2019年6月30日「板門店・南北米三者会合」の読み方

30日午後、史上初めて板門店で一堂に会した南北米首脳たち。写真は青瓦台提供。

30日午後、板門店で米国のトランプ大統領と朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の金正恩国務委員長、そして韓国の文在寅大統領が一堂に会した。韓国から見た「読み方」を説明する。

●ダブルで「史上初」

板門店ではまず、トランプ大統領が金正恩委員長を出迎えた。両首脳は軍事境界線を挟んで握手を交わし、トランプ大統領は北朝鮮側に約10メートル入り、再度握手を交わした。米国大統領が史上初めて北朝鮮に足を踏み入れた瞬間だった。

米朝首脳が5分ほど立ち話をした後、文在寅大統領が合流し、軍事境界線をバックに歴史的な南北米「三者」首脳による面談が行われた。これもやはり史上初の出来事だった。

さらに、午後4時ごろから、米朝首脳は韓国側の施設「自由の家」で約50分にわたって実質的な首脳会談を行った。この席で金正恩氏は「トランプ大統領のツイートを見て驚いた。昨日の午後になって正式に会いたいと要請を受けた」と事情を明かし、今回の会談を笑顔で受け入れた。

●会談の結果は米朝実務協議の「復活」

30日の米朝の会合は、シンガポールやハノイで行われた首脳会談に続くものでなく、あくまで臨時の面談と位置づけられる。実際、トランプ大統領は金正恩委員長を再び北朝鮮に送った後の短い会見で、「今後二、三週間、実務協議を行っていく」と明かした。第三次米朝首脳会談は次のステップとなる。

また、金委員長がトランプ大統領を平壌に、トランプ大統領は金委員長をワシントンにそれぞれ招待したとも伝えられた。これは次の会談地の有力な候補と考えてよいだろう。

トランプ大統領はまた、この日の会談について「とても良い会議だった。誰も予想できなかった歴史的な瞬間であり、歴史的な日」と語った。さらに「文在寅大統領はこの出会い自体が歴史的と称したが、私も同意する。ここからさらに歴史的な結果が出ると考える」と述べた(以上、聯合ニュースより引用)。

今回の会談の「価値」がどこにあるのかをセールスする、いかにもトランプ大統領らしい発言と言えるだろう。

●史上初「三者」の意味

この日あった「二つの史上初」のうち、どちらがより意味があるのか強いて比べるならば、筆者は南北米の三者が一堂に会した点を推したい。

その理由は、朝鮮半島問題の解決のカギを握るのがこの三者だからだという点に拠る。

「問題」とひと言で言っても、その範囲はとても広い。朝鮮半島の非核化、停戦協定から平和協定への転換(これらを合わせ冷戦構造の終結とされる)、長期的な分断解消(統一)に向けた南北関係の発展などが複雑に絡みあっている。

こうした現状について、韓国社会では朝鮮半島問題の自主化・国際化という概念で受け止めている。南北が自主的に解決できる南北関係と、国際的な枠組みでのみ解決できる核や平和問題という両面性を持っているという見方だ。

だからこそ、南北だけで話し合うのにも限界があり、米朝だけで話し合っても届かない部分が存在してきた。その課題を正面から受け止めたのが、2018年6月にあった史上初の米朝首脳会談だった。

[全訳] 米朝シンガポール首脳会談 共同合意文

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20180612-00086398/

共同合意文の三項目に「2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮半島の完全な非核化のため努力することを約束する」という一文が入った。

板門店宣言で南北は、共同繁栄と平和体制の構築、完全な非核化で合意していた。つまり米朝会談を通じ、米朝の目指すところと南北の目指すところが一致することになったのである。

そしてその延長線上に30日の「三者面談」があった。

板門店前で行われたこの会合は、立ち話に過ぎなかった上にわずか5分ほどで終わったが、今後に向けた重要な「枠組み」を作る意味を持つ。文大統領が米朝会談後に語った「今日の出会いで、朝鮮半島平和プロセスの大きな峠を一つ超えた」という言葉がそれを良く表している。

当事者三国が一堂に会し話をするのは一見簡単に見えることだが、70年間誰も実現することができなかった。トランプ大統領の軽いフットワークにより、朝鮮半島問題の解決に向けた動きが立体的になっていることは評価する必要がある。

●文大統領の「いじらしさ」

筆者がこの日、ハッと息をのんだシーンがあった。それは板門店に着いた米韓首脳のうち、トランプ大統領だけが金正恩委員長の出迎えに向かう際、ドアの側にじっと立つ文大統領の姿だった。わずか1秒あまりの時間だったが、文大統領の一途な姿は印象的だった。

何が一途なのか。それは朝鮮半島平和プロセスの「花」をすべてトランプ氏そして金正恩氏に持たせるという徹底した態度だ。さらに文大統領はこの日午前、ソウルで行われた米韓首脳会談の場で「トランプ大統領はピースメーカー」とまで持ち上げている。

「ピースメーカー」という言葉は、韓国では特別な意味を持つ。金大中大統領(98年~03年)の時代から、北朝鮮に対する包容政策(太陽政策)を推し進め、朝鮮半島に平和をもたらすという一種の概念・哲学・行動様式として進歩派知識人の中に共有されてきた。それを惜しげもなく、トランプ大統領に使ったのだった。

このような文大統領の徹底した譲歩からは、「誰よりも頑固」とされる文大統領個人の性格に加え、制裁にがんじがらめにされ独力では動かせない南北関係の現状を変えるために、トランプ大統領を最大限にサポートする文政権の狙いがあるのだろう。

筆者などは「今すぐ三者で朝鮮半島の未来を決められないものか」ともどかしい気持ちが少なからずあるが、トランプ大統領との「ズレ」を最小化させるためには、今は必要な態度とも取れる。

●文在寅は「仲介者」なのか?

日本では「文大統領は蚊帳の外」、「いや、安倍首相こそ蚊帳の外」、「今回の功は誰のものか」といった議論(?)が盛んであるが、これほどまでに無意味な議論はない。韓国は当事者であるため蚊帳の外であることはあり得ない。当然、文政権の北朝鮮政策にはマズいものも少なくない。その評価と「当事者でない」という考えはイコールではない。

そして日本には今後、日朝国交正常化という朝鮮半島平和プロセスにおける、重要なパズルのピースを埋める役割が否応なく待ち構えている。過去2002年の小泉訪朝と同じパターンだ。とはいえ、米朝・南北の会談に日本が関わる方法は今はない。

一方で、こうした議論の背景には、これまで説明してきたような韓国の立場や南北米関係・朝鮮半島問題への理解不足と、さらには日本の言論空間に広がる嫌韓論説が存在している。

保守よりに傾く日本の言説であるが、昨年末、韓国の保守を代表する第一野党・自由韓国党の北朝鮮政策が「軍事的脅威の除去」や「共同繁栄と経済的な相互依存の拡大」、そして「社会文化的連携の強化」といった「平和基調」に転換していることを見逃していないか。時代は「いかに平和を作っていくのか」に完全に移っているのである。

その上で、文在寅政権の役割について考えてみると、南北関係では当事者、米朝関係では両国のサポートを行っていると整理できる。いずれにおいても目的は、前述したような朝鮮半島問題の解決だ。仲介者でもあり、当事者でもあるということだ。