北朝鮮で合同五輪前夜祭…3度目の南北対話はサプライズ尽くし

合意後、握手する南北代表。右列中央が韓国側首席代表の千統一部次官。統一部提供。

17日、南北は板門店で南北実務会談を行い、北朝鮮の平昌(ピョンチャン)五輪への参加について協議した。11項目にわたる合意の詳細と狙いをまとめ、解説する。共同報道文の全訳も合わせて載せた。

10時間以上の長丁場

9日の南北高位級(閣僚級)会談、15日の南北実務接触に続き、今年に入って南北対話は3度目。17日の会談は南北双方から次官級が参加し、板門店の韓国側施設「平和の家」で行われた。

これは、9日に南北が合意した「平昌冬季オリンピック参加と関連する実務会談を開催すること」を実行に移したものだ。双方はこの日、北朝鮮側の派遣団の内訳と、南側がいかに便宜を提供するのかについて議論した。

南側の首席代表は千海成(チョン・ヘソン)統一部次官、代表としてアン・ムンヒョン国務総理室審議官、キム・ギホン平昌オリンピック大会および冬季パラリンピック大会組織委員会企画事務処長が参加した。

会談に臨む南北代表団。左が韓国、右が北朝鮮だ。それぞれ中央に座っているのが、韓国側の千海成統一部次官と、北朝鮮側のチョン・ジョンス祖国平和統一委員会副委員長だ。写真は統一部提供。
会談に臨む南北代表団。左が韓国、右が北朝鮮だ。それぞれ中央に座っているのが、韓国側の千海成統一部次官と、北朝鮮側のチョン・ジョンス祖国平和統一委員会副委員長だ。写真は統一部提供。

一方、北側は首席代表としてチョン・ジョンス祖国平和統一委員会副委員長が、代表としてウォン・ギルウ体育省副相(次官)、キム・ガングク朝鮮中央通信者記者が参加した。北側は次官級2人を投入すると同時に、記者を参加させるなど変則的な編成だった。

午前10時に始まった会議は午後9時5分に終了し、合意内容をまとめた共同報道文が発表された。以下はその全文。太字マーカーは筆者による。

南北高位級会談 実務会談 共同報道文(1月17日)

南と北は2018年1月17日、板門店「平和の家」で、北側の平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックおよび冬季パラリンピック大会の参加に関する実務会談を行い、次のように合意した。

1. 平昌冬季オリンピック大会に参加する北側選手団の参加種目と選手団の規模は、国際オリンピック委員会(IOC)と両側の国家オリンピック委員会のあいだでの協議を通じて決める。

2. 南と北は平昌冬季オリンピック大会の開幕式に、韓半島旗(朝鮮半島旗、統一旗)を掲げ共同入場し、女子アイスホッケー種目で南北単一(合同)チームを構成することにし,国際オリンピック委員会(IOC)と両側の国家オリンピック委員会のあいだでの協議を通じて決める。

3. 北側は230余名規模の応援団を派遣し、平昌冬季オリンピック大会行事ならびに南側と北側の選手たちの競技を応援し、南側の応援団との共同応援を行う。南と北は在日本朝鮮人総連合会の応援団の活動も保障する

4. 北側は30余名のテコンドー師範団を派遣し、南側の平昌とソウルで師範公演をすることにし、具体的な師範公演の日程は引き続き競技していくことにする。

昨年6月、韓国・全羅北道茂朱(ムジュ)郡で行なわれた世界テコンドー選手権大会で演武を行う北朝鮮代表団。文在寅大統領も参加し演説を行った。写真は青瓦台提供。
昨年6月、韓国・全羅北道茂朱(ムジュ)郡で行なわれた世界テコンドー選手権大会で演武を行う北朝鮮代表団。文在寅大統領も参加し演説を行った。写真は青瓦台提供。

5. 北側は平昌冬季オリンピック大会で選手団、応援団、テコンドー師範団などの活動を取材するのに必要な記者団を派遣する。南側は北側記者団の活動を支援し、冬季オリンピック大会に関する取材の支援範囲は、国際オリンピック委員会(IOC)と両側の国家オリンピック委員会のあいだでの協議を通じて決める。

6. 北側の民族オリンピック委員会代表団、選手団、応援団、テコンドー支援団、記者団は、京義線の陸路を利用し往来する。北側の選手団は2月1日に、北側の民族オリンピック委員会の代表団と応援団、テコンドー師範団、記者団は2月7日に南側に移動し、帰還時期は分野別に両側のあいだでの合意に従い便利な時期とする。

7. 北側は競技場をはじめとする選手団、応援団、テコンドー師範団、記者団などの活動に必要な現地施設の点検などのために、1月25日から27日まで先発隊を派遣する。

8. 北側は冬季パラリンピック大会に、障害者オリンピック委員会代表団、選手団、応援団、芸術団、記者団を150余名規模で派遣し、これに関する問題は引き続き協議していくことにする。

9. 南と北が平昌冬季オリンピック大会の開幕前に、北側の金剛山(クムガンサン)地域で南北合同での文化行事を、北側の馬息嶺(マシンリョン)スキー場で南北スキー選手たちの共同訓練を行う。これに関し南側は、現地の施設点検などのために1月23日から25日まで先発隊を派遣する。

10. 北側の代表団は南側の案内と秩序に従い、南側は北側代表団の安全と便宜を保障する。

11. 北側の平昌冬季オリンピック大会参加および金剛山での合同文化行事、先発隊派遣などに関する具体的な実務的問題は、板門店を通じた文書交換方式で協議する。

2018年1月17日

板門店

韓国側首席代表の一問一答「北側高位代表団は未定」

会談終了後、韓国側の首席代表・千海成統一部次官は、ソウル市内の政府中央庁舎に戻り、記者会見を行った。そこで行なわれた一問一答をテーマ別に再構成してみる。語り手は千統一部次官だ。

17日の南北実務会談で韓国側の首席代表を務めた千海成(チョン・ヘソン)統一部次官(中央)。この日、出発前に「平昌五輪が朝鮮半島に平和が定着するきっかけになるようにする」と抱負を語った。写真は統一部提供
17日の南北実務会談で韓国側の首席代表を務めた千海成(チョン・ヘソン)統一部次官(中央)。この日、出発前に「平昌五輪が朝鮮半島に平和が定着するきっかけになるようにする」と抱負を語った。写真は統一部提供

・馬息嶺スキー場での共同訓練

平昌五輪に参加する韓国の国家代表選手が参加するものではない。韓国のスキー協会で選んだ実力ある選手を中心に派遣する。安全面は北側が保障するとしているが、韓国側も最善を尽くし準備する。

訓練の日程は北側では一泊二日を提案してきた。韓国側は選手、関係者、記者も含め参加しようとしている。訪朝経路について、まず23日から25日まで行く先発隊は陸路(編注:江原道高城~金剛山)ルートで行く。途中で金剛山の施設も点検する。さらに葛麻飛行場(編注:カルマ飛行場、元山市にある)も訪問し、飛行機での訪朝する余地も残しておく。

・北朝鮮側選手団の規模

19、20日にスイス・ローザンヌで開催される国際オリンピック委員会(IOC)と平昌五輪組織委員会、そして南北両側のオリンピック委員会での協議によって決まる。

・金剛山での合同文化行事

過去、似たような前例があった。音楽公演と文学、詩の朗誦といった文学イベントも含まれる。参加するのは、文化芸術団体や体育界の市民団体や宗教界の関係者となる。北朝鮮側は、韓国に派遣する芸術団(三池淵管弦楽団)とは別の芸術団が参加する。

具体的な日程は今月23日から25日まで派遣される韓国の先発隊が現地の施設などを点検して決める。だが、五輪開幕が肉薄した時期でなく、それよりも少し前に開催することになる。1月末、2月初頭まで考えられるが、開幕式の一日、二日前といったふうにはならない。

行事は一日で終わるものを考えている。韓国の代表団は日帰りの日程を考えている。移動経路は当然、陸路(江原道高城~金剛山)となる。

・北側の高位級代表団

議題に上ったが、北側は「今後議論しよう」という立場であった。また、9日の共同報道文に含まれていた「参観団」の訪韓は取りやめとなった。(編注:どんな集団なのか不明だったが)冬季五輪の施設を点検するための一団のことだった。

・北側代表団への費用支援

今日は費用について具体的な話は無かった。過去、南北間で行なわれた様々な共同行事や会談などでは、相手側が(編注:開催側、平昌の場合は韓国)が便宜を図ってきた。また、応援団などに対しては(9日の共同報道文で韓国側が)便宜を計ることで合意している。「便宜」には交通費、宿、食事、活動費などが含まれる。

2006年のトリノ冬季オリンピックでも「統一旗」を掲げ南北共同入場が行なわれた。今回、平昌で南北合同入場が行われる場合、五輪では12年ぶりとなる。写真はKTVよりキャプチャ。
2006年のトリノ冬季オリンピックでも「統一旗」を掲げ南北共同入場が行なわれた。今回、平昌で南北合同入場が行われる場合、五輪では12年ぶりとなる。写真はKTVよりキャプチャ。

・南北共同入場

共同入場は過去、夏季オリンピックで2回(編注:2000年シドニー、04年アテネ)、冬季オリンピックで1回(編注:06年トリノ)、各種アジア大会、ユニバーシアードなどを合わせ9度行なわれた。

南北関係が非常に厳しい中、わずか20日前まで、こうして北朝鮮が平昌五輪に参加するとは期待していなかった。共同入場を通じ、南北が和解し団結する姿を見せるのも意味があると思う。共同入場に南北が合意したとはいえ、国際オリンピック委員会(IOC)との合意と承認がいる。

・女子アイスホッケー合同チーム

合同チームを結成するためには、該当する協議連盟などの最終的な合意と承認があって確定する。北朝鮮側の選手が何人含まれることになるかは確定していない。19,20日でのローザンヌでIOCとの協議によって、既存の23人のエントリー以外に追加エントリーが可能なのか決まる。

これに従い選手を選ぶが、韓国の監督(サラ・マレー氏)が全権を持って出場選手を選抜する。北側もこれを了解している。

・朝鮮総連の応援団

北朝鮮側が提案してきた。北側が派遣する250人の応援団とは別途の応援団と聞いている。総連側が宿や競技場のチケット購入などを行う(韓国側は北側応援団と同様の「便宜」を提供しない)。また、旅行証明書の発給などは2002年の釜山ユニバーシアードなどの前例を参考に行う。

南北を結ぶ主要ルートが一時的に「再開通」

今回、新たに南北が合意した内容のうち、金剛山(クムガンサン)での合同行事や、馬息嶺(マシンリョン)スキー場で合同訓練など、北朝鮮でイベントが行われるという点は大きな「サプライズ」だ。

いずれも9日の初めての会談の場で南側が提案していたというが、筆者の知る限り、そうした話は韓国社会に漏れ伝わっていなかった。

では、この2つのイベントはどんな意味を持つのだろうか。筆者は「北朝鮮の中に入る」という点に注目したい。

北朝鮮は今年になって態度を軟化させ平昌五輪に参加することになったが、南北関係は「核」という文字通りの爆弾を抱えており、いつ再び決裂するか分からない。せっかくの対話ムードも、下手をすると「五輪で韓国に来ただけ」になる可能性があった。

それを韓国の人々(記者も含め)が北朝鮮に入ることにより、対話ムードが長続きする可能性が高まった。南北往来の復活とまではいかないまでも、「往来」を既成事実化させたい韓国側の目論見が透けて見える。「行ける時に行ける所まで行こう」ということだ。

南北を分ける軍事境界線の最東端、江原道(カンウォンド)高城(コソン)。前方奥に広がるのが金剛山だ。左側には北側に通じる陸路が見える。2017年12月、高城統一展望台で筆写撮影。
南北を分ける軍事境界線の最東端、江原道(カンウォンド)高城(コソン)。前方奥に広がるのが金剛山だ。左側には北側に通じる陸路が見える。2017年12月、高城統一展望台で筆写撮影。

選手団、応援団250人以上は約2年閉鎖されている開城(ケソン)工業団地を通る道路の京義線ルートを、140人の「三池淵管弦楽団」は分断の象徴・板門店を、そして南北文化行事を行う韓国側代表が2008年7月以降閉ざされたままの東の金剛山へ続く陸路を通ることにより、かつて南北を結んだ主要ルートが「復元」されることになる。

南北関係の全体像は未だ見えず

韓国側はこうした動きを一時的なものとせずに今後、金剛山での離散家族再会行事などにつなげていきたい狙いだ。五輪というスポーツの祭典を、最大限に政治利用する貪欲さが見て取れる。

千統一部次官は17日晩の記者会見で「韓国政府は北朝鮮の核問題と南北関係の進展を並行して推進すると同時に、(北朝鮮に対し)制裁と圧迫だけでなく、対話と協力を通じた努力も並行するという立場から対応している」と強調した。

もちろん、韓国には独自の戦略と原則がある。だが、気になるのは、北朝鮮側がここまで譲歩する代わりに要求する「対価」が明らかになっていない点だ。

韓国政府が朝鮮半島政策を発表…北との「平和共存、共同繁栄」を前面に(Yahoo!ニュース)

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20171125-00078550/

9日の南北閣僚級会談で金剛山、馬息嶺での合同イベントが話されていたというが、前述した通り、17日まで韓国内外でこれを報じたメディアは無かった。この例に見るように、南北が直接会ってどんな話をしているのか、全体の半分も伝わっていないと見るべきだろう。

五輪まで約20日。今後さらなるサプライズが登場することは確実だ。1月末には南北軍事当局会談も行われる。年頭からの韓国の「スピード感」には目を見張るものがあるが、唐突な感じは否めない。もう少し、五輪を含めた一連の「南北関係の全体像」をきちんと見極めて行く必要がありそうだ。