Yahoo!ニュース

ひきこもりからドーム、そして紅白へ。まふまふの飛躍をもたらした信念とは

柴那典音楽ジャーナリスト
(写真提供:A-Sketch)

大みそかに放送される「第72回NHK紅白歌合戦」への初出場が決まった、まふまふ。

2010年からインターネットを主戦場に歌い手として活動してきたマルチクリエイターのまふまふは、いわゆる“ネット発アーティスト”だ。テレビの音楽番組への出演は紅白が初。マスメディアに登場することもほぼなく、中高年世代からの知名度は低いが、YouTubeでのチャンネル登録者数は325万を超え(12月2日現在)、すでにアリーナやドーム公演を成功させるなど、圧倒的な人気を持つ。

なぜ、どのようにして、まふまふは飛躍を果たしたのか? 

その素顔に迫る特別番組『夜光音楽スペシャル まふまふ ネットから紅白へ 10年の挑戦』が、12月2日にNHK総合にて放送された。

番組は、音楽を志した経緯、通っていた大学での日々、バンドとしてミュージシャンを目指していた時に出会ったボーカロイドの衝撃、初めて人前で歌を披露した場所など、まふまふというアーティストがどのように生まれていったのかを丁寧に紐解いていく内容。

さらには、ボカロPとして第一線を走ってきたDECO*27とのコラボレーションによる新曲「ブレス」の制作背景にも密着。同曲は番組終了後に配信リリースされ、MVも公開された。

■まふまふ、人気拡大の理由

2010年、まふまふはニコニコ動画にボーカロイド曲の「歌ってみた」動画を投稿し活動をスタートする。そらる、天月-あまつき-といった盟友の歌い手たちとの出会いもその頃だ。当時の歌い手シーンは今に比べてアマチュアに近い場所で、ステージに立とうと試みてもライブハウスを借りることも難しかったという。

2012年からはカバーに加えて自身のオリジナル曲も公開。ボーカリストとしてだけでなく、作詞家や作曲家としてドラマやアニメ主題歌、CM、ゲーム、他アーティストへの楽曲提供を行うなど幅広く活動してきた。

当初は同人での自主制作CDを発表していたが、2017年には1月に初のワンマンライブツアーを開催、5月に同志の歌い手たちとステージを共にしたイベント「ひきこもりたちでもフェスがしたい!」を主催、10月にアルバム『明日色ワールドエンド』をリリースし、活動の規模を拡大する。そして、ライブの評判が広まったことで、動員も急速に大きなものになっていった。

まふまふの持ち味は、まずその歌唱力にある。中性的なハイトーンボイスを持ち、広い音域を歌いこなす。パワフルなシャウトから可愛らしい歌声まで幅広い表現力は、他に類を見ないものだ。

繊細な感性から生まれる楽曲も魅力だ。自ら作詞、作曲、編曲、演奏、ミックス、マスタリングなども手がけるマルチなスキルも持ちつつ、歌詞にはどこか陰のあるダークな心性もうかがえる。和のムードを漂わせる「夢のまた夢」、アグレッシヴできらびやかな「輪廻転生」、ファニーでキュートな「すーぱーぬこになれんかった」など、曲調の幅も広い。

筆者が実際に観て驚いたのは2019年に埼玉・メットライフドームで行われたワンマンライブ「ひきこもりでもLIVEがしたい!~すーぱーまふまふわーるど2019@メットライフドーム~」だった。3万5千人を集めた公演で、ファンタジックな世界観を持つ楽曲の数々を幻想的な演出と共に披露。遊園地のアトラクションのようなステージを見せ熱狂を生んでいた。

2020年3月には東京ドームでのワンマンライブ開催も発表され、チケットもソールドアウトしていたが、公演は新型コロナウイルスの感染拡大によって開催中止に。しかし2021年5月には東京ドームで史上初となる無観客での無料配信ライブ「ひきこもりでもLIVEがしたい!~すーぱーまふまふわーるど2021@東京ドーム~ONLINE」を開催。自身のYouTube公式チャンネルと中国の動画配信サイトbilibiliにて配信され全世界で約40万人以上が同時視聴する記録的なオンラインライブとなった。

■ネット音楽シーンの先頭に立ってきた

ライブやイベントのタイトルにもあるように「ひきこもり」を自称してきた内向的で神秘的なキャラクターの持ち主であるまふまふ。が、番組では、ネット音楽シーンの先頭に立ち、その界隈を世に広めようという信念のもと奮闘してきた足跡も語られた。そうした意志の強さが、ステージ上でのカリスマ性あふれる姿につながっているとも言える。

2022年3月23日には、その音楽活動10周年を記念したトリビュートアルバム「まふまふ トリビュートアルバム ~転生~」がリリースされる。

まふまふのオリジナル楽曲を、縁のある作曲家がリアレンジし、縁のあるボーカリストたちが歌唱するという内容。作品には、Ado、天月-あまつき-、Ayase(YOASOBI)、あらなるめい、浦島坂田船、カンザキイオリ、Giga、佐々木裕、syudou、Sou、そらる、田中秀和(MONACA)、Neru、羽生まゐご、堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)、luzといった面々が参加することが発表されている。

YOASOBI、Ado、yama、EVE、須田景凪などネット発の才能がオーバーグラウンドな音楽シーンを席巻する2020年から2021年。くじら、キタニタツヤ、泣き虫、神谷志龍など、ブレイク候補の注目株も続々と登場している。こうした潮流の中で、さまざまなクリエイターや歌い手たちと縁を結んできた関係性の豊かさも、まふまふの飛躍の理由の一つと言えるだろう。

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

柴那典の最近の記事