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少人数学級にする必要性と優先順位は高いのか?(3)先生の負担は減る?

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 コロナ禍のなか、少人数学級の導入を求める声が大きくなっています。これまでの記事では、少人数学級を主張する論拠、理由として3点に整理して検討を進めました。

1)新型コロナウイルス対策として、感染予防(または感染拡大防止)のため。

2)少人数学級になると、教師はより丁寧に一人ひとりの子のことを見られるようになるため。それにより、学力や心のケアなどの点でメリットが大きい。

3)教師の負担軽減のため。

 この記事では、3)の論点を中心に、2)も含めながら考えます。小学校、中高などで少人数学級が実現すると、先生の負担は減るのでしょうか?

◎前回までの記事

少人数学級にする必要性と優先順位は高いのか?(1)コロナ対策としての有効性への疑問

少人数学級にする必要性と優先順位は高いのか?(2)”きめ細かな指導ができる”って、本当?

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

■1クラスあたりの児童生徒数が増えると、勤務時間は長くなる傾向

 わたしが調べたかぎりでは、少人数学級と教員の負担との関係を研究したものは、少ないです(いい資料があれば、文科省も使っているはずです)。

 ただし、近いエビデンスはあります。2016年に国が実施した教員勤務実態調査という大規模な調査があります。小学校、中学校をそれぞれ約400校、小学校教員約9千人、中学校教員約1万人が回答しました。大勢の教員が過労死ライン超えをするなど、学校現場の過酷さを示した調査です。※残念ながら、高校等は調査されていません。

 この調査をもとに、教員の勤務時間の長さは何の影響を受けるのか、統計分析したものがあります(リベルタス・コンサルティング「公立小学校・中学校等教員勤務実態調査研究」、以下のデータはこの報告書より抜粋)。

 次の結果は、小学校教諭についてです。平日の勤務時間の長さに影響するものとして、「担任学級児童数」というのが有意な結果となっており、かつ、標準化係数といって影響の大きさを示すものも比較的大きく出ています。つまり、担任する学級の規模が大きいほど、平日の勤務時間は長くなる傾向が見られる、ということです。

前掲、報告書(強調箇所は引用者)
前掲、報告書(強調箇所は引用者)

 次に中学校教諭について。こちらも、「担任学級児童数」が多いほど、平日の勤務時間が長くなる傾向が確認できました。なお、周知のとおりですが、中学校の場合、部活動の長さも、平日や週末の勤務時間の長さに大きく影響していることが統計的にも確認できます。

前掲、報告書(強調箇所は引用者)
前掲、報告書(強調箇所は引用者)

 この結果から、少人数学級を進めることは、教員の負担軽減に一定の効果がありそうだ、と推定できます。

 おそらく、こういう理屈ではないかと思います。学級あたりの児童生徒数が少ないほど、採点や添削をする数も減ります。通知表だって、書かないといけない数は減るわけです。また、中学校では担任をしない場合、学級活動や行事の準備に関わる負担は減る場合がありますから、その分、勤務時間は減ります。

 さらに、仮に児童生徒の問題行動や学級の荒れ、学級崩壊などが起きる確率が、どの子も同じくらいだと仮定すると(学級崩壊等はもちろん子どもが原因とは言えないこともありますが ※)、児童生徒数が少ないほど、問題等の発生確率も下がります。同様に、ややこしい保護者やクレーマーに出会う確率も、学級規模が小さくなるほど、低くなる可能性があります。

(※)現実は子どもも、教師も、保護者も多様ですから上記の通りとは言い切れないのですが、あくまでも傾向として述べています。

■少人数学級だけでは、教師の過重労働は解消しない

 ただし、いくつか留意点があります。

 第一に、紹介した調査分析では、小中学校の教諭の勤務時間に、担任する児童生徒数が影響するということは確認できましたが、学級規模が小さくても、過労死ラインを超えるなどの過酷な勤務実態を解消するほどであるかどうかは、わかりません。

 この点とも関わりますが、第二に、少人数学級となって、採点や通知表の時間を多少節約できたとしても、別の業務をより丁寧に行うことで、結局は長時間労働となってしまうことが想定されます。実際、わたしは小規模校(1学級に数人~十数人の児童生徒数)に取材をしたこともありますが、そこでも長時間労働は深刻でした。宿題へのコメント返しや行事の準備などをより丁寧にしたりするからです(そのことを一概にいい悪いと言える話ではありませんが)。たとえば、中学校や高校では、採点等を時短できたとしても、部活動に熱を入れすぎると、すぐ過労死ライン超えになってしまうでしょう。

 第三に、前回の記事にも書きましたが、現在も独自に少人数学級を進めている自治体はありますが、そのぶん必要な教員を、非正規雇用でかなり賄っているところもあります。あるいは、「級外」と呼ばれますが、学級担任をしていなかった人を少人数学級のために、担任に持っていくということがあります。こうした場合、正規の教員は実質増えておらず、負担軽減につながらないケースもあります。

 第四に、教師の負担軽減のためには、たとえば、部活動を教員の手から離したり(部活動指導員にお願いしたり、地域団体が担うようになったり)、行事のあり方を見直したり、採点や事務作業にICTを活用したりするなど、たくさんやるべきことがあります。

 つまり、こういうことです。少人数学級になれば、教師の負担軽減になる可能性はありますが、少人数学級の実現だけで今日の過重労働を解消できると考えるのは、楽観的ですし、教師の負担軽減のためには、もっと低いコストで効果的な方法もあるはずです。

 次回の記事では、これまでの記事で点検、検討したことを踏まえて、少人数学級という政策の必要性、優先度を他の政策と比べながら考えます。

※次の記事:少人数学級にする必要性と優先順位は高いのか?(4)他の政策(選択肢)との比較

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●妹尾の記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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