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駆逐されたゲーム攻略サイト 激減に追い込んだまとめ・パクリサイトの手口

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
収益性・SEO対策から見た、ゲーム攻略サイト激減の理由とは?(※画像はイメージ)(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)

5月31日に掲載した拙稿、「なぜ、ゲーム攻略サイトは激減したのか? 現場の声を聞いてみた」では、サイトの需要があるにもかかわらず薄利で収益化が難しいため、その数が減少したことをご紹介した。

そこで今回は、ゲーム攻略サイトならではの収益性やSEO対策など、その手法と問題点をより深く掘り下げたお話を、上記の記事に引き続き「SQOOL.NETゲーム研究室」を運営する、株式会社SQOOL代表取締役の加藤賢治氏に伺ったのでお伝えしよう。

ゲーム関連の広告出稿が減少

利用者が無料で見られる情報サイトの収入源は、今も昔も広告収入だ。その代表的なものは、「1クリックで何円」というタイプのアドネットワークだ。しかし、前述の記事でも加藤氏が指摘していたように、ゲーム攻略サイトは広告収入によるビジネスとは相性が悪く、どうしても薄利になってしまう問題がある。

株式会社SQOOL代表取締役の加藤賢治氏(筆者撮影)
株式会社SQOOL代表取締役の加藤賢治氏(筆者撮影)

「かつてはアドネットワークがとても儲かっていました。あとは記事出稿と言って、ゲームメーカー(パブリッシャー)からお金を出してもらって記事を掲載する方法もありますが、攻略記事ではこの手法があまり使われないんです。そのゲームだけの『公式攻略コーナー』を作って掲載したこともかつてはありましたが、今はあまりやらなくなりましたね。メディア的には、たいへんありがたい手法なのですが」(加藤氏)

上記の方法以外にも、攻略サイトに限らず一時期話題になったアフィリエイト広告で稼ぐ手段もあったのではないかと筆者は思ったのだが、これにも加藤氏は相性の悪さを指摘した。

「アフィリエイト広告も、攻略サイトとは相性があまり良くないんです。なぜかと言いますと、攻略サイトの読者がものを買おうとしないからなんですね。アプリゲームのダウンロードアフィリエイトというのもあることはあるのですが、それほど大きな予算がつくものではないので、メディア側から見れば収益面ではちょっと厳しいです」(加藤氏)

ほかにも、サイトの目立つ位置に掲載する広告の枠を、月単位などで売る方法も考えられるだろう。しかし加藤氏によると、「昔はありましたが、今はほとんどのサイトでネットワーク広告を使っていると思います。そのほうが経費が抑えられますし、読者に合わせたターゲティングもしてくれますので、宣伝効果が高くなります」とのこと。

また、ゲームメーカーの広告予算が以前より減ったことも大きなポイントだという。加藤氏によれば、ゲームメーカーの出稿が絞られた結果、今ではゲーム系の広告に頼り過ぎていたアドネットワークを扱う広告会社が大不況になっているそうだ。

「昔はゲーム系のサイトには、ゲーム関連の広告がたくさん掲載されていましたが、ゲームメーカーの出稿の予算が昔に比べて下がったため、今はあまり出なくなりました。その結果、ゲーム関連広告のクリック単価が下がったので、ほかの広告を出したほうが儲かるだろうとアルゴリズムが判断しているからなんですね」(加藤氏)

なお、ゲーム関連サイトの収益化についてのより詳しい内容は、筆者も運営者のひとりであるライターの勉強会、「ゲームライターコミュニティ」のサイトに加藤氏が書いた記事、「ゲームサイトはどうやって儲けているの?収益化の代表的なパターン」に掲載されているので、興味のある方はこちらをお読みいただきたい。

加藤氏が「ゲームライターコミュニティ」に寄稿した、「ゲームサイトはどうやって儲けているの?収益化の代表的なパターン」(筆者撮影)
加藤氏が「ゲームライターコミュニティ」に寄稿した、「ゲームサイトはどうやって儲けているの?収益化の代表的なパターン」(筆者撮影)

なぜ、ゲーム攻略サイトは薄利なのか

では、攻略サイトはどれだけ薄利なのか? 加藤氏によれば、「攻略サイトでは、1PVにつき0.3円ぐらいあれば優秀なほうに入ります。私は以前に、健康とかショッピング系のサイトを運営したこともあるのですが、これらのサイトでは1PVで1~3円になる場合もありました。ですから、ゲーム攻略サイトとは収益性が10倍近くも違うんです」という。

サイトのPV数を増やし、広告のクリック単価を上げることが基本的な収益性の上げ方だが、現状はかくも厳しい。しかも攻略サイトの読者は、前述の記事でも触れているがほとんど広告を読まず、クリックして商品を買おうと考える動機にも乏しい。つまり宣伝効果が低いので、攻略サイトの運営はなおさらたいへんなのだ。

「攻略サイトを見に来る人はページ内が広告だらけの、いわゆるまとめサイトの読者ともかなりカブっているので、広告に見慣れているからそれをうまく避けるんです。ただ、攻略サイトは人が集まりやすいので、単価が安くても超薄利多売という形で成り立つんですね」(加藤氏)

薄利であるならば、サイト内に掲載する広告を増やすことが、収益性を上げるひとつの方法となるだろう。だが、「単純に広告を増やせば売上も上がるだろうということで、かつては広告だらけのサイトが量産されました。でも、広告を置き過ぎるとサイトが読みにくくなってしまうんです」(加藤氏)という、また別の問題が起きてしまうのが難しいところだ。

収益性、SEO対策を無力化した悪質なまとめ・パクリサイト

商業サイトを運営するにあたり、収益性の向上とともに両輪となるのがSEO対策だ。「ほとんどの攻略サイトは、圧倒的に検索からの流入が多いのでSEO対策が重要になります。うちのサイトも9割は流入ですね」(加藤氏)というのだから、その重要性は明らかだろう。

また、攻略サイトは検索との相性がとても良い。「うちのサイトでも、SEO対策によって多くのアクセスを集めていました。わからないことを調べるには、やはり検索との相性が良いので、例えば『ボス+倒し方』とか、『タイトル+攻略』などと検索をした時に、その順位をいかに上げるかが大きなポイントです」(加藤氏)

企業としてしかるべきSEO対策を施し、一時は自身のサイトが上位に検索されるようにしていた加藤氏。ところが、しばらくすると上位に載らなくなってしまう。「明らかに”転載の塊”みたいな、中身の無い記事に検索順位で負けるケースが出てきたからです」(加藤氏)いわゆる、まとめ・パクリサイトの台頭だ。

掲載元から記事をパクり、PV数を横取りして自分のサイトに読者を引き込む悪質なまとめ・パクリサイトが、なぜ通常のサイトよりも検索結果が上位に表示されたのか? それはSEO対策を悪用していたためだ。

「そういうサイトは、検索エンジンを欺いて評価を上げるんです。代表的なやり方は、お金を使って被リンクを買う方法ですね。今はリンクの数だけで上位になることはありませんが、かつてはグーグルがリンクの数を重視していましたので、それを逆用して人工的にリンクを付け足し、サイトの価値がなくても検索で上位に出てくるようにしていました」(加藤氏)

そして、まとめ・パクリサイトは、広告を悪用して儲けている点でも極めて悪質だ。

「彼らはサイトが読みにくくなってもお構いなしで、広告をとにかく出しまくります。それから、画面の移動に合わせて動く広告ですとか、ポップアップするインタースティシャル広告もよく置くんです。しかも、押すと広告が消える×ボタンがものすごく小さくしてあるんですよ。要は、ミスタップをさせて儲けようとするわけですね。このような広告は、クリック数に対して収入が入る仕組みですから」(加藤氏)

今ではグーグルが悪質な広告の使用を禁止したり、広告収入だけが目的のサイトの評価を下げたことで、悪質なまとめ・パクリサイトはかなり淘汰された。だが、そんなサイトが今でも存在するのは、広告を悪用して儲かるというからくりがあるからなのだ。

「実は、私も以前に恥ずかしながら、少しだけ動く広告を試したことがあるんです。そうしたら、収益が10倍近くアップしました」(加藤氏)というのだから、いかに儲かるかがわかるだろう。しかも、「ミスタップをさせましょう」と堂々と言ってくる広告会社もあったというのだから困ったものだ。

だが、加藤氏はそのような広告の掲載をすぐにやめ、彼らに追随するようなことはしなかった。「その理由は、サイトが”クソ”になるからですね。自分で見ていてもイライラしますから……。私のサイトに載せている攻略記事は、すべて私やほかのライターが自分で調べて書いたオリジナルで、実際にパクられたこともありました。元々ゲームが好きだから始めたサイトですし、サイトを人に誇りたいですから、だまし広告を使っていては胸を張って見せられないですよね」(加藤氏)

とはいえ、収益性に10倍もの差があり、記事をパクってタダ同然で載せるので原価も安いまとめ・パクリサイトに比べると、SEO対策などに投資できる金額も当然ながら桁違いとなる。「そうすると、彼らにはもう勝てないんです。自身のサイトを攻略サイトとして続けていくことを諦めたのは、使える金額が全然違うからなんです」(加藤氏)

「収益性向上とSEO対策が攻略サイトの両輪」と話す加藤氏(筆者撮影)
「収益性向上とSEO対策が攻略サイトの両輪」と話す加藤氏(筆者撮影)

それでも生き残るのは、やはり「まっとうなサイト」

しかるべき収益性の向上とSEO対策を施し、オリジナルの記事にこだわり続けたにもかかわらず、まとめ・パクリサイトの氾濫が要因のひとつとなり、やがて加藤氏は攻略サイトとしての存続を断念し、リリースや取材記事なども載せるニュースサイトへと運営方法を変えるに至った。

正統な市場競争をした結果、競合サイトに負けたのであればまだ納得できるだろうが、まさか中身のない、ただパクっただけのサイトに翻弄されるとは予想していなかったことだろう。だが、それでも加藤氏は、今後はオリジナルのクオリティの高い記事を載せるサイトのほうが生き残るだろうと指摘する。

「以前は汚い広告で儲けるやり方が、ある種のデファクトスタンダードになってしまいましたが、グーグルの方針もあって今ではそれが難しくなりました。そうなると、今後はまっとうなサイトを作って、読者に『すごい!』と言わせるしかないですよね。これからのwebメディアは、そういう方向に向かっていくしかないだろうと思います。例えば『アルティマニア』(※)のように、プロが事業としてやっているからこそできる、ゲームファンが思わず読んでニヤニヤするような攻略サイトができれば価値があるのではないかと思います。でも、今のうちの規模でやるのは難しいでしょうね」(加藤氏)

実はほかにも、攻略サイト激減の要因につながった大きな問題はいろいろと存在する。詳しくは、また機会があれば改めてご紹介したい。

※筆者注:スタジオベントスタッフが発行する、「ファイナルファンタジー」シリーズなどの、攻略本の一連のシリーズを指す。

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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