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子どもたち一人一台端末時代になくてはならない存在、ICT支援員の協力を引き出すには <前編>

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの影響もあって、この1年で小中学校が大きく変わったことがあります。そのひとつが、子どもたち一人ひとりに端末(タブレット、ノートPC)が整備されたことです。

ただし、モノは来ても使いこなせるかは別問題。小学生ではローマ字入力も難しく初期設定にも苦労しますし、子どもが扱う以上破損などのトラブルはつきものです。先生たちのなかにも苦手という人は少なくありません。

そこで、期待されているのが、GIGAスクールサポーターやICT支援員と呼ばれる、外部人材です。国も予算措置して、こうした人材が各地の学校で活躍できるように支援しています(次の資料)。

忙しい先生たちが自分たちだけで頑張るのは、限界があります。ICT支援員らとうまく協働しながら、学校のICT活用を進めてくためには、どういうことに注意したらよいか、自身も20年以上学校のICT導入・活用支援に携わり、支援員らの研修も行っている五十嵐晶子さん(合同会社かんがえる代表、以下敬称略)に伺いました

出所)文部科学省資料
出所)文部科学省資料

※上記の資料のとおり、多少のちがいはありますが、この記事ではGIGAスクールサポーターとICT支援員をひっくるめて、支援員と呼びます。

妹尾:

五十嵐さんは約1年前に起業されていますね。どういった思いから、学校のICT支援の事業を始められたのでしょうか。

五十嵐:

新型コロナのことはたまたまだったのですが、ちょうど全国一斉休校がはじまった昨年の3月から会社を立ち上げました。

いまも、以前もそうですが、「ICT(IT、情報通信技術)ができて、子ども好きな人はいますか?」ということで募集して、ICT支援員を導入している地域がほとんどです。ですが、学校のことがわからない人がいきなり職員室に入っても、何を支援したらよいかわからない状態となりがちです。先生方も忙しいので、うまく分担できないケースも多いです。

いくらICTが得意な方でも、学校側のニーズにこたえられるとは限りません。そこで、学校で配慮してほしいことや、快適に働くための基礎知識、学校特有のソフトウェアや機器についてなど、支援員の方、支援員事業を営む方にお伝えしたくて、起業しました。

お話を伺った五十嵐さん(写真、プロフィールは本人提供)
お話を伺った五十嵐さん(写真、プロフィールは本人提供)

五十嵐:

わたしは、もともとシステム開発のSEをやっていまして、その後イラスレーターに転向しました。いまもイラストレーターは会社の部門を作り続けています。

20年くらい前から、公立小中学校のICTサポート、オフィスソフトから学校特有のソフトウェアの教員研修などもしてきました。その当時は情報アドバイザーという呼称でした。

近年はICT支援員の育成、マネジメントにも携わっていて、神奈川県内のICT支援員を長く見ています。起業してからは、他県の自治体様ともご縁をいただき、先生たちが少しでも楽になってほしいという思いから、いま約70人の支援員さんと一緒に学校のICT推進のお手伝いをしています。

妹尾:

ぼくもスクール・カウンセラーら向けに学校理解を深める研修講師を務めたことがあります。専門性や得意なこととは別に、支援先の学校のことを知ることは大事ですよね。

ここで、少しデータを紹介しておきたいと思います。新型コロナの影響もあって、小中学校で児童生徒一人一台端末の整備が急ピッチで進んでいます。文部科学省の調査によると、昨年度内にほとんどの小中学校に端末は届いています。

ところが、活用はまだまだこれからという学校も少なくありません。教育新聞社がこの4月上旬に実施した教員向け調査によると、端末を「授業で日常的に活用している」と答えた人は19.3%、「端末が届き、授業で時々活用している」が11.8%となった一方で、「端末が届いたが、児童生徒に配布していない」は37.3%でした(教育新聞4月7日、8日記事、回答数は357)。

学校ごとに差はありますが、なぜ、活用は進んでいないのでしょうか。ひとつは、一部の教育委員会の動きが鈍いことです。たとえば、教員用に児童生徒と同じパソコンが整備されていなかったり、研修もきちんとできていなかったり。セキュリティが厳しすぎて、アプリやクラウドの利用制限が厳しい自治体もあります。

もうひとつの背景としては、先生たちが忙し過ぎて、なかなかICTの導入や活動に手が回っていない現実があります。

そこで、期待されているのが、先ほどからお話に出ているGIGAスクールサポーターやICT支援員と呼ばれる、外部人材です。ただし、自治体や学校のなかには、こうした支援員が配置されていないところもあるようですね。

五十嵐:

ICT支援員の配置については国からも財政的支援が出ていますが、各学校や教育委員会としては、どこに頼んだらよいか、わからないというケースもあると思います。

また、見積もりをもらったところ、思ったより高いなということで躊躇する教育委員会もあります。国の補助も教育委員会の積算も、時給換算でのその人の従事時間にかかる人件費しか見積もっていないことは問題で、人を雇うときには、社会保障や労務管理、育成の費用も必要ですよね。最低賃金で雇うといくらだよねという、単純計算の見積もりでは不十分なんです。

文科省の予算では4校に1人の計算で、ICT支援員が全国に配置されるように支援しています。これは、週に1回フルタイムで勤務したら、4校行けるよねという計算なんです。月曜は祝日ということも多いので。しかし、一人が4校も回ると、疲弊してしまいます。せめて3校に1人、または年間の勤務日数をよく考慮して余裕をもった計画にしないと、人でないような働き方になってしまいます。わたしたちの仲間には、冬場はボロボロになっている人もいます。機械の導入とは違い、簡単に替えもききません。

モテモテで忙しくてもたいへんですが、職員室で自分の席もなく、居場所がないと、用がなくて本当にさみしいときはメンタル的にもきつい仕事です。

妹尾:

学校で事務作業や印刷などを支援するスクール・サポート・スタッフにも同じことが言えますね。職員室でのちょっとした声がけや配慮は大事だと思います。また、単価や派遣頻度については、国に改善してほしいですが、自治体ももっと予算化してほしいですね。

ぼくも安上がりでいいとは思いませんが、当面支援してくれる外部人材がすぐにはいないとき、学校はもっと保護者にもSOSを出してもいいのでは、と思います。保護者のなかには仕事や趣味でICTにとても詳しい人もいます。

ある中学校で実際に聞いた話ですが、「箱から出して初期設定するだけでも、たいへんなんです」と先生方は言うんです。保護者の有志には、手伝いますよと言う方もいたのですが、うまく連携できていませんでした。

とはいえ、学校独自のセキュリティ制限などもありますし、保護者頼りばかりでも困るとは思っています。

五十嵐:

学校のネットワークにアクセスできるようになることはリスクになる、という認識は必要です。校務系と言って成績などが入る情報システムと、授業などで使う学習系のシステムは別立てのところも多いですが、学習系にも子どもたちの作品などはあり、わたしたちがICT支援する時は、データに触れることが可能となります。守秘義務や秘密保持の契約をきちんと結んでおくことが必要です。保護者が支援に入るときにも、こうした点を曖昧なままにやってしまうのは危険です。

また、ICT支援員さんたちは日常的に職員室に出入りするわけですが、成績関係の書類がそのへんの机に置いてあることはよくあります。教育委員会がフィルタリング等を厳し過ぎるくらいガチガチに固めているのに、守秘義務に関する取り決めなどはゆるいと感じるケースもあります。ICT支援員にならなんでも任せていいのではなく、賃金も低く抑えるなら、業務内容をしっかり決めて、個人のスキルに関わらず、やって良いことを明確にすることが大切です。

保護者に支援をお願いするときには、パソコンに関わる仕事を仕分けて、単なるキッティングや充電できているかのチェックなど、一定のものに限定してお願いすることが大事だと思います。特にパスワードの管理には十分に配慮をしていただきたいです。

妹尾:

なるほど。お願いできることと、お願いできないことを分けないといけないということですね。

とりわけ小学生ですと、キッティングから使い慣れるまでの間にはさまざまな難しさやトラブルもあり、個々の児童にケアが必要なこともありますよね。でも1クラス35人とか40人といった規模の学校もあるので、先生1人でみるには限界があります。もう少し人手がいたほうがよいよねというときには、支援員や保護者がもっと関わったほうがよいと思います。

写真はイメージ
写真はイメージ写真:アフロ

五十嵐:

「うちの学校、自治体では支援員が配置されていません」というケースも、外部人材にお願いする仕事の仕分けができていないことが背景のひとつにあります。

ICT支援員がこういう業務改善のために必要であるという説得力がないと、十分なご予算を確保することは困難でしょう。

先生方は、学校で起こることすべてがご自分の仕事だと思うのではなく、教員免許が必要でないものを切り分ける発想、人に任せるという発想も持っていただけたらと思います。

逆に、「なんでもお願いね」となるケースもよくあります。わたしが関わったある学校では、電源が入っているものならすべて聞かれました。初めて見るチャイムのシステムのトラブル対処を頼まれても、困りますよね。それでも役に立ちたくて頑張ってしまう方もいます。しかし、無理をさせればミスも起きがちです。

予算の関係もあって、月1回しか支援員が来られないという学校もあると思いますが、たまに来ても支援可能な業務なのか、現実的に支援可能なものをある程度明確にしておかないと、先生方も依頼しづらくなり、活用できません。

妹尾:

省庁や自治体もそうですが、外部に委託するとき、仕様書がしっかり書けるところもあれば、バクっとしか(漠然としか)書けないところもあります。その話と似ていますね。”協働”と言うと、言葉は美しいですが、こんなことを協力してほしいと明確にしておく必要があります。

ICT活用についてもそうですし、ぼくがよく関わっている学校の働き方改革、業務改善などもそうなのですが、どうも、教育委員会職員や先生方のなかには、大事なステップを踏まずに、特効薬があるかのように、何かに期待するというところがあります。外部人材は万能ではないし、何でも屋でもありません。

自身の仕事を切り分ける、「そんな検討をする時間すら取れない」という学校現場の忙しい実情も理解できますが、大事なステップは確保しないと、結局はあれもこれも自前で頑張ることになり、さらに先生たちは疲弊してしまう。悪循環になりかねません。

後編に続きます>

※妹尾の記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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