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BiSHアイナ×三船雅也=A_o、話題のポカリスエットCM曲「BLUE SOULS」を語る

柴那典音楽ジャーナリスト
(写真提供:SPACE SHOWER NETWORK)

15歳の新人俳優・中島セナを抜擢した大塚製薬「ポカリスエット」のCMが話題を呼んでいる。

4月に公開された「でも君が見えた」篇(以下、春篇)は、制服姿の中島セナが波打つ廊下や藤や桜の花びらが舞い散る中を駆け抜けて友人に会いにいく姿を描いたもの。映像作家の柳沢翔が手掛けたファンタジックな映像美が大きな反響を集めた。

〈ポカリスエットCM|「でも君が見えた」篇 60秒〉

7月に公開されたその続編「でも心が揺れた」篇(以下、夏篇)は、写真家/映像作家の奥山由之監督が撮影。東京から地方の高校へと転入したヒロイン・セナの学生生活を描く青春映画のワンシーンのような映像で、こちらも注目を集めている。

〈ポカリスエットCM|「でも心が揺れた」篇 60秒〉

このCMソング「BLUE SOULS」を手掛けたのが、A_o。ROTH BART BARON (ロット・バルト・バロン)の三船雅也とBiSHのアイナ・ジ・エンドによるユニットだ。

初の組み合わせとなる両者は、どのように出会い、どのように楽曲を作り上げていったのか? 三船雅也とアイナ・ジ・エンドの2名にインタビューを行い、「大人の青春」とアイナが振り返ったその制作の背景について語ってもらった。

何かに立ち向かう人間を描きたい

――まずは春篇のときの話から聞かせてください。どういうふうにして、このA_oのお話が始まったんでしょうか?

三船雅也(以下、三船):柳沢(翔)さんとCMに関わる人たちからお話をいただいて。最初は「まさか!」と思いました。自分の原体験としても、子供の頃から見てきたコマーシャルだし、ポカリスエットのCMは音楽がすごく重要な役割を果たしているのを知っていたので。自分がその世界に携わるとは思っていなかったので、驚きましたね。本当に嬉しかったです。その時に、僕だけじゃなくコラボレーションの形で表現したいということ、アイナさんを強く推したいということもお伺いしました。それでBiSHやアイナさんの歌を改めて聴いて、この人の声だったらいい感じになると思った。エネルギーがあるのに繊細で、自分も通じる感覚がある気がしたし、でも自分とは全然違う声なので、お互いに違うところに行けるんじゃないかという感じがしました。

アイナ・ジ・エンド(以下、アイナ):私もすごくびっくりしました。お話を聞いたとき、一瞬時が止まったような感じでした。

――曲は三船さんが作っていったんでしょうか?

三船:そうですね。柳沢監督から「こういうのが作りたい」みたいな話を聞いて、「じゃあこれなら僕も何曲かアイデアが浮かびそうです」と言って。

――最初のディスカッションでは、どんなことを話し合ったんですか?

三船:柳沢監督が最初に言っていたのは「アゲインストしたい」ということでしたね。何かに立ち向かう人間を描きたいんだって。そこにスペクタクルがある春篇がまずあった。ROTH BART BARONの「極彩|IGL(S)」という曲を妙高高原の雪山で弾き語りで歌った動画があるんですけれど、その曲をずっと聴きながら絵コンテを書いていたということも言っていただいた。セットは大きいけれどシンプルな楽曲にしたいという話をしました。

〈極彩|IGL(S) - ROTH BART BARON "Pond Session" in Myoko, Japan〉

――アイナさんはROTH BART BARONの音楽にどういう印象がありましたか?

アイナ:まずサウンドがすごく好きです。ちょっと神秘的なんですけど、唐突に人間の生々しさをぶち抜かれるようなところがあって。一瞬悲鳴にも聴こえるような裏声を使って歌われたりするので、ただ穏やかに聴いていられないんですよ。でも、その驚きが心地いいんですよね。人が歌っているというより山とか川が叫んでるというか。そういうイメージを持ってます。

――三船さんはアイナさんの歌声の魅力をどんなところに感じましたか?

三船:すごく身体的で奇をてらってない感じですね。歌にアイナちゃんの人間が見える。自然に歌ってる方なんだなと思います。激しい声の出し方もあれば、優しい感じも出るし、ハーモニーも美しくなりそうだなと思って。ただ、逆に今回は今までBiSHやソロでは見せてこなかったアイナちゃんの魅力を見せられたら素敵だな、また別の扉を開けるコラボレーションになるといいなということも思っていました。

たった一人の人間が思いを伝えることから壮大なストーリーに向かっていく

――三船さんはCMの話を受けて、そこから「青」というモチーフも含めて、どんな風に楽曲のアイディアを膨らませていったんでしょうか?

三船:曲を作っていく段階では、最初に貰ったラフと、スタッフの方が主人公たちに扮して一生懸命走ってる映像だけが頼りでした。春篇は曲が完成するまでCMの映像は全く観てなくて。

――絵コンテとデモ映像だけがあった。

三船:だから想像でやってました(笑)。でもストーリーだけは分かっていた。今までのポカリスエットのCMだったら何十人で踊るような曲もあったけれど、そういうものとは全然違う感じにしたい、本当にたった一人だけの思いだけを描いたものにしたいということも言ってくださって。それも含めて「アゲインスト」なんだろうと思いました。みんなでわーっとやると、ひょっとしたらその輪に入れない子達は孤独になっちゃうかもしれない。でも、たった一人の人間の思いだったら、全員がそれを感じることができる。それと「青って何だろう」ということも考えて。空や海のように、日常にある色だけれど、神秘的な色でもあるし。たった一人の人間が思いを伝える、それだけのことから神秘的な、壮大なストーリーに向かっていくような作品にしたいなと思いました。

――たしかに、春篇はとても美しいファンタスティックな映像だけれど、描かれている世界はとても小さいものなんですよね。そういうところに焦点を当てるアイディアがあった。

三船:そうですね。特に春篇を作っていく最初の曲のきっかけはそういうところでした。素朴な素材で、でも映像のスケール感に負けないもの。いい意味で寄り添い過ぎず、あえて全然違うところからアプローチしようとも思って。二人の人間の気持ちのつながり、魂のようなものが最後に絡み合っていくということが浮かんで。そこから「SOUL」じゃなくて「SOULS」だなとか思いながら、言葉を書いて音を作っていきました。

――アイナさんとしては、三船さんが作った曲の印象はどうでしたか?

アイナ:めっちゃ好きやなと思いました。歌のキーを決めるために一人で家で歌ってるときから馴染んでくる感覚があって。

――アイナさんと三船さんの声が合わさったときのマジックのようなものもありますよね。このあたりはお二人はどう感じました?

アイナ:歳的には私の方が下ですし、人生経験も三船さんに比べたら少ないんですけど、持ってるもの、波長、声が出す波動の強さみたいなものは似たものがある気がして。おこがましいかもしれないですけど、声が鳴り合った時にめちゃめちゃいい聴こえ方をしているような気がします。声がどうとかじゃなくて、魂みたいな部分だと思います。

三船:僕としても想像以上でしたね。アイナさんという人間の奥深さが伝わってきたし、声の倍音や美しさにも化学反応があるなと思いました。何かしらのマジックはあったと思います。

――春篇の完成したCMを観て、いかがでしたか?

アイナ:歌った後に初めて映像を見せていただいて。本当に感動したんです。監督もすごく喜んでいて。「できたじゃん!」みたいに、みんなブチ上がっていて(笑)。そうやって全力で挑んでいる姿を見たときに、大人の青春だなって思って。自分が今まで歌をやってきた中でも一番くらい感動した瞬間でした。

あの学校の音楽室から流れてくる曲にしたい

こうして完成した春篇のCMのOAにあわせ、4月21日には「BLUE SOULS (spring)」の音源配信とミュージックビデオも公開された。

〈A_o - BLUE SOULS (spring) [Music Video]〉

その時点でも「夏に向けて楽曲がさらに進化していく」と明かされていたが、夏篇にあわせて公開されたフルバージョンの「BLUE SOULS」では、弾き語り主体のシンプルで衝動的なサウンドだった楽曲が、生楽器をふんだんに使い、CM撮影に参加した20名の高校生による合唱も加わった、より壮大なサウンドにアレンジされている。

――続いて夏篇についても聞かせてください。こちらの「BLUE SOULS」のバージョンを作っていくにあたっては、どんなことを考えました?

三船:進化していくに当たって、どういう風に広げていったら、この作品がより特別になるのかなと思って。夏篇の監督の奥山(由之)さんが撮られる写真がとても好きだったんです。彼の繊細な世界も素敵だなと思ったし、光に対するセンスがすごい、綺麗な光を撮る方だなと思ってたので。その光のキラキラした感じが、A_oのフィルターを通して音楽でも伝わるようなアレンジにしたいなと思いました。だから毒々しい音をあまり入れなくなかったというか。打ち込みのドラムじゃなくて、人間が鳴らす響きを大事にしようと。彼女がいた教室とか、あの学校の音楽室から流れてくる曲にしたいなと。吹奏楽部がそこで練習していて、アイナちゃんの声が学校から聴こえてくるような感じにしたいと思って、なるべく学校にある楽器でやってみようと考えました。

――シンプルな弾き語りの春編に比べて、ピアノや吹奏楽のアレンジが活きている感じがしました。

三船:ホーンはトランペットとトロンボーンなんですけど、なるべくジャズっぽくなく、できるだけシンプルに、すぅっとした綺麗な音をたくさん入れました。あとは映像にエキストラとして参加してくれた生徒役の子達がコーラスに参加してくれたんです。本当に歌の上手い人というよりも、日常にいる人たちの合唱がいいなと思って。それでエキストラの子たちにスタジオに集まってもらって、一緒に練習して「せーの!」で録りました。彼らはもしかしたら映像にはちょっとしか写ってないかもしれないけど、絶対重要な要素だし、春篇のフィクションのような映像の世界観と、自分たちのいる現実とをつなげてくれる橋のような役割を音楽が果たすようになればいいなと思って。そういうことをキーワードに「BLUE SOULS」の夏篇を作っていきました。

――アイナさんはどうでしょう? どんな気持ちでレコーディングに臨みましたか?

アイナ:今回はレコーディングで歌う前に監督の奥山さんが映像に対しての思いのたけを一生懸命語ってくれて。「こういう絵を撮りたかった」というのを全部説明していただいたんですね。その映像を思い浮かべながら歌いました。だから夏篇は、春篇とはまた違う自分にとって新しい経験でした。

三船:奥山さんとは僕もすごく話し合いました。奥山さんは全部説明するんです。それが全力だから魅力が伝わるんですよね。

――夏篇のCM映像を見ての印象はどうでしたか?

三船:一本の映画を撮れるんじゃないかってくらい、素材がたくさんあって。泣く泣く使われなかった彼女たちのストーリーがめちゃめちゃ裏にある感じがしました。たとえばハリー・ポッターとかスターウォーズみたいな映画って、本編以外にも沢山のストーリーがあるじゃないですか。今回の夏篇もそういうのと同じで、僕たちが観ている映像以上にたくさんのストーリーが散りばめられている。「もっとたくさん観たい」という気持ちにさせられる映像なんですよね。

アイナ:春篇はドラマチックな感じだったんですけれど、夏篇はドキュメンタリータッチで。奥山さんは私も以前からすごく好きで、人の飾らない姿を撮るのが上手な方だと思うんです。だから、春篇では私には手が届かないかもと見えたセナちゃんが、夏篇では身近に感じられた。物語も、誰もが経験したことあるようなお話として捉えられるようになった。140秒バージョンを観て、そういう意味で「完成したんだ」と思いました。

〈ポカリスエットweb movie|「でも君が見えた」(完全版)〉

――完全版はちょっとした映画の予告編みたいな感じですよね。

三船:役者の人たちが表情豊かですよね。春篇は1カットというのもありますけど、夏篇ではいろんな表情が見えて、「こういうストーリーだったんだ」ということがわかる。小さな表情の変化にたくさんディティールがある感じがしました。

アイナ:他にもセナちゃんのヘアメイクの方とか、音楽や映像以外の方々のこだわりも感じて。そういうのすべてに感動しちゃいます。やっぱり大人の青春だなって思いました。

――お二人にはそれぞれROTH BART BARON、BiSHやソロとしての音楽活動もありますが、A_oとして「BLUE SOULS」という楽曲を作ったことは、それぞれどういう経験になった印象がありますか?

アイナ:私は今までBiSHになって7年目、ソロは1年足らずで、BiSHの間にもいろんな人とフィーチャリングはしたんですけど、私の実力不足が原因で、言われたことに対して答えるので精一杯で。いつも一生懸命頑張っても「頑張ったね」としか自分に対して思えなかったんですよね。でも今回は自分がソロアルバムを出したこともあって、自分の歌に対しての意見や感情を持てるようになってきた。そのタイミングでA_oとして三船さんに出会えたんですね。三船さんは型にハマらない方なので、私のその成長過程もそのまま汲み取って、レコーディングに向き合ってくださって。それが本当にありがたかったです。だから私は何の悔いもないし、すごく成長させていただきました。これからも何か機会があるんだったら、一緒に歌いたいなと思います。

三船:嬉しいです。何かやりたいですね。

――三船さんはどうでしたか?

三船:レコーディングでも、アイナちゃん自身が「こういうニュアンスはどうでしょう」って、どんどん歌ってくれて。3分弱のたった1曲のレコーディングの間に進化してる人がいて、そこも春篇と全然違っている。そういう人間としての輝きがあったと思います。そこに一緒にいれて、自分もすごく楽しかったです。

――CMソングという枠組みですけど、実際の制作過程はアイナさんがおっしゃったように、クリエイティブにのびのびとした切磋琢磨があったと。

三船:そうですね。春篇も弾き語りの衝動のような曲だから、厳密に言えば、最初のコーラスでアイナちゃんのピッチがちょっとズレたりしてるんですけれど、それをあえてそのまま残してたりしている。修正を加えていない、素朴なアイナ・ジ・エンドがいるんです。それはCMでセナちゃんが駆けていく、決して格好いい走り方じゃないけどそれが感動するみたいな場面と通じるものもある。で、そこから今回の夏篇でさらに美しく完成した感じがします。僕自身も成長できたと思いますね。TVコマーシャルというところからお話をいただいたプロジェクトですけど、いい意味でそこに左右されなかった。音楽は音楽としていいクリエイティブを目指して、それを真正面に直球でぶつけた先にいいものが生まれるんじゃないかと思ってやってきました。多くの人に届くといいなって思います。

〈A_o『BLUE SOULS』/SPACE SHOWER MUSIC〉

2021年7月7日(水)配信リリース

https://ssm.lnk.to/BLUESOULS

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

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