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選手名簿も撮影場所もなし……取材する立場で見たeスポーツ活況への課題

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
※写真はイメージ(写真:アフロ)

筆者はeスポーツに四六時中ハマッているというわけではないのだが、それでも旧年中はeスポーツの取材や観戦をする機会が多々あり、大会の会場に何度も足を運ぶ一年を過ごすこととなった。世間的にも、eスポーツの人気・需要が増していることの表れと言えるだろう。

各会場では、選手たちや実況・解説者、観客席を目や耳で追う一方、運営スタッフによるメディア対応の様子もいろいろと拝見したのだが、一部の大会ではいくつか気になる点が見受けられた。とりわけ、明らかにメディア対応に不慣れなスタッフしかおらず、残念ながら取材がとてもやりいくい大会もあった。

これは競技レベルやゲームの人気向上と同じくらい、eスポーツ業界全体にとって非常に重要な問題だ。なぜなら、メディア対応が拙いことによって、せっかく世間的にもeスポーツが注目されている絶好のタイミングなのに、大会を広く宣伝する機会を失うことにつながってしまうからだ。

とりわけ筆者が危惧しているのは、新聞やテレビなど、普段はゲーム関連の報道をあまりしないマスコミにそっぽを向かれてしまうことだ。彼らがせっかく興味を持って取材に訪れても、メディア対応が拙いあまり、「ちゃんとアテンドしてくれないんだったら、もう報道するのはやめよう」などと思われてしまっては、こと日本国内においては、新たな市場や人気拡大を望むのは困難になってしまうことだろう。 

では、実際にどのようなメディア対応が問題だと筆者は思ったのか? 以下、実体験をもとに説明する。

今後のeスポーツの発展のためには、運営側のメディア対応レベルの向上も必須であると筆者は考える(※筆者撮影。本文の内容とは直接関係ありません)
今後のeスポーツの発展のためには、運営側のメディア対応レベルの向上も必須であると筆者は考える(※筆者撮影。本文の内容とは直接関係ありません)

会場スタッフのメディア対応レベルのさらなる向上を

撮影スペースへの案内や導線の作り方など、運営スタッフの手際の良さに関心させられることがあった一方、「これが賞金・賞品の掛かった公式大会なのか?」と、にわかには信じられないほどお粗末な運営も大会によっては見受けられた。

ある敏腕スタッフの常駐する大会では、終了後に有名選手へのカコミ取材の時間が取れないかとお願いしたところ、すかさずインタビュー場所と時間を手配してくれたおかげで、筆者独自の記事を書くことができたので本当に嬉しかった。

これとは対照的に、メディア対応に不慣れなスタッフばかりだった某イベントでは、表彰式に参加した出場者の撮影タイムすら用意してくれず、しかもメディア用の撮影エリアから式の様子を無理矢理撮影しようと思っても、その位置からだと他のスタッフがどうしても写り込んでしまうという、非常に残念なケースもあった。また、別の大会では撮影スペースすらなく、「運営スタッフの移動用通路上で撮影してくれ」と言われたこともあった。

撮影環境があまりにも悪いため、別のライター仲間と一緒にスタッフにクレームを入れると、「じゃあ、後でこちらで撮影した素材をお送りしますので」と真顔で言われたのでびっくりしてしまった。いったい何のために、プレス関係者がわざわざ撮影機材を持ち込んで現場に来ているのか、その意味をまったく理解しない広報・メディア担当者がなぜ現場を仕切っていたのかと、本当にがっかりしてしまった。

さらにひどい大会になると、信じられないことに出場選手のリストすら用意してくれない大会もあった。また、メディア用の椅子が用意されていなかった某大会では、外国人記者団が何と選手用の待機スペースに紛れ込み、堂々と椅子に座って観戦していたにもかかわらず、スタッフは英語が話せないせいなのか、見て見ぬ振りをしている残念な光景も目にした。

もし万が一、彼らが選手の競技を妨げたり、危害を加えるようなことがあっては一大事だろう。このような黙認は、メディアの人間に対する不公平感を増長することにもつながるので、違反を見付けたスタッフは、ジャスチャーを交えつつでも毅然とした態度で注意してほしい。

ほかにも、表彰式後に「選手たちの撮影タイムを用意します」と言われたので指定の場所で待っていたら、何と間違えた場所に案内され、せっかくのシャッターチャンスをみすみす逃したケースもあった。筆者も長いことライター業を続けているが、基本的なアテンドすらまともにできないイベントに出会ったのは、生まれて初めての経験だった。

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賞金などの市場規模だけでなく、大会によってメディア対応・アテンドのレベルに顕著な差があるという意味でも、日本のeスポーツはまだまだ未熟であると言える(※筆者撮影。本文の内容とは直接関係ありません)
賞金などの市場規模だけでなく、大会によってメディア対応・アテンドのレベルに顕著な差があるという意味でも、日本のeスポーツはまだまだ未熟であると言える(※筆者撮影。本文の内容とは直接関係ありません)

また、拙稿「『お、これいいな』無邪気にコピペする若手ゲームライターが量産され続けた理由」でも書いたように、eスポーツを精力的に取材する若手ライターは現状とても少ない。まだ取材経験の浅い若手ライターであっても、安心して取材ができるような運営体制を大会側が用意することも、ひいては業界の活性化へとつながるのではないだろうか?

なお、誤解のないように申し上げておくが、メディア関係者専用の豪華な控室や椅子を用意したり、飲食の接待をしろなどと言っているのではない。あくまで、メディアの人間が仕事をするための手助けとなるような、最低限の取材スペースの確保や資料・データの準備と、各種対応がきちんとできるスタッフ配置のお願いしたい、というのがその趣旨である。

今後も僭越ながら、筆者も現場で気付いたことがあれば、主催者にどんどんお話をさせていただきたいと思う。

今年注目の国内eスポーツイベント

以上のような課題や問題点をふまえ、筆者が特に注目している2020年開催のeスポーツ関連イベントは下記の4種類だ。

まずは、今週末の11日(土)から開催される「東京eスポーツフェスタ」だ。拙稿、「なぜ、東京都はeスポーツの予算を計上したのか? 担当者に聞いてみた」でも触れたが、本イベントは東京都が初めて予算を計上したうえで行われるeスポーツイベントであり、eスポーツの普及と関連産業の振興を目的としている。

東京都の開催ということで、ゲームメディア以外のメディア関係者も取材にやって来ることが予想されるので、もし運営が杜撰であった場合は、「税金の無駄遣い」と批判を受けることは必至だろう。筆者としても、本イベントは出場者の競技レベルではなく、公費を使って行うものとして適切なのかどうかという観点から大いに注目している。

・「東京eスポーツフェスタ」

https://esportsfesta.tokyo/

3月には、インテルが主催する「ストリートファイターV」と「ロケットリーグ」の2タイトルを使用した、賞金総額50万ドル(※日本円で約5,400万円)の「Intel World Open In Tokyo 2020」の予選がスタートする。本選は7月22日~24日の3日間、すなわち東京オリンピックの開催直前のタイミングで行われる予定だ。

インテルはオリンピックのトップスポンサーでもあるので、ここでeスポーツが将来オリンピック競技に採用されるための、新たなアクションがあるかどうかも注目される。主催者においては、本選会場でオリンピックと絡めた新たな試みを実施するなど、ゲームメディア以外のメディア関係者にも興味を引くネタを提供し、ひいては日本国内のeスポーツの活性化へとぜひつなげてほしい。

・「Intel World Open In Tokyo 2020」

https://www.intelworldopen.gg/

3番目は、「かごしま国体文化プログラム」の一環として行われる、昨年の「いきいき茨城ゆめ国体」に続き2回目となる国体のeスポーツ競技大会、「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2020 KAGOSHIMA」だ。

今回から、野球ゲームの「実況パワフルプロ野球」も採用されることがすでに発表され、来月には新たな追加タイトルと選考方法も発表予定となっている。都道府県対抗ということもあり、前回大会同様に多くの一般マスコミが各地から取材に来るものと予想される。それだけに、主催者側には出場選手・チームの詳細なデータの公開や、専用のインタビュールームを設けるなど、ゲームに不慣れなメディア関係者にも、前回以上に取材をしやすくなるような配慮をぜひお願いしたいところだ。

・「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2020 KAGOSHIMA」開催のお知らせ(※日本eスポーツ連合のサイト)

https://jesu.or.jp/contents/news/news-191226-2/

最後に、コナミが5月から開始する、音楽ゲーム「beatmaia IIDX」シリーズを使用したプロリーグの「BEMANI PRO LEAGUE」だ。賞金総額は2,000万円で、出場選手のエントリーはすでに開始され、書類選考と3月のドラフト会議を経て、4月にチームオーナーと契約を結んだうえで、5か月間のリーグ戦を戦い抜くことになる。

とりわけ注目に値するのは、本作がアーケードゲームであるという点だ。アーケードゲームならではの魅力や楽しさを、一般のゲームファンだけでなく、メディア側にもいかに訴求できるのかも人気が出るかどうかのポイントとなるだろう。また、本大会に参加している6社のチームオーナーは、実はいずれもゲームセンターを運営しているオペレーターでもあるので、これを機に苦境が続くアーケードゲーム市場の活性化につながるかどうかという意味でも、大いに注目したい。

・「BEMANI PRO LEAGUE」

https://p.eagate.573.jp/game/bpl/bpl2020/

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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