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酷暑のなか、学校は休みにできないか? せめて部活は中止にならないか?

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
環境省「熱中症予防情報サイト」の明日12時の暑さ指数予測(図は一部編集)

 全国的に猛暑が続いていますね。暑い、暑い、暑い。そんななか、昨日や今日から学校がスタートした地域も多くあります。今年の夏休みは例年よりも半分以下になった学校も多くあります。

 最高気温を示す天気予報図が連日、全国的に真っ赤になっています。「これほどの異常気象なら、無理に新学期をスタートにせずに、休み(夏休み延長など)にしたほうがよいのではないか」。そんな声も、保護者や教職員、それから子どもたちからも聞こえてきます。きょうはこの問題について、取り上げます。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

■校長の責任で、学校を休みにはできる

 法令上は「非常変災その他急迫の事情があるときは、校長は、臨時に授業を行わないことができる。」となっています。(※)

(※)学校教育法施行規則第63条。小学校の規定ですが、中学校や高校等にも準用。新型コロナやインフルエンザなど感染症対策で休みにする場合は別(学校保健安全法)。

 地震のときなどはもちろんですが、台風に備えて学校を休みにする場合もこの規定に基づいて判断している地域は多いと思います。だったら、熱中症リスクがすごく高いときなどにも、この規定を使えるかもしれません。

(8/19追記)文科省の通知文のなかでも、上記63条の「非常変災その他急迫の事情があるとき」には、熱中症事故防止のために必要がある場合も含まれる、との説明があります。

 とはいえ、猛暑なのは近隣ではどこも同じでしょうから、同じ市区町村内のA小学校は休みにして、となりのB小学校は授業をするというふうにはしにくいと思います。そのため、校長同士、あるいは市区町村教育委員会(県立学校などの場合は都道府県教委)のほうで調整をして、判断する必要があります。台風のときも、市区町村でこういうときは休みにするというルールを統一していますよね(例:朝7時に暴風警報が出ているとき)。

■熱中症の発生は圧倒的に部活動中が多い

 おそらく、多くの教育委員会、学校では、熱中症リスクを想定した臨時休業(休校)の可能性はあまり検討してきていないのではないでしょうか。水分補給するなどして対策していれば、大丈夫だろう、という想定だと思います。

 実際、熱中症の発生は、部活動のときが圧倒的に多く、あとは体育の授業や運動会、体育祭、球技大会のときなどです。独立行政法人日本スポーツ振興センターの統計によると、平成30年度の熱中症発生件数は、小学校で579件、中学校で2,912件、高校で3,554件です(この統計は、同センターが医療費の給付を行った事案についてカウントしたもの)。このうち、中学校について言えば、運動部活動での熱中症発生が7割近くを占めています(68.7%)し、高校でも6割が運動部活動中です(61.0%)。

 なお、平成2年度~24年度までのデータ分析結果によると、学校管理下での熱中症による死亡事故は80件起きていて、その多くが部活動中です。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

 校長や教育委員会の大方の見立てとしては、「部活動や体育の授業、運動会などの行事のときには特に熱中症に気をつける必要はあるが、学校を休みにするほどではない」というものかもしれません。これは経験則に基づく前提ですが、上記のとおり、データでもある程度裏付けられます。

 日本コカ・コーラ株式会社が公益財団法人日本学校保健会と共同で全国の幼稚園や学校等1,623校に今年調査したところ(※)、熱中症対策としては、1位「ほけんだよりの配布」(97.8%)、2位「ポスターの掲示」(91.9%)、3位「朝礼・終礼での声かけ」(63.3%)、4位「水分補給タイムの導入」(42.3%)、5位「保護者会等での保護者への呼びかけ」(13.9%)であり、児童生徒や保護者へ呼びかけることと、水分補給をすることがメインです。

(※)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000470.000001735.html

 とはいえ、これは、これまでの経験とデータに基づくものです。今年のような暑さはまさに異常が続いていますし、これほど8月に登校させる小学校等も去年までは多くなかったです。過去の延長線上で、今年を考えると、判断を誤る可能性もあります。「自分のところで大きな事故が起こることはないだろう」と想定してしまうわけです。「正常性バイアス」とも呼ばれるものですね。

 実際、今月7日には足立区の小学校で体育の授業をしていた児童7人が、熱中症とみられる症状を訴えて病院に運ばれています(NHKニュース8/7)。

■暑さ指数としても危険サインが出続けている

 暑さ指数(WBGT)という熱中症予防を目的として開発された指標があります。気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、その値は気温とは異なります。暑さ指数(WBGT)は湿度、 日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 気温の3つを考慮して作られているそうです。次のデータは昨日(17日)の12時時点の暑さ指数のランキング(環境省「熱中症予防情報サイト」)。この時間帯、下校する子どもたちもいたわけですが、非常に高い数値となっています。

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 暑さ指数31℃以上は「危険」水域です。次の説明をご確認ください(環境省「熱中症予防情報サイト」から抜粋)。

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 次のデータは、明日12時の暑さ指数の予測値です(同サイトより抜粋)。西日本や関東などでは「危険」です。なお、明後日も危険地域が多い予測となっています。

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■クーラーが付いたから、大丈夫?

 豊田市の小学1年生の児童が熱中症で死亡した事故がありました。2018年のことです。これもあって、教室での空調(冷房)の設置は国の補助などもあり、ずいぶん進みつつあります。文科省の調査によると、令和元年9月時点では小中学校の普通教室での空調の設置率は77.11%となっています。

 ところが、いくつか注意があります。第一に、地域間格差が大きいことです。たとえば、同じ四国でも、徳島県96%、香川県100%に対して、愛媛県58%、高知県57%です(小中学校の普通教室、令和元年9月時点)。暑そうな宮崎県(46%)、鹿児島県(54%)なども低い率です。

 第二に、理科室、図工室などの特別教室の設置率は低いです(小中学校の全国で48.5%)。体育館にいたってはほとんど設置されていません(全国データで3.2%)。

 第三に、クーラーをつけても、地域や設備によっては、暑いケースがあります。しかも、今年はコロナ対策もあって頻繁に換気も必要となっています。ある小学校教諭から聞いた話では、エアコンを18度設定にしても、昨日はずっと教室のなかは30度以上だったそうです。

 地域差、学校差もある話なので、一概に言えることではありませんが、「クーラーが設置されたから大丈夫でしょ?」とは言い切れない現実があります。この異常気象のなか、熱中症のリスクとしても心配ですし、暑さでまいってしまい、子どもたちも勉強する気になれない、というケースも多々あることでしょう。

■学習の遅れの心配や部活の大会よりも、命、健康が第一

 当たり前の話なのですが、命、健康あっての学習、学校です。

 各地、さまざまな工夫をしているところもあります。日傘での登校を勧めたり、日傘を支給したり、校内でもミストシャワーを設置したり。水でぬらすと冷たくなる「クールタオル」を配った学校もあるそうです(朝日新聞7/19)。

 とはいえ、先ほども紹介したように、この暑さ指数の危険度をみると、こうした対策ではたして大丈夫なのだろうか、と疑問にも思えます。わたしは医師でもないですし、熱中症の専門知識はありませんから、評価はできませんが、文科省や教育委員会では、専門家を交えて、学校での暑さ対策の実態を検証し、一定の基準のもと臨時休業にすることも検討するほうがよいのではないでしょうか。たとえば、暑さ指数で危険レベルなら、部活動や体育での運動は中止する、小学校低学年は休みにすることも検討するなどです。

 仮に今年、このまま学校を再開する地域が増えて、深刻な熱中症事案はあまり発生しなかったとしましょう。それはそれでいいことですが、正常性バイアスを助長してしまうかもしれません。重大な事故が起きてから、「想定外」だったではいけないと思います。

 甲子園での交流試合なども、やるときではないでしょう。学校も体育団体等も、教育に携わる組織であるならば、教育上なにを重要視するのかが問われていると思います。

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https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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