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大事なのは「そこにいること」、朝ドラ祖母役でも存在感!ベテラン女優・三田和代の言葉

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
舞台稽古に励む三田和代さん(撮影:スタッフ)

 近年、NHK連続テレビ小説『エール』で主人公・窪田正孝さんの祖母役、映画「SUNNY 強い気持ち・強い愛」では広瀬すずさんの祖母役を演じるなど、存在感を見せている女優・三田和代さん。俳優座付属俳優養成所で基礎を学び、長きにわたり劇団四季で活躍した後は、舞台を中心に活動しているベテランです。劇作家・井上ひさし氏に魂を奪われ、演劇一筋に歩み続けている三田さんが、何に魅力を感じてどう生きているのか。力になる言葉が満載です。

―現在、舞台稽古の真っ最中ですね。

 『イヌの仇討(あだうち)』の再々演です。実は私、再演の時(2020年)に初めて病気になっちゃったんです。本当に突然のことで、生まれて初めて入院というものを経験しました。急性胆道炎と言われましたが、原因不明でした。

 その日は昼間にヨガをやって、友達とコーヒーを飲んで、夕飯の支度をして食事をして、横になろうとしたら夜11時半頃に高熱が出て…。救急車を呼ぼうかと電話の前まで行ったんですけど、うなりながら我慢して、朝いちで近所のクリニックへ行ったら、そのまま入院になりました。ちょうど稽古初日の前で舞台のチラシに名前も出ていたんですけど、降板したんです。

―他に舞台に出られなかったことはありますか?

 劇団四季にいた30歳くらいの時に1度だけありました。旅公演が前年の8月から始まって、翌年の2月26日に長野県松本市で。そんな時代でした…過労でしょうね。当時は3本くらい立て続けに主演が続いて、皆は入れ替わっていましたが、私だけずっとつながっていたんです。ハードでしたね。

 劇団四季では『オンディーヌ』『なよたけ』などのお芝居、ストレートプレイをやっていました。俳優座の付属俳優養成所で3年間学びまして、劇団四季に入ってからは休憩した記憶がありません。18年間、稽古→舞台→稽古→舞台の連続でした。

―劇団四季を離れた理由は?

 劇団にいた後半の頃に、井上ひさし先生の『藪原検校(やぶはらけんぎょう)』というお芝居を観まして、観た瞬間に「これだ!」と思いました。それで辞めたんです。その頃、劇団ではミュージカルが増えてきたこともあって、私はストレートプレイをやりたかった。井上ひさしという人と一緒に芝居をやらないと、私の演劇人生はないと思いました。

(撮影:スタッフ)
(撮影:スタッフ)

―井上ひさしさんの魅力は?

 演劇のすべてが入っています。シェイクスピア、チェーホフ以上です。何が素晴らしいかって、言葉の芝居だからです。大事なのは“言葉”です。お芝居自体が言葉で構築されているんです。生きていることの喜びを、先生の作品から感じるんだと思いますね。先生の作品に接すると、生きていてよかったと思えるんです。

―井上ひさし作品の楽しみ方はありますか?

 先生の作品は難しくないです。観たら、ただ面白いんですよね。難しいことは何もおっしゃらないから。笑いも何も言葉で表現するんですけど、井上先生の「ゆれる自戒」という名言がありますので、どうぞお読みになってください。「むずかしいことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをゆかいに ゆかいなことをまじめに…」という、あれです。

―今回の舞台『イヌの仇討』も井上ひさしさんの作品です。

 登場人物全員が、自分の生死を、自分の人生を選ぶんです。1人1人が自分で考えて、魂の中から生と死をチョイスしていく、その成長の物語ですね。感動するのは、1人1人が生きることを一生懸命考えているというところです。自分の生き方を発見していく物語だと思います。

―これは『忠臣蔵』のお話ですよね。

 『忠臣蔵』は実際に起きた歴史的事件で、主君が受けた仇を家来たちが返す仇討ち物語として、歌舞伎や映画にもなっています。

 江戸の末期から民衆の物語として親しまれていますが、それを井上先生は「ちょっと待てよ」と。一時期、テレビドラマでも『忠臣蔵』ばかりやっていた時代がありましたけど、そうすると何がニュースになるかって、吉良上野介を誰が演じるかということなんです。

 吉良上野介は、いつもちょっとしか出てこないけど悪者、敵役です。そこに先生は目をつけた。赤穂浪士が仇討ちに切り込んできた時に、吉良上野介が炭小屋に逃げたのは歴史的事実です。家探ししても見つからず、2時間後に見つかって惨殺されるわけですけど、現実にあった2時間をお芝居にしたんです。実際に何を話していたかは分かりませんよ。そこは井上先生の着想です。

 吉良上野介にスポットを当てることはあまりありませんからね。普通は大石内蔵助が主人公になって四十七士が集まって、1人1人の物語があってお話が膨らんでいるんだけど、吉良上野介は敵役でしかないところを先生は物語にしたわけです。

 私は『イヌの仇討』で女中頭を演じますが、女がいたという史実はありません。先生の創作人物です。実際にお墓があるので、登場人物の何人かは事実です。男ばかりですが、実際には女もいたかもしれないですよ。

 今回再々演するにあたって、演出の東憲司さんから「元気ならやってください」と言われまして、「元気です!!」と言っちゃいましたね。よくぞ声をかけてくださったと思って、うれしかったです。今回は本当に万全のつもりでおります。

      (撮影:スタッフ)
      (撮影:スタッフ)

―元気でいられる秘訣は?

 諦めが早い方かなぁ。今日は疲れたと思ったら、気になることがあっても寝ます。「明日にしよう」と思って、明日になったら「明後日にしよう」、めちゃくちゃな人間です(笑)。成り行き次第だから、好きなものを食べて好きな時に寝て、という感じです。なるようにしかならないじゃないですか。

―ストレスが溜まることはありますか?

 1人で生きているわけじゃないから、人と接すると、楽しいことも苦しいこともあるし、ストレスもかかりますよね。かと言って、ストレス解消なんて考えているより、寝た方が早いと思いますよ(笑)。映画を観たり音楽を聴いたりもします。

―どんな映画をご覧になるんですか?

 評判になっている映画は、1人で映画館へ行って観ます。『万引き家族』は、最高に面白くて泣きながら観ました。映画のお仕事は、声をかけてもらえる頃に舞台に呼ばれることも多くなって、舞台をチョイスしてきました。映画も好きなのでもっとやりたかったですけど、いい年代を過ぎてしまいましたね。

―舞台の魅力とは?

 お客様がいて演者がいて、そこに作り上げられる、両者が享受しあう密の空間が好きです。そこでしか感じられないものですよね。だから、感覚が変わればまた違うんです、生の感触だから。舞台は生なんです、今なんですよね。その瞬間が好きなんです

―三田さんは、演じている、届けている、どういう感覚なのですか?

 「そこにいる」ということです。そこが居場所なんですよ。届けているなんて気は全くないです。観てもらおうとも思っていないし、ただそこに、舞台空間にいたいんです。そしてお客様とは、その日生きているということを五感で感じたい。

 昨日の私と今日の私はまた違います。だから明日、私に会ったら何を言うか分からない。今は正直に話していますよ。でも明日どう言おうとか考えてないし、今会って話をしているこの瞬間が、私の一番大事なものなんです。今がつながっていくのだと思います。「生きる」って、そういうことではないでしょうか。

      (写真:事務所提供)
      (写真:事務所提供)

【インタビュー後記】

ただ「そこにいる」というシンプルな言葉に、深く考えさせられました。ただいるために、どれほどの努力が必要でどれほどの精神力を要するのか、ご本人にお聞きすれば“そんなことではない”と言われるかもしれませんが、「そこにいる」とは、すべてが詰まった、すべてをそぎ落とした、究極の存在であるような気がします。

■三田和代(みた・かずよ)

大阪府出身。俳優座付属俳優養成所15期卒。1966年日生劇場制作『アンドロマック』でデビュー。その後劇団四季入団。『なよたけ』『オンディーヌ』などのヒロインを演じる。1984年劇団四季退団。退団後も数々の舞台を中心に、テレビ・映画でも活躍。近年はNHK連続テレビ小説『エール』で主人公の祖母役を好演。こまつ座『イヌの仇討』は11/3~12、東京・紀伊國屋ホールにて上演。その後、九州(11/15~12/24)でも上演される。2004年紫綬褒章受章、2015年旭日小綬章受賞。

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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