その人だけを気遣い、染まっていたんでしょうね。兄とはすごく仲が良いけど、男同士で普段そんなに語り合うわけではないので、そこまで言ってくれたというのは、相当僕が違う人格になっていたのかなと思います。自覚はないけど、見ていて痛々しかったらしいです。

―まさに『東京ラブストーリー』な話で、(柿澤さん演じる主人公)完治に共感するところがありそうですね。

 完治も、基本的に受け身なんですよ。リカという今までに出会ったことのないタイプの女性の、破天荒かつ天真爛漫な言動と姿を目の当たりにして、今まで生きてきて感じたことのない感情をリカに呼び起こされ、翻弄される人間です。僕はそこまで振り回されるのとは違うかな。

―リカ(自由奔放)とさとみ(優等生)、どちらが好きですか?

 これは両極端で何とも言えない。う~ん、リカみたいな人は大変かな。穏やかな方がいいです。

―今年を振り返って、どんな年でしたか?

(3~4月上演の)舞台『ブラッド・ブラザーズ』での旧友(ウエンツ瑛士・木南晴夏)との再会、演出を担当した吉田鋼太郎さんとの絆が確認できてうれしい始まりでしたし、大河ドラマで半年間プレッシャーの中やり遂げられたのは本当に大きかったです。

 今年はとてもいい出会いの連続で、舞台から大河ドラマ、最後は『東京ラブストーリー』で締めくくるので、有終の美とまではいかないかもしれないですけど、何かいいことが起こればいいなと思います。

【インタビュー後記】

美しくて王子様のような人です。楽しそうに話す姿が心地よく、ソフトな見た目の奥には激しさがあるようにも感じました。実は「今年のカッキーは何かが違う」と春頃から予感があり注目していたのですが、ドラマでの大活躍を見ることができ、腑に落ちました。フィールドが広がり、清元も始めたら「来年のカッキーも何かが違う」ことになるのかもしれません。

■柿澤勇人(かきざわ・はやと)

1987年10月12日生まれ、神奈川県出身。幼少からサッカーに打ち込み、プロを目指す。高校1年生で観た「劇団四季」の『ライオンキング』に衝撃を受け、“シンバ”を演じたいと俳優を志す。高校卒業後2007年、「劇団四季」の研究所に入所。同年『ジーザス・クライスト=スーパースター』でデビュー。2008年から立て続けに主演を務めるが、2009年末、同劇団を退団。2011年よりホリプロ所属。舞台では『ロミオ&ジュリエット』『デスノートTHE MUSICAL』『フランケンシュタイン』など数多くの主演を務め、テレビではNHK連続テレビ小説『エール』、日本テレビ系『真犯人フラグ』など話題作に出演。現在はNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に源実朝役で出演中。ミュージカル『東京ラブストーリー』は11/27~12/18、東京建物Brillia HALLにて上演。東京公演後、大阪(12/23~25)・愛知(2023/1/14)・広島(2023/1/21~22)でも上演される。

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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