【教員採用の倍率を上げるには?(1)】 広報の充実では効果は疑問

(写真:アフロ)

 教員採用試験の倍率低下が続いています。2019年度には公立小学校では過去最低を記録(2.7倍)。中学校、高校は小学校ほどではありませんが、低下傾向です。(ただし、これらはあくまでも全国平均であり、地域差は大きい話です。)

 あとで紹介しますが、文科省も各地の教育委員会も倍率低下を食い止めたいと意気込んでいます。しかし、なかなか妙案がある世界でもありません。どうしていけばよいでしょうか?きょうはこのテーマについて考えます。

出所)文科省「令和2年度(令和元年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況のポイント」
出所)文科省「令和2年度(令和元年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況のポイント」

■倍率が高ければいいのか?低倍率の何が問題か?

 仮に採用倍率が高い場合でも、それで安心、という単純な話でもありません。

 たとえば、高校の先生になるには、最近でも10倍以上という地域・教科もありますが、だからといって、そこで採用されたかたが「いい先生(いわゆる優秀な人材)」とは限りません。

 逆に倍率が低くても、定員割れしておらず、とてもいい人材がエントリーしてくれているならば、採用上は大きな問題とは言えないかもしれません。むしろ、採用というのは筆記試験や面接をするなど、コスト、手間はとてもかかりますから、いい人材が低倍率で集まってくれることは、”コスパ”(コストパフォーマンス)のいい採用ということで、評価できます。

 ところが、教員の場合、低倍率は深刻な問題を引き起こしかねません。ここでは3点に整理します。

 第一に、講師バンクが枯渇する問題です。教員の場合、採用試験に不採用になったかたの一定数が講師という臨時的任用になることが多く、正規職が足りない現場を支える一員ともなっています。倍率が低いと、講師のなり手も少なくなり、とても困ったことになります。たとえば、年度途中に産休や病気休職(多くはうつなど精神疾患)で欠員が生じた学校で、講師が見つからず、担任のなり手がおらず、教頭が代行するしかないといった事態も珍しくありません(教師不足、講師不足の問題)。

 第二に、公立学校の教員採用では、日程が重ならないかぎり、複数地域を併願できますから、倍率が1倍台のところなどでは、実質、いい人材を選んでいられる状況ではない、という声も教育委員会等から聞きます。言い換えれば、「この人不安だな」という人も採用せざるを得ないということかもしれません。

写真はイメージ
写真はイメージ写真:Paylessimages/イメージマート

 第三に、「最近は小学校の先生になるのはラクらしいよ。倍率が低くて心配だよね」といった認識が世間に広がればーーその認識が事実として正しいものかどうは、ともかくとしてーー保護者や社会の学校、教師への信頼、評価を落とすことになりかねません。保護者等の信頼が低いと、学校と家庭等との関係がギクシャクしたり、教師は自信をもちにくくなったりする可能性があります。それは子どもたちにも悪影響です。

■文科省も人材確保プランを発表、しかし、中身は・・・

 そこで、やっと重い腰を上げてきたのでしょうか、文科省も危機感を強めているようです。今月2日には「『令和の日本型学校教育』を担う教師の人材確保・質向上プラン」を発表しました。

 ちょっと文字が多くて見づらいと思いますが、プランの資料(2枚)をここにも掲載しておきます。

出所)文科省ウェブページ(上記プラン)
出所)文科省ウェブページ(上記プラン)

 社会人から(教員に)もっと転職しやすくすることや免許更新制を見直すことなど、重要な内容が並んでいますが、「本当にこれらの内容で大丈夫だろうか?」と不安に思われたかたもいるのではないでしょうか?わたしもその一人です。

 いくつか疑問が浮かびます。こちらも3点に整理しておきます。

 第一に、教員採用試験の倍率低下の背景、要因にミートした対策となっているだろうか、という疑問です。倍率低下の背景については、前回のわたしの記事でも書きましたが、採用者数の増加と受験者数の減少に分けて考える必要があります。

前回の記事:小学校の教員採用倍率が過去最低。なぜ倍率低下は起きているのか?

 採用者数の増加について。都道府県・政令市にとって計画的な採用がしにくくなっている要因に注目する必要があります。少し専門用語を使いますが、たとえば、加配定数と言って、毎年の財務省と文科省との折衝で教員定数の標準的な予算枠の一部が決まるので、中長期的な採用計画を立てづらく、一部を非正規雇用に頼らざるを得ないし、定年退職者が増える時期に大量採用することになった、という自治体もあるかもしれません。

 あるいは、各自治体の予算事情と折衝が厳しさを増し、中長期的な採用計画を実行しづらかったということもあるかもしれません。

 また、地域によっては、特別支援や日本語指導を必要とする児童生徒が急増していて、そのための先生を確保したいという事情もあるでしょう。

 以上述べたことは、国の役割や政策だけで解決する問題でもありませんが、文科省の上記プランは、こうしたことに対応した対策になっているのか、十分には見えてきません。

写真:アフロ

■”広報の充実”で解決するような問題なのか?

 次に、受験者数の減少に注目します。さまざまな事情が絡んでいると思いますが、ひとつは長時間労働の実態(≒プライベートを犠牲にしないといけないときも多いこと)や、初任の頃から重責を負う仕事であることにより、敬遠されている可能性があります。

 これに対して、文科省のプランでは「教職の魅力の向上に向けた広報の充実」とありますが、前述した背景・要因とあまりミートしているようには思えません。また、自治体のなかにも、「教師はやりがいがあるよ」というPR動画やパンフレットを一生懸命作っているところも多いですが、同様です。

 なぜなら、学生には、自身が児童生徒だった頃の経験も、教育実習などもありますから、教師の仕事が子どもの成長に関われる、やりがいがあることは百も承知という人が多いからです。なのに、採用試験を受けない、あるいはもっと前段階として、教員免許の取得をやめてしまう学生さんも多い、あるいは教育学部に行きたいと思わないのは、何が原因なのか、しっかり直視する必要があります。

 むしろ、魅力があるよというPRばかりが先行すると、やりがいだけ強調して「国や自治体は抜本的な問題解決をしようとしていない」というメッセージに映ってしまうかもしれません。そうなると、広報は逆効果です(※)。

(※)教員についてはネガティブな報道等も多いので、広報にはよい部分もあるとは思いますが、広報だけ先行するのは逆効果かもしれないという問題を申し上げています。

東京都教育委員会は高校生向けにもパンフレットを作成(その表紙の一部を抜粋)
東京都教育委員会は高校生向けにもパンフレットを作成(その表紙の一部を抜粋)

 第二に、これまでの政策の検証や反省点がほとんど見えてこない問題です。今回にかぎったことではありませんが・・・。一例を挙げると、採用される教員の質には、養成段階の大学等の影響も大きいことは予想できますが、これまでの大学教育等のどこがよくて、どこに反省点があったのか、そして文科省や教育委員会のこれまでの関与(あるいは管理、介入)はどのような功罪があったのか、よく振り返る必要があります。

 反省なく、追加ばかりするようでは、大学も学生もパンクしてしまうでしょう。「大学にばかりあれもやれ、これもやれと次々と期待されても困る」という声も聞こえてきます。

 インターネットやAIなどがどんどん便利になる時代に、子どもたちには、AI等で代替しにくい思考力や創造性を育むことが重要視されています。それにもかかわらず、教師の卵(学生ら)には、じっくり思考力や創造性を高める余裕を大学教育等から奪っているかもしれません。皮肉なことです。

 それに、過去を検証するという意味では、重要な変化は、2005年以降の政府の規制緩和です。それ以前は国立の教員養成系の大学が中心であったところ、私立大学等で小学校教員の養成を行えるところが急増しました。これは教員需要の増にこたえてきたというよさなどもあったのですが、一方で、大学教育や養成される教員の質がどうなったのか、見ていく必要があると思います。

■いまいる先生は大切にされているか?

 第三に、現職教員に対する政策が弱い(手薄である)、という問題があります。文科省の先ほどのプランもそうですし、教育委員会の取り組みにも(十把一絡げに論じられるものでもありませんが)そういう側面はあるかもしれません。

 文科省のプランでは、「教師として働き続けてもらえる環境をつくる」という箇所で、出産・育児等で離職した人への復職支援と免許更新制の見直しが書かれていますが、それだけで十分とは言えないと思います。

 また、広報の充実と並んで「学校における働き方改革の推進、教師の処遇の在り方等の検討」とあります。OECDの調査でも、日本は教員の給与水準が下がっていますが、他の先進国では給与水準を上げている国も多いです。日本はギリシャ、英国に次いで3番目に下落率が高い国です(2019年9月10日)。また、前述のとおり、採用試験の受験者数の減少には、教員の過酷な労働実態や処遇の問題が影響している可能性は高いです。

 しかし、上記プランでは「学校における働き方改革の推進、教師の処遇の在り方等の検討」は「令和4年の勤務実態調査等を踏まえ検討」となっています。これまでの傾向では、調査をして、分析結果が出るまでに半年から1年かかり、その分析結果などを踏まえて中央教育審議会などで審議・検討し、また1~2年くらいかかり、さらにそのあと予算を取って制度変更・政策変更ができるまでに数年かかって・・・。

 つまり、「令和4年の調査を踏まえ検討」では、実際に学校現場に変化が起きるとしても、この先5年も6年も(あるいはそれ以上)先送りになってしまう可能性もあります。しかも、少子化と高齢化(社会保障費の増等)のなかで、国(財務省)もおいそれと巨額の予算を認めるわけがないので、大きな予算措置が実現するとみるのも楽観的過ぎます。

 今回の文科省のプランはあくまでも「当面の対応として」(同省ウェブページ)ということなので、大きな予算がかかることは書きにくかったでしょうし、このプランの項目以外にも重要な課題があるとは、文科省のかたもおそらく考えていると思います。とはいえ、肝心なところをのんびりしている場合ではないし、仮に「広報の充実」や「大学にもっとしっかりしろと言っていく」くらいで対策したつもりになるとすれば、事態はたいしてよくならない、と思います。

※次回の記事でも、どんな対策が必要かについて考察、提案します。

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