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期間限定なのがあまりにも惜しい面白さ 「スーパーマリオ35」でeスポーツのさらなる普及を

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
「スーパーマリオブラザーズ35」のゲーム画面(筆者撮影)

任天堂は、「スーパーマリオブラザーズ」シリーズの35周年を記念した特別タイトルとして、Nintedo Switch用ソフト「スーパーマリオブラザーズ35」の配信を10月1日より開始した。

本作は敵を踏んだり、ファイアボールを当てて倒すといった基本ルールは元祖「スーパーマリオ」と同じだが、最大35人のプレイヤー同士によるオンライン対戦方式になっているのが特徴。倒した敵を相手プレイヤーに送り込み、ライバルたちの進路を妨害する形で攻撃を仕掛けたり、自身も相手から送り込まれた敵を倒したり避けながら、最後まで生き残ったプレイヤーが勝者となるサバイバル方式で順位を競う。Nintedo Switch Online加入者であれば、ゲームを無料でダウンロードして何度でも遊ぶことができる。

遅ればせながら筆者も遊んでみたところ、ネットワークを介して他のプレイヤーとスリリングな対戦ができて非常に面白かった。やがて何度か繰り返し遊んでいるうちに、本作を単に35周年のお祝いとして配信するだけでなく、eスポーツの普及にも大いに利用すべきではないかと思うに至った。

「スーパーマリオブラザーズ35」プレイ中の1コマ(※筆者撮影。以下同)
「スーパーマリオブラザーズ35」プレイ中の1コマ(※筆者撮影。以下同)

幅広い年齢層が楽しめる、eスポーツが実現する可能性を秘めた1本

筆者がなぜ、本作をeスポーツに展開すべきと考えたのか。その最大の理由は、ファミコンブームを実際に体験した30代後半以上の世代に対し、訴求が非常にしやすいと思ったからだ。

昨年に拙稿、「eスポーツ市場のさらなる発展に必要なのは、40歳以上の『シニア世代』を取り込む仕組みづくり」でも書いたように、eスポーツのさらなる普及のためには若手プレイヤーだけでなく、購買力のより高いシニア世代をどんどん参加させることが必須であると筆者は考えている。

「スーパーマリオ」であれば、ファミコン世代ならその存在も遊び方も、おそらくほとんどの人が知っているハズ。よって前述したように、「スーパーマリオ35」も基本ルールは同じゆえ、プレイヤーがなぜミスをした、あるいは勝ったのかが初見の人にもわかりやすい。これは大きなメリットだ。

元祖「スーパーマリオ」と基本ルールは同じだが、プレイヤー同士で敵を送り合うという新たな面白さを体験できるのが「スーパーマリオ35」ならではの面白さだ
元祖「スーパーマリオ」と基本ルールは同じだが、プレイヤー同士で敵を送り合うという新たな面白さを体験できるのが「スーパーマリオ35」ならではの面白さだ

本作は1回でも敵にやられたり、画面外に落下すると即リタイアとなってしまう。だが、本作は次から次へと新たな敵が出現して、目まぐるしく場面が変化することもあり、リタイア後に他人のプレイを見ているだけでも意外と面白い。たとえアクションゲームが苦手な人であっても、観戦するだけでも楽しめるのは大きな長所と言えるだろう。

本作のステージ構成や敵の出現、攻撃パターンは元祖「スーパーマリオ」と同じだが、プレイヤー同士で敵キャラを送り込むことによって、本来の「スーパーマリオ」では絶対にあり得ない、大量の敵が同時に出現するケースがひんぱんに発生する。状況次第では、最初のステージであるワールド1-1から、いきなり大魔王クッパやハンマーブロスといった強敵が出現することもある。

ファミコンブーム期に何度も「スーパーマリオ」をプレイし、その内容を熟知した人であっても、本作を初めて見たときはきっと驚くことだろう。特に、他のプレイヤーから集中攻撃を受け、クッパをはじめとする強敵が思わぬ場所で大量に出現したときは、自分自身が遊んでいても、ほかのプレイヤーが悪戦苦闘している場面を見るのも実に面白い。

プレイするステージの順番は毎回同じとは限らない(※参加プレイヤーのリクエストなどによって決まる)ため、遊ぶたびに、あるいは観戦するたびに違った展開が楽しめるのも大きなメリットだ。元祖「スーパーマリオ」を楽勝でクリアできる腕を持つプレイヤーであっても、毎回同じ攻略パターンが通用するとは限らないので、今までとはまた違った面白さを堪能できるハズだ。

相手プレイヤーから集中攻撃を受けると、いきなり大魔王クッパが出現してビックリさせられることもある
相手プレイヤーから集中攻撃を受けると、いきなり大魔王クッパが出現してビックリさせられることもある

また、20代以下の若いプレイヤーも、昨今の人気タイトルである「PUBG」や「フォートナイト」などでバトルロイヤル方式には慣れていて、「スーパーマリオメーカー2」の「みんなでバトル」モードのプレイ経験者も多いと思われる。なので、本作を今から遊び始めても特に苦労することなく、すぐに楽しむことができるハズだ。

そんなファミコン世代にも若い世代にも楽しめる本作を、eスポーツの普及に利用しない手はないだろう。

期間限定ではなく、通年の配信サービスに切り替えを!

実は本作、来年の3月31日までの期間限定配信となっている。これほどまでに面白いゲームが、わずか半年ほどでサービスを終えてしまうというのは、あまりにももったいない。

本稿を執筆している10月16日時点では、公式のeスポーツ大会が開催されるとのアナウンスは一切されていない。メーカー、および競技団体などの関係者には、ぜひ本作によるeスポーツの開催を実現していただきたい。コロナ禍という厳しい状況下ではあるが、「スーパーマリオ」という世界的に有名なIPであれば、スポンサーも探しやすいのではないかと思われる。

「スーパーマリオ 3Dコレクション」や、「マリオカート ライブ ホームサーキット」といった新作ソフトの発売とタイミングが重なったこともあり、「スーパーマリオブラザーズ35」はこれらのタイトルに比べると注目度はもしかしたら劣っているかもしれない。だが、本作を通年配信にシフトし、eスポーツの普及に活用する価値は大いにあるのではないだろうか。

自分で遊んで勝ったときの快感も、ほかの上手なプレイヤーが生き残る様子を見るのも実に楽しい本作。ぜひeスポーツの普及に活用してほしい
自分で遊んで勝ったときの快感も、ほかの上手なプレイヤーが生き残る様子を見るのも実に楽しい本作。ぜひeスポーツの普及に活用してほしい

(C)Nintendo

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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