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『竜とそばかすの姫』主人公・すず役に抜擢。稀代のミュージシャン、中村佳穂の”唯一無二の才能”とは

柴那典音楽ジャーナリスト
(写真提供:SPACE SHOWER MUSIC)

中村佳穂が1年9ヶ月ぶりとなる新曲「アイミル」をリリースした。

〈「アイミル」リリックビデオ〉

6月2日には久々のライブ「うたのげんざいち 2021 in 東京 LINE CUBE SHIBUYA」も開催。そして、7月16日に公開される細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』の主人公・すず/ベル役をつとめることも明かされた。

『竜とそばかすの姫』は、17歳の女子高生・すずがインターネット上の仮想世界<U>での体験を経て成長していく物語を描く長編アニメーション。幼い頃に母を亡くしたことで心に深い傷を負い歌うことができなくなっていたすずは、歌姫「ベル」のアバターで<U>に参加し、その歌声で世界から注目を集めていく。予告映像では、劇中でベルが歌う楽曲の一部も公開されている。

〈『竜とそばかすの姫』予告〉

キャストが公表されていない段階から、歌姫「ベル」の透明感のある力強い歌声は大きな話題を呼んでいた。すでに音楽家として各方面から高い評価を集めている中村佳穂だが、これを機により広い注目を集めることになるだろう。

そこでこの記事では「中村佳穂とは何者か?」ということを改めて掘り下げるべく、これまでの歩みを振り返りたい。

■多くのミュージシャンが絶賛する独創的なスタイル

中村佳穂は、1992年京都生まれのミュージシャン。

筆者が初めてその存在を知ったのは2016年のFUJI ROCK FESTIVALだった。大学を卒業し1stアルバム『リピー塔がたつ』をリリースするも、当時はまだ全くの無名な存在。出演したのもGypsy Avalonという山奥の小さなステージだ。けれど、鳴らしている音の魅力だけで続々と人が集まっていった。ピアノを弾き鳴らし歌う、その自由奔放な演奏と姿に思わず惹き込まれた記憶が残っている。

〈中村佳穂BAND FUJIROCK Festival'16〉

その頃から噂が噂を呼ぶようにして、まずはミュージシャンやプロデューサー、音楽関係者の間に徐々に中村佳穂の名前が広まっていった。そして、その評価を決定的なものにしたのが2018年11月にリリースされた2ndアルバム『AINOU』だ。

〈中村佳穂  SING US "忘れっぽい天使 / そのいのち" (live ver)〉

アルバムは大きな反響を巻き起こした。『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)では、音楽プロデューサーの蔦谷好位置が同作収録の「きっとね!」を「2018年のマイベスト10曲」の2位に、manabuaは「You may they」を1位に選出。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文主宰の音楽アワード「APPLE VINEGAR –Music Award-」では大賞を受賞した。他にも米津玄師、いきものがかり・水野良樹、くるり・岸田繁など、多くのミュージシャンがその才能を絶賛した。

〈中村佳穂 "きっとね!" (Official Music Video)〉

中村佳穂の音楽の魅力はどういうところにあるのか? なぜ幾多の音楽関係者が彼女を“天才”と評するのか。それを知るためには、まず何より彼女のライブを体感するのが一番だ。

〈中村佳穂 "アイアム主人公" うたのげんざいち 2019 in STUDIOCOAST〉

ソロ、デュオ、バンドと様々な形態で音楽性を拡張してきた中村佳穂。ピアノを弾き歌うステージでの姿には、まるで“音楽そのもの”のような躍動感が宿っている。既存のジャンルにはとらわれない独創的なスタイルながら、人懐っこいメロディとリズムで聴く人を自然と笑顔にしてしまうポップセンスもある。集まった人たちに語りかける言葉がそのままシームレスにアドリブの歌になっていくような自然体の即興性も特徴だ。バンドメンバーたちと見せる当意即妙のセッションも大きな魅力になっている。

2019年7月にはシングル「LINDY」を配信リリースし、2度目のFUJI ROCK FESTIVALに出演し大きな喝采を集めた。同年12月には新木場STUDIO COASTでワンマンライブ「うたのげんざいち2019」を開催。YouTube公式チャンネルに公開されたライブ映像にも、その卓越したパフォーマンスが記録されている。

〈中村佳穂 "LINDY" うたのげんざいち 2019 in STUDIOCOAST〉

こうして着実に支持を集めてきた中村佳穂だが、2020年から2021年にかけてはコロナ禍でライブやツアーが中止や延期となり、活動がままならない状況が続いてきた。

新曲「アイミル」は、そんな中で作られた一曲。手拍子のリズムを持つチアフルなナンバーだ。新たな代表曲になっていくことは間違いないだろう。

■細田監督「凄い表現力だってわかっちゃったから、頼むしかないってことになった」

『竜とそばかすの姫』ビジュアル/ (c)2021 スタジオ地図
『竜とそばかすの姫』ビジュアル/ (c)2021 スタジオ地図

そして『竜とそばかすの姫』の細田監督も、そんな中村佳穂の音楽に早くから惚れ込んでいた一人だったようだ。

もともと、細田監督は数年前から中村佳穂の音楽を知り、ライブ会場やラジオ番組のスタジオライブ収録に足を運ぶなど親交を深めていた。

そして、昨年に細田監督自らがすず役を見つけ出すべく実施したオーディションに中村佳穂が参加。演技未経験ながらも監督を筆頭にその場にいた全員が絶賛する歌声で、満場一致で選ばれたという。

6月2日に放送されたバラエティー番組『1億人の大質問!? 笑ってコラえて!』(日本テレビ系)内の制作密着企画において、細田監督は主人公・すず役に中村佳穂を抜擢した理由について「オーディションの中で凄い表現力だってわかっちゃったから、頼むしかないってことになった」と語っている

『竜とそばかすの姫』アフレコの模様/写真提供:東宝
『竜とそばかすの姫』アフレコの模様/写真提供:東宝

音楽が作品の中で重要な要素を占める『竜とそばかすの姫』。同作をきっかけにミュージシャン・中村佳穂の“唯一無二の才能”に気付く人も沢山いるはずだ。

映画の公開にも、それを経ていよいよ本格的なブレイクを果たすだろう中村佳穂の新作やこの先の音楽活動にも、期待が高まる。

「アイミル」配信ジャケット/SPACE SHOWER MUSIC
「アイミル」配信ジャケット/SPACE SHOWER MUSIC

中村佳穂「アイミル」

https://nakamurakaho.lnk.to/Aimiru

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

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